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 国が発達障害者支援法を改正して支援に乗り出すなど、社会問題となっているADHD。「時間がないのに用事を詰めすぎる」「なかなか決断できず、結果的に衝動的な判断をしてしまう」……こんな症状にギクリとした人は要注意。意外と身近なADHD、この機会にぜひ理解を深めてみては。

 先月25日、発達障害者支援法の改正法が参院本会議で可決、成立し、10年ぶりに見直された。発達障害者の教育と就労支援の充実を図った内容で、教育面では障害のある子どもがほかの子どもと一緒に教育を受けられるように配慮。

 また就労面では、国や都道府県が、働く機会の確保と職場への定着を支援するように求めるなどとしている。

 そもそも発達障害とは、『自閉症』や『アスペルガー症候群』、『学習障害』などの脳の機能的な問題が原因で生じる障害全般を指す。その中でも多い割合を占めると言われているのが『ADHD(注意欠陥多動性障害)』だ。読者世代にはあまり聞き覚えがないADHD、いったいどんなものなのか。

■忘れ物が多いのは脳の機能のせい

 しょっちゅう忘れ物をする。集中力がなくて飽きっぽい。授業中に座っていられずついフラフラ。思いついたらまっしぐらに行動する……。自分の子ども時代を思い浮かべ、「そんな子いたな~」とうなずく人も多いのではないだろうか。

 しかし、もしそれが社会生活を送るうえで支障があるほどひどい場合、注意欠陥多動性障害、つまりADHDと診断される。

 発達障害の臨床経験が豊富で、『子どものADHD早く気づいて親子がラクになる本』(河出書房新社)、『女性のADHD』(講談社)などの監修書がある『どんぐり発達クリニック』の宮尾益知院長によれば、

「ADHDは親の育て方やしつけが原因ではなく、また、脳に明らかな変異がある病気でも、うつ病のような精神疾患でもありません。脳の働きに生まれつきの“かたより”があって、それがさまざまな特性となって現れるのです」

 ADHDには不注意・多動性・衝動性という3つの症状がある。例えば集中力がない、忘れ物が多いのは不注意で、じっと座っていられないのは多動性、思いつくとすぐ行動するのは衝動性の症状だ。

 具体的な症状の現れ方は人によってさまざまだが、大きく分けると、不注意が目立つ人、多動性と衝動性が目立つ人、不注意に加えて多動性と衝動性の特徴も見られる人、の3タイプとなる。診断は、血液検査や脳の画像診断ではなく、主に知能検査によって行われる。

 “かたより”があるもののひとつが、脳の“ワーキングメモリ”だ。何かを実行するとき、必要な情報を一時的に記憶しておく機能だが、ADHDの人はこれが小さく、過去の経験をうまく生かせない。目の前の情報だけで判断して行動するため、不注意に同じ失敗を繰り返してしまう。

「よく遅刻をしたり、課題が締め切りに間に合わなかったりするのは、段取りや時間の概念がわからず、計画を立てて物事を実行できないからです。でも、ADHDの原因はまだはっきりと特定されておらず、わからないことが多い。子どもの診断に来てその親もADHDだったとわかる場合も多く、遺伝しやすいといわれますが、遺伝子は見つかっていません」(宮尾先生)

■責めず褒めて共感、有効な助言をして

 ADHDの症状がある子どもたちは、親や教師から何度も同じ注意を受け、だんだんと自信を失って、思春期を迎えるころにはほかの子と違ってなぜ自分ができないのか知りたくなる。

「こうした時期に自分はダメな人間だと思い詰め、ひどい場合はうつ病など二次的な障害を併発するおそれもあります。大事なのは、社会で無理なく暮らせる大人になること。そのために家族や周りの人のサポートが必要です」(宮尾先生)

 基本は、責めるのではなく上手に褒めることでよい行動へと導くこと。「〇〇はダメ」ではなく、その子が困っている点を聞いて共感し、「こうしたら」とひとつひとつアドバイスする。

 そして宮尾先生によれば、どのような困り事にも克服する対策法があり、治療ではそうしたアドバイスをしながら、場合によって薬を処方することで、苦しみは明らかに減っていくという。

 近年、ADHDと診断される人が増えたのは、ADHDが広く知られるようになったことに加え、学校やご近所のルールが厳しくなって昔の“ちょっと変わった普通の子”が生きにくい社会になったことが一因と考えられる。

「ADHDは、昔ならやんちゃで忘れ物が多くて少し変わり者といわれるだけの普通の子。あまり特殊な人と思わないで、上手にサポートしていきましょう」(宮尾先生)

 だがADHDは学習障害や行為障害を併せ持っているケースも多いほか、アスペルガー症候群などと症状が似ている点があり、1度医師の診断を受けることをおすすめしたい。

■大人のADHDは完璧を目指しがち

 ADHDについてメディアで取り上げる機会が増え、その認知が広がるにつれ、大人のADHDも注目を集めるように。

「大人の場合、ADHDと診断を確定するのはかなり難しい。いずれにしろ、これまでに自分の特性を知って、トラブルの予防や対策をすでに身につけている人が多いので、とくに治療は必要ないでしょう。ただ、つらい思いを抱えている人なら受診してみては。薬による治療は子どもと同じでかなり効果があります」(宮尾先生)

 ただ、女性の場合は診断を受けたあと、何年も気づかずに過ごしてきたことを悔やんで落ち込む人が多いそう。

「なかには、完璧を目指してつらくなる人もいる。大切なのは“いいかげん”を身につけて、無理なく過ごせるようになることです」(宮尾先生)

■アスペルガー症候群とは、ココが違う

 同じく先天的な発達障害のアスペルガー症候群は、ADHDと似ているように見える。でも、例えば対人関係でADHDが思ったことをすぐ口に出し、相手を傷つけたと後悔するのに対し、アスペルガー症候群はそもそも他人の気持ちや場の空気を読み取れない。相手が傷ついたことに気づかないのだ。