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 日テレ系ドラマ『ゆとりですがなにか』。その名のとおり、まさに『ゆとり』と言われる若者たちが、社会で葛藤しながら生きるさまを描く人間ドラマだ。

「日曜夜10時30分からの放送ということもあってか視聴率こそふたケタに届いていませんが、テレビ離れをしている若者に受けているみたいですね。ドラマ内で話されるセリフが“共感できる”と、ゆとり世代の心をつかんでいるのでしょう」(テレビ誌記者)

 脚本を担当するのは、ヒットメーカーの宮藤官九郎。劇中で繰り広げられる“クドカン節”が、どうやら彼らの心に響いているようだ。

「今回、脚本を書くにあたって、クドカンさんは実際にゆとり世代のサラリーマンたちに、自分を取り巻く環境や周囲からの視線などの実態を取材したそう。“会社辞めまーすwww”と『LINE』で辞職願を出すような、究極の“ゆとりモンスター”社員は劇演出でしょうが、ゆとり教育以前との“狭間”にいる“第一世代”のリアルが見えます」(テレビ誌記者)

■ナンバーワンにならなくていいとか言っといて

 28歳から29歳にあたる“ゆとり第一世代”が、主な登場人物となる本作。食品メーカー社員として7年間の勤務の末、本社営業から焼き鳥店店舗勤務に出向が命じられた「坂間正和」を演じる岡田将生。

 慣れない店舗でミスを連発するも叱られない自分。そして営業時代に部下を叱れなかった自分を思い出す。

《はなから期待されていない、必要とされていない、数に含まれていないからです。だから……、叱られた経験のない人間が部下を叱れるわけがないんです》

 その後、同じ第一世代で小学校教諭の山路一豊(松坂桃李)と飲みに行き、酔った勢いで愚痴をぶちまける。

《ナンバーワンにならなくていいとか言っといて……、社会に出たら同期のヤツと比べられて……》

「『ゆとり』は親というよりも、社会の過保護の中で育ってきました。勉強、カリキュラムが薄くされただけではなく、例えば、“競争がかわいそう”と、成績を貼り出さない。“スポーツができない子がかわいそう”と、運動会では手をつないでゴールイン。

 あげくの果てには“いじめがかわいそう”と、仲間はずれも絶対に禁止。人の悪口や“KY”なことを言って仲間はずれにされたとしても、先生が“いけません”と」

 そう話すのは、ゆとりに関する著書も多数手がけている精神科医の和田秀樹氏。彼らは、1番を目指すことをさせない、競争からかけ離された世代とも言える。

「大人になって、社会に出てからも周りがゆとってくれているのであれば整合性もありますが、大人が勝手に競争やガリ勉に否定的なことを言っておきながら、社会に出てみると競争が待っていた。餌のとり方を教えてもらえずに野に放たれたようなものです。“全然違うじゃないか”というのは、彼らの本音としてはあると思います」(和田氏)

■ゆとりなんて言葉でくくらないでください

 ひょんなことから客引きの道上まりぶ(柳楽優弥)に騙され、ボッタくられた坂間と山路。偶然にも2人の相談相手“レンタルおじさん”こと麻生(吉田鋼太郎)は、道上の父親だった。彼もまたゆとりだと麻生から知らされた坂間。

《クズでしょ。オレも、山ちゃんも。アンタの息子も。だけどみんな違う。みんなクズだけど、それぞれ違うクズなんだから。ゆとりなんて言葉でくくらないでください》

 右にならえの世代とも言われるが、やはり自分は自分、一緒くたにはされたくない。

 道上の自宅を訪れた坂間と山路。妻子ある身ながら医者か弁護士を目指して、11年間浪人中。一方、大学や会社を選んだ動機を「入れそうなとこ。内定もらえそうなところ」と、無難な坂間に道上は言う。

《すげえな。入れそうな大学入って、入れそうな会社入って辞めずに続けてんだよ。すごくね?(略)ゲームでいったらレベルアップしないで何回も何回も同じこと繰り返してるわけじゃん。余裕でクリアできるステージを》

 一方、坂間の妹ゆとり(島崎遥香)は就職活動がうまくいかずインターンシップで通っていた職場に対しても「会社が悪い」と不満を漏らす。

《もう就職すんな。お前が気に入る会社なんてどこにもねえし、お前を気に入る会社もねえからだよ》

 妹に説教する坂間は、自分がいま会社で置かれている境遇を、自分に言い聞かせるように次第にヒートアップ。

《そんなもんじゃねえよ、社会に出るってことは。働いて給料もらうってことは。(略)でもやるよ、兄ちゃんは。得意先まわって、頭下げて、焼き鳥焼いて、年上のバイトにこき使われて、部下に笑われて。でも意地でも辞めねえよ。いま辞めたら何も得るもんねえから。元とるまで辞めねえよ。だからお前も辞めんな! 元とるまで辞めんな!》

■認めてほしいんだよな、要するに

 山路が担当するクラスでいじめ疑惑が発覚。教育実習で1か月間、山路が面倒を見ていた大学生の佐倉悦子(吉岡里帆)が、児童に問わずにインターネットの情報だけで、解決策を講じようとした。

《あの子たちにとっては一生を左右する1か月かもしれないんだよ。そんな重要な1か月をネットの情報なんかで答えを出してほしくないし。だから、何が言いたいのかというと……、いい先生じゃなくていいんで、いい人間になってください》

山路は《ゆとり教育を受けた結果、学力が低下して社会問題になりました》と、学習障害を持つ児童への理解を深めるため、自らゆとりを題材にした“授業”も。

《長所はあるんです。他人の足を引っぱらない。周囲に惑わされずベストを尽くす。個性を尊重する》

 劇中では“大人”の目線として、坂間の得意先会社の年配男性社員・野上(でんでん)によるジェネレーションギャップ、またゆとりに対する理解も徐々に描かれ始めている。

《顔覚えて、飯食いながら冗談言いあって、“そんなら試しに買ってみるか”。それが営業じゃない!? そういう考えはもう古いかね?》

《認めてほしいんだよな、要するに。オレらもそうだったろう? 若いころ。たださ、褒めるだけが認めるじゃないよな? たたく、しかる、怒鳴りつける、ぼてくりこかす、泣かせる、謝る、おごる、からむ、ぼてくりこかす、ほっぺた舐める、これ全部認めるってことだろ?》

「ペーパーテストや運動会など露骨な、客観的な形で勝つという体験をしていない人がわりといるわけです。負けてビリになってみじめな思いをしないかわりに、勝って誇らしい体験もあまりない。ある意味、周囲から認めてほしい欲求もある世代でしょう」(和田氏)