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 国が発達障害者支援法を改正して支援に乗り出すなど、社会問題となっているADHD。

「朝起きられず忘れ物の多い子でした。少し学習障害もあって、学校生活も合わない。集中力がなくてテストの見直しができず、いつも点数がよくなかった。運転免許の筆記試験を含めたくさんのテストに落ちました。大学の授業では90分間じっと座っているのがつらく、書くことも苦手でノートも取れない。ノートを貸してくれる友達がいたから卒業できたようなものです」

 そう振り返るのは、臨床心理士の高山恵子さん。NPO法人「えじそんくらぶ」を立ち上げ、当事者や家族、社会へ向けADHDについて精力的に伝えている。

 家では片づけができず母親にひどく非難され、思春期には自暴自棄になって反発し、母娘の確執もあった。友人との関係でもほぼ毎日のようにうっかり何かを忘れ、つい相手の気に障るようなことを口にしてしまい、後悔ばかり。

「約束も忘れるし、誕生日にもらった物をなくしてしまったのは口が裂けても明かせませんでした。でも、友達のことはとても大切に思っていたので、自分はどこかおかしいのではと、ずっと悩んでいました」

 そんな高山さんが、自分がADHDであると気づいたのは約20年前、アメリカの大学院で教育学を学んでいた30代のとき。ADHDについて学んで、

「これはまさに私のこと! だからこれまで苦しかったんだ」

 と衝撃を受けた。そして当時、日本ではあまり知られていなかったADHDについて、たくさんの情報や知識を収集。

 書くことが苦手だった高山さんは、自分の研究結果をレポートで提出するかわりにスピーチで発表、人前で話す能力を磨いた。やがて帰国してからは、日本でもADHDについて広く知ってもらいたいと活動を続け、いまでは専門家として年100回ほど講演会で話をしている。

「ADHDには脳の機能障害がありますが、特徴を理解してサバイバルのスキルを身につけ、日常生活に困らなければ“障害”にはならないのです。家族やパートナー、上司、友人に理解してもらって、できないことはSOSを出して助けてもらえばいい。

 ADHDのさまざまな症状は、見方によってはアピールポイントになります。例えば“不注意”は、いろいろ考えるので発想が豊かになり、ひらめきがある。“多動性”は、おしゃべりで人前でスピーチをするのが得意。“衝動性”は実行力そのものですから」

 いま困難を抱えている人に目指してほしいのは、日常生活で困らない対処法を身につけ、周りの人に助けてあげたいと思われる“かわいいADHD”だと語ってくれた。

 モンズースーさんは、長男出産後にADHDと診断を受けた30代前半の主婦。発達障害の「グレーゾーン」である2人の息子たちとの日々をつづったブログが大人気に。

 モンズースーさんがADHDとの診断を受けたきっかけは、長男が1歳半検診で言葉や運動面での発達の遅れを指摘されたこと。何冊か発達障害についての本を読むうち、“自分のことが書いてある”と感じ、病院へ行ったという。

「私はとにかく忘れっぽい。メモしなさいといわれても、まず手帳を忘れる。メモをしても確認を忘れる。結局メモをなくす(笑)。忘れないよう注意するための行為まで忘れてしまい、どうすればいいかわからなかった」

 と明かす。学校ではノートをとるのが苦手で漢字も書けず、そのことが気になって、かえって授業そのものが聞けなくなった。「できない」というより、「うまくいかないからやりたくない」という気持ちで勉強が嫌いになり、高校を中退。

 仕事ではケアレスミスがとても多く、信頼をなくして辞めることもあり、アルバイトや派遣先を転々とした。

「感情を抑えられない、パニックを起こすといったことも多く、とくに反抗期のイライラはひどかった。でも大人になるにつれイライラの原因を作らないとか、なるべく心が落ち着くように事前に状況を広く想定しておく、といった対策を身につけました」

 モンズースーさんはADHDの診断を受けて気が重くなった一方、初めて自分の“カテゴリー”がわかってうれしくもあったとか。

「こんなに変な人間は自分だけと思っていたのに、同じような人がたくさんいる。ADHDについて調べると、自分に対する新たな発見があっておもしろいです」

 長男は現在、特別支援学校の幼稚部に通いモンズースーさんも同伴している。発達障害の診断はまだ“グレーゾーン”のままだが、感慨深げにこう話す。

「以前は自分の思いを私以外の人に伝えることができず、よく癇癪を起こしていましたが、いまでは先生や友達とのやりとりが増えて、だいぶ様子が変わりました。私の時代もこうした支援があれば、トラブルを回避できてよかったかも」

 マンガを描くのが好きというモンズースーさんは、ADHDと診断され新たな自分像と向き合ったのを機に、コミックエッセイ風のブログをスタート。

 自分たち親子の日常や困り事などをわかりやすい文章とかわいい絵で紹介しており、このたび初の著書を出版。“わが家も子どもが1歳半検診で引っかかったばかり。この本が私の指標です”など読者からのレビューには感謝の言葉も並んでいた。