国立西洋美術館が、7月中に世界遺産に正式決定されることが濃厚だという。国内では20番目となる世界遺産の誕生を記念して、美術館や博物館の魅力をシリーズで徹底紹介。

 期間限定の企画展とは異なり、美術館が独自に所蔵する作品を展示している常設展は、行けば必ず見られるのが魅力。死ぬまでに見ておきたい美術館自慢のコレクションをアート通有名人に聞いてみた。

レアンドロ・エルリッヒ『スイミング・プール』2004年 金沢21世紀美術館 (c) Leandro ERLICH 撮影:渡邉修
レアンドロ・エルリッヒ『スイミング・プール』2004年 金沢21世紀美術館 (c) Leandro ERLICH 撮影:渡邉修

■現代美術ならここ 金沢21世紀美術館(石川県)

 洋画家としても活躍するタレント・城戸真亜子さんがすすめてくれたのは金沢21世紀美術館(石川県)。

「全身で体感できる現代美術が多いので面白いですよ。有名なのは『スイミング・プール』という作品。上から見下ろすと、下にいる人が水の中に入っているように見え、逆に下から見上げると、今度は上にいる人が水中にいる感覚が味わえます。

 『ブルー・プラネット・スカイ』は、実際の空を切り抜くというか、壁や天井で囲んでいて。毎日違う空が作品となっているんです」

 北陸新幹線が開通し、アクセスも良好に。古い街並みとあわせて、モダンな美術が楽しめる。

「現代美術ならここ! 体験する“違和感”がまさにアートです。アートってキレイで感動するものだけじゃないんです。世の中のズレを自分に引きつけて、考えるきっかけになるものでもあるんです」(美術ライターの浦島茂世さん)

■美術界の奇跡 大原美術館(岡山県)

 続いて城戸さんが挙げてくれたのが、大原美術館(岡山県)。

「ゴーギャンやエル・グレコなど、巨匠の作品がたくさん見られます。そして、美術館側で選んだ作家に住まいを提供し、そこで制作された作品を美術館で展示する試みも行っています。若手作家の支援に力を入れている点も素晴らしいです」

 そして、美術芸人であり、社会風刺コント集団『ザ・ニュースペーパー』の福本ヒデさんも、その魅力を語る。

「大原美術館にはエル・グレコの『受胎告知』が。この作品が日本にあることは“美術界の奇跡”とさえ言われています。世界三大名画のひとつですから」

■美大生のデートスポット 原美術館(東京都)

 そして、雰囲気のいい美術館だと教えてくれたのは、原美術館(東京都)。

「ここも、昔から現代美術を取り扱っています。人気の高い奈良美智さんの作品などがあります。いい企画展が多いです。古い建物のたたずまいもすごくおしゃれ。学生時代、美大生のデートスポットとしては一番人気でした(笑)」(城戸さん)

「ここはもともと、実業家の原邦造さんという方の邸宅。中庭に面したカフェもあって、くつろげます。至るところに、ちょっとした仕掛けがあるのも楽しいです。“こっちに何かあるのかな?”と思ってカチャッとドアを開けると、奈良美智さんのアトリエをイメージした作品『My Drawing Room』だったり。

 また別のスペースをのぞくと、今度は森村泰昌さんの作品があったり。遊び心にあふれています」(福本さん)

■森美術館(東京都)、川村記念美術館(千葉県)もオススメ

 城戸さんが“絞りきれない”と、迷いながらも紹介してくれたのはここ。

「森美術館(東京都)は夜10時まで開館(火曜のみ午後5時閉館)していて[※]、子どものためのワークショップなどもやっています。美術を身近に感じる第一歩を踏み出せるという意味でオススメですね。川村記念美術館(千葉県)は国内外のコレクションが豊富で、展示も素晴らしいです。

 例えば、マーク・ロスコという現代美術の作家の作品を集めた“ロスコルーム”。とても大きな作品で、あいまいな色と色の境目にスッと入り込んでしまうような、不思議な感覚に陥ります」

■本物がひとつもない!? 大塚国際美術館(徳島県)

 続いて、美術ライターの浦島茂世さんがオススメしてくれたのは、大塚国際美術館(徳島県)。

「大塚製薬が母体となる財団が運営している美術館なのですが、なんと全部が陶器の板で複製されたもの! ひとつも本物がないんです。でも、すべてが学術的レベルの、プロフェッショナルな複製。本当にリアルです。ピカソ、モネ、ルノワール、ダ・ヴィンチなど、世界中のありとあらゆる有名作品の複製が1000点余り展示されているんです。

 ラインナップでいったらルーヴル美術館以上どころか、世界一!(笑)複製なので近づいて見られますし、原寸大なのでサイズ感もわかる。子どもに画集を見せるよりも、ずっと効果的だと思いますね」

 美術館としては日本一、入館料が高い(大人3240円)が、それでも大人気なのだそう。

■『ちひろ美術館・東京』に込められた願い

「親子で楽しめるという意味では『ちひろ美術館・東京』がいいですね。生涯、子どもを描き続けたいわさきちひろさんの作品が展示されているのですが、キャッチフレーズは“マイ・ファースト・ミュージアム”。 子どもが、生まれて初めて行く美術館でありたいという願いが込められています。展示も子どもの目線で楽しめるように低め。踏み台もあります。小さい子どもでも楽しめますし、たとえ騒いだとしても大丈夫」(浦島さん)

草間彌生『かぼちゃ』1999年 (c)YAYOI KUSAMA 写真提供/松本市美術館
草間彌生『かぼちゃ』1999年 (c)YAYOI KUSAMA 写真提供/松本市美術館

■草間彌生さんの常設展がある松本市美術館(長野県)

 そして、松本市美術館(長野県)を紹介してくれたのは、世界遺産検定1級、美術検定2級を持つ“美術芸人”の福本ヒデさん。

「“世界で最も影響力のある100人(アメリカ・タイム誌・2016年版)”にも選ばれた草間彌生さん。とっても派手でおしゃれな方で水玉模様の作品で有名です。出身が松本ということで、常設展で草間さんの作品が見られますし、エントランスや自動販売機、ベンチなども草間さんのアートが施されています。

 松本駅からラッピングバスも走っています。“ポップで楽しい”と思うかもしれませんが、草間さんは幼いころから幻覚や幻聴に悩まされ、それを絵に描いた人。そして、売れたのは70代になってから。87歳の今も、毎日描いていらっしゃるそうです。

 “なぜ、こんなクニクニしたものをたくさん作り、水玉ばかりを描いているのか”を感じながら見るのもオススメです」

■島全体がアート! 直島(香川県)

 さらに挙げてくれたのは直島(香川県)。瀬戸内海に浮かぶ小さな島は、島全体がアート。3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭のメイン会場でもある。

「美術館もいっぱいあるし、至るところにアート作品があるんですよね。草間彌生さんがデザインしたオブジェ『黄かぼちゃ』とか、現代アートの大竹伸朗さんによるとんでもない銭湯(『I(ハートマーク)湯』)とか。

 そんな中でも、ぜひ地中美術館へ。ここは世界的に有名な安藤忠雄さんが設計したんですが、“なるべく周りの景観を壊さないように”との配慮から、建物の大半が地中にあるんです。

 そして、ここにもモネの『睡蓮』があります。真っ白な部屋に、靴を脱いで入るんですけど、小さな踏み心地のいい石が敷き詰めてあって、上からは自然光が降り注いで。とても贅沢な時間が流れます」(福本さん)

※開館・閉館時間を訂正しました。