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 国立西洋美術館が、7月中に世界遺産に正式決定されることが濃厚だという。国内では20番目となる世界遺産の誕生を記念して、美術館や博物館の魅力をシリーズで徹底紹介。今回は、今しか見られない期間限定企画展をアート通有名人に聞いてみた。

■まだまだ続く“若冲”ブーム

 東京都美術館で開催された『生誕300年記念 若冲展』(5月24日閉幕)。押しも押されもせぬ人気絵師の生誕300年を記念し、代表作80点が集結したとあって、44万人以上が殺到した。最高待ち時間は、なんと320分。

 熱中症対策として、行列途中に給水スポットが設置されるなど、社会ニュースにも。2時間並んで鑑賞した美術芸人の福本ヒデさんに聞いてみた。

「本当のことを言えば“あんな並ぶほどじゃないんじゃないの?”“今、日本美術ブームだからって、ひどいんじゃないの?”と思ってやりたかったんですが……感動しました」

 すっかりトリコになってしまったそう。

「オリジナルの構図、描くモチーフの珍しさ、色彩の鮮やかさって言われても、鶏の絵を見たところで感動するのかなと思っていました(笑)。実は、すごくリアルに描いているわけじゃないんです。

 鶏の羽も“1枚の羽をこうやって描こう”と決めたら全部同じように描いている。デザイン的というか、反復性が高いんです。でも、いろんなすごい要素が一気に入ってくると感動があふれてきて」

 美術ライターの浦島茂世さんは、若冲人気をこう解説する。

「伊藤若冲は明治期までは有名でしたが、横山大観のような、にじみが美しい新しい表現手法の日本画に人気が集まり、だんだん忘れられていったんです。しかし、1973年に東京大学名誉教授の辻惟雄氏による『奇想の系譜』という本をきっかけに、再評価されるように。

 じわじわと人気が出始め、'00年に京都国立博物館で開催された『特別展覧会-没後200年-若冲』でその人気は不動のものとなりました。現在もそのブームは続いています」

 とはいえ『若冲展』はすでに閉幕。見逃した人はもう見る機会はないのだろうか?

「箱根にある岡田美術館では、『若冲と蕪村 江戸時代の画家たち』という展示を9月5日~12月18日までやります。今年の1月、83年ぶりに『孔雀鳳凰図』が見つかりまして。“それ、若冲じゃん!”ってことで、岡田美術館に収蔵されました。

 それが初めて公開されたのが、先の『若冲展』だったんですが、もちろん岡田美術館でも展示されます。若冲による7作品が見られます」(福本さん)

「日本画は日光に弱いため、あまり公開ができないという事情があるんですが、京都にある承天閣美術館は、若冲の描いた襖の絵……障壁画が常設で見られます。

 あと、京都・石峰寺に若冲のお墓があるんですが、境内には若冲が彫った『五百羅漢』という仏像がポコポコと置かれています。そのうちの20体くらいが、なぜか椿山荘(東京)のお庭にあったりもします」(浦島さん)

■『ルノワール展』(国立新美術館)

 浦島さんによると、今年はアート展的には“アタリ年”なのだそう。今後、見逃せない企画展は?

「まずは、国立新美術館(東京都)で開催中の『オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展』(8月22日まで)。印象派時代の最高傑作『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』は初来日、『ピアノを弾く少女たち』も見られます」(浦島さん)

 “今、オルセー美術館に行っても面白くない”と言われるほど、ルノワールの代表作がこぞって見られるというから大注目。

「『ルノワール展』は、4月下旬から始まって、早くも入場者数30万人を突破しています。ルノワールは何がすごいかといえば、こだわりを持って、明るい絵しか描かなかった。

 世の中、暗いことだらけだからこそ“暗い絵なんていらない”と。だから、リウマチになって手が動かなくなっても、幸せな絵を手に筆を縛りつけて描いたとか、口に筆をくわえて描いたとか、そんな伝説が残る人なんです」(福本さん)

■『ポンピドゥー・センター傑作展』(東京都美術館)

 さらに2人が挙げたのが、東京都美術館で開催中の『ポンピドゥー・センター傑作展』(9月22日まで)。

「“ポンピドゥー・センター”とは、パリにある有名な近代美術館。面白いのが、1906年から、ポンピドゥーが開館される1977年まで“1年に、1作家、1作品”を選び、年代を追いながら展示されています」(浦島さん)

 いろんな作家の、いろんな作品が一気に見られ、フランス美術の流れもばっちりわかるという。

「ピカソの『ミューズ』、マティスの『大きな赤い室内』を筆頭にシャガール、デュフイなど有名な作家の作品がいっぱいの、いいとこどり。あのポンピドゥー・センターが所蔵している絵ですから、これはいいに決まっています。そして、近代の作家がまた面白い。すごく突飛もないことをする人が、どんどん出てきますから」(福本さん)

 福本さんのイチオシはデュシャン。

「この人は、レディーメード……既製品で芸術をやるんですよ。新品の男性用便器を買ってきて自分のサインを入れて『泉』と名づけ、作品として出したら、もう大センセーショナル(笑)。

 今回は『自転車の車輪』をぜひ見てほしいですね。そして、忘れちゃいけないのがクリスト。とにかく物を梱包するアートをやった人です。今回見られるのは小さなサイズなんですが。建物を梱包したり、あげくの果てには海岸線を梱包したり……。そういうワケのわからない作家の作品もいっぱい見られます」

■『ダリ展』(京都市美術館・国立新美術館)

 続いて福本さんが挙げたのが、京都市美術館で始まったばかりの『ダリ展』(9月4日まで)。

「日本で“シュール”って言葉は当たり前に使われていますよね。“このコント、シュールだね”とか。それはまさに、この“シュルレアリスム”から来ているんです。要するに超現実的。夢で見たことをそのまま絵にしたり。

 だから不条理で、ワケがわからない。でも、ちょっとカッコいい感じがする(笑)。日本人には、この世界観は理解しやすいんじゃないかと思います。“なんでこんなことになっているんだ?”っていう世界にたっぷりと浸れます」

 京都の後には、国立新美術館(9月14日~12月12日)にやって来る。

■『大妖怪展』『マリー・アントワネット展』『デトロイト美術館展』

 そして、親子で楽しむなら『大妖怪展』。江戸東京博物館で8月28日まで、あべのハルカス美術館(大阪府)で9月10日~11月6日まで開催される。

「超怖い妖怪から、かわいい妖怪まで。『妖怪ウォッチ』が好きなお子様は大喜びじゃないでしょうか。『ベルサイユのばら』がお好きな方なら『マリー・アントワネット展』。10月25日~'17年2月26日まで森アーツセンター(東京都)で開催されます」(浦島さん)

 大阪市立美術館で7月9日~9月25日、その後10月7日~'17年1月21日に上野の森美術館(東京都)で開催されるのは『デトロイト美術館展』。

「ゴッホの『自画像』がやって来ます! ゴッホの絵って絵の具でボコボコしていて、厚みがあるんですよね。そんな絵肌感を正面から右から左から見たりすると、また印象が全然違ったりします。本物を見る絶好のチャンスです」(福本さん)