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 東京都の舛添要一知事は15日午前、辞職願を提出。本会議で辞職を認めるかどうか簡易採決され、「(異議)なし!」とあっさり認められた。

 舛添氏がとことん辞職を渋ったため、2014年都知事選で舛添氏を応援した自民、公明の知事与党まで不信任決議案の提出を決めていた。都民有権者に対して恥ずかしい事態だった。

「舛添氏は土壇場で自民党の説得に応じた。説得できず不信任決議で引きずり下ろすことになれば、参院選への悪影響を心配する中央政界や、選挙区の支持者に顔向けできなかった。安堵のあまり自民党から“男らしかった”などと舛添氏を持ち上げるコメントが続出したのは、いかがなものかと思ったけれど」(都政担当記者)

 多くの都民、国民はホッとしてなどいないだろう。家族旅行や美術品購入などをめぐる公私混同の政治資金拠出疑惑や、公用車による別荘通い、豪華海外出張について、舛添氏から満足のいく説明を受けていないからだ。舛添氏は21日、正式に辞職する。

「17日の定例会見は一方的にキャンセルした。辞任会見すらしないという。こういうケースなので最後の登庁日に職員が玄関で見送ることもないし、花束も渡さない。舛添氏は記者団の声かけも完全無視で、もう説明する気はないようです」(別の記者)

 議会や記者団の追及に対し、「精査したい」「あらためて回答したい」などと約束しておきながら、辞めるんだからもう知らねぇよという態度。頭をペコペコ下げていたのは何だったのか。

 ジャーナリストの大谷昭宏氏は「舛添氏のようなインチキがあるとわかったことだけが収穫」と手厳しい。

「多くの国民は、法的問題の有無で怒ったわけではない。お正月の家族旅行中、のこのこ宿泊先ホテルの部屋を訪ねて会議する人間がいるか、と信じられなかっただけ。ところが論客で知られる舛添氏は、みんながおかしいと思っている疑問について、ことごとく論理で返そうとした。

 正月だろうと夏休みだろうと家族旅行に第三者が割って入る可能性はゼロではありませんよ、と。しかし、常識的には考えにくい。学者バカにはそれがわからなかった」(大谷氏)

 この機会に、政治資金の規制の是非などを議論することが望ましいという。

 政治とカネ問題に詳しい日本大学の岩井奉信教授(政治学)は「改善点は2つある」として次のように話す。

「政治活動の自由という観点からみて、法的に政治資金の使い道を限定するのは難しい。ただし、国会議員の政治資金に対しては監査が行われている。ところが、帳簿と領収書を合わせる外形監査だけ。

 監査人が“この使い道は何ですか”などと質問できる実質的な監査にしたほうがいい。国会議員と都道府県知事ぐらいは中身をチェックできるようにすべき」(岩井教授)

 国会で立法する必要はなく、政治資金規正法の施行規則を変えればできるという。

「もうひとつは、政治資金規正法で定められた目的や定義を『授受』から『収支』に広げる。政治家の矜持として、支出も大事なんだと宣言するべき。各政党が政治活動のガイドラインをつくって、透明性を高めていくことが求められる」(岩井教授)

 政治団体名もわかりにくい。舛添氏の場合、グローバルネットワーク研究会や泰山会など名称に『舛添』と入っていないのでチェックしにくかった。岩井教授によれば、政治団体は全国で約6万~7万団体あるという。個人名が入らない政治団体はごまんとある。

「わかりやすい名称にしたほうがいい。ただし、結社の自由との兼ね合いもあってこれは難しい」(岩井教授)

■もしも、9月まで続投していたら…

 後任の都知事を決める選挙は7月14日に告示され、同31日に投開票されることが決まった。任期4年の通常の都知事選とは異なり、候補者選定にかけられる時間は少ない。政治とカネ問題で、猪瀬直樹前知事、舛添氏と立て続けに辞任に追い込まれているだけに、候補者の“身体検査”にも手を抜けない。

 どんな顔ぶれになりそうか。政治評論家の浅川博忠氏の話。

「自民・公明の与党側は、桜井俊氏を軸にしている。桜井氏は17日に総務省事務次官を退官したばかり。本人は慎重姿勢をみせているが、本質的には大出世で願ってもない話。総務省は地方自治を扱う役所なので霞が関の人脈を生かすこともできる。人気アイドルグループ『嵐』の櫻井翔くんの父親だから若者票を取り込めるのもいい」

 キーワードは「実務型」という。猪瀬氏、舛添氏と知名度の高いタレント知事の失敗が続いたため、赤字財政を立て直した旧内務官僚出身の鈴木俊一元知事のように、地方自治に精通した人物がふさわしいという。再び浅川氏の話。

「民進党は蓮舫代表代行ならば勝てるとふんでいる。参院東京選挙区で3選を目指すが、本人は都知事選出馬に意欲を見せた後、慎重姿勢に転じた。与党側はほかに小池百合子衆院議員、親子2代となる石原伸晃経済再生相、若手の丸川珠代環境相の名前が挙がっている。

 いずれにしても民進党の出方をうかがっている。あと出しジャンケンで、実務型の桜井氏を担いで“息子の知名度”を控えめに利用することになるのではないか」(浅川氏)

 嵐の櫻井翔は慶大卒でニュース番組のキャスターを務める秀才肌。父親とは丸顔や温和な雰囲気が似ている。桜井氏は元官僚で政治資金を使える立場になかったので、舛添氏のように過去の支出をチェックされることはない。

 誰が出馬しようと、巨額の選挙費用がかかることは間違いない。

 さて、説明責任を放棄した舛添氏はどれほどの退職金を手に入れるのか。都庁に確認すると、退職時の給与月額145万6000円を基準に算定されるという。

「月給に在職期間29か月(2年5か月)をかけた総額の52%が支給されます。このパーセンテージは業務上の功績などとは関係ありません。舛添氏の退職金は、所得税や住民税の税引き前で2195万6480円になります」(都総務局人事部の担当者)

 舛添氏は都議会の最終盤で「リオ五輪までは」と延命を懇願。交換条件として7月以降の給与を100%カットする条例案を提出しようとしていた。しかし、辞職に伴って撤回された。もし、9月まで続投していたら、退職金はゼロになったという。はからずも、盗人に追い銭となった。