『夢二~愛のとばしり~』で映画初主演を飾った駿河太郎 撮影/佐藤靖彦

 初対面にもかかわらず、冗談を交えながら人懐っこい笑顔を見せてくれる駿河太郎。

「この時計いいでしょう! 潮の満ち引きなんかもわかるんですよ~。僕のじゃなくて、スタイリストさんのものですけど(笑)」

 竹久夢二の真実を描いた『夢二~愛のとばしり~』では映画初主演を飾る。オファーが来たときはどんな気持ちだった?

「正直、初めは俺で大丈夫?……と。ただ、監督は僕が前に出た舞台(『コンプレックス☆ステッカー』)を見ていて。それは出演者たちが自分自身のコンプレックスを吐露する内容で、僕は笑福亭鶴瓶が親父ということをバーッと話したんです。

 そのときに“なにかに満足していない駿河太郎”という人間が、今回の夢二と合うんじゃないかと思ったそうで。それを聞いて、吹っ切れました」

 駿河は今回、竹久夢二が人生に葛藤する姿を熱演。詩人から画家へと転身した夢二の生き方は、自身の過去と重なるものがあったという。

「僕も、もともとはミュージシャン。途中で役者に転向しているので、共通項がありました。夢二が本当に描きたい絵なのかと悩んだように、“売れる音楽”と自分のやりたい音楽にギャップを感じていたし。僕の場合は売れなくて、アルバイトしながら音楽活動を続けていました」

 今ではすっかり俳優の印象が強いが、'03年に『taro』名義でメジャーデビュー。その後は酒の配達からウエーター、コールセンター、メッセンジャーなど、いろんなバイトをしながらバンド活動を行う日々。それがなぜ、役者の道へ?

「20代半ばのときに今のチーフマネージャーと出会って。なんか知らんけど“役者やりませんか?”と誘われたんです。1度断ったけど、その後も誘ってくれて。音楽の才能に限界を感じていたこともあって、1回乗ってみようと思ったんです」

ミュージシャンをあきらめた理由

過去にミュージシャンとして活動していた駿河太郎 撮影/佐藤靖彦

 当初は音楽活動と並行していたが、あることをきっかけに、役者1本に……。

「映画のオーディションに受かったのに、バンドのツアーと撮影期間が2日間だけかぶっちゃって、役を降りることになったんです。俺の音楽なんて趣味みたいなものなのに、そのせいで仕事を飛ばすとはマネージャーやスタッフに本当に申し訳なくて。それをきっかけに、やめきれずにいた音楽に区切りをつけました」

 役者としての顔が広く知られるようになったのは、'11年のNHK朝ドラ『カーネーション』。ヒロインの夫役に抜擢されたときの心境は?

「うれしかったですね~。昔から、友達のばーちゃんやじーちゃんにすげえ好かれるから、“俺、朝ドラ顔やと思うねん”って周りに話していたくらいだったんで(笑)」

 '13年にはTBSドラマ『半沢直樹』で主人公に助け舟を出すホテルの経営者役を演じ、話題に。今年に入ってからはフジ月9ドラマ『ラヴソング』にも出演した。

 私生活では'07年に結婚。現在、小学2年生の男の子と、3歳の女の子を持つパパでもある。

「子どもにはいろんなもんを見て、経験してほしいと思っているので、一緒にサーフィン旅行とかしています。僕自身はどう育てられたか? うちはおかんがめっちゃしっかりしていて、親父はいい具合に放っといてくれましたね」

父からの突然の電話

 現在の活躍ぶりについて、父はどんな反応を?

「直接言われることはないですね。ただ、このあいだ、いきなり電話がかかってきて、なにかと思ったら“『A-Studio』の収録してんやけど、お前の舞台見たって子が観覧に来てんのや”と。“ほんで?”と聞いたら“それだけや~”って……(笑)」

 役者としてのモチベーションを聞いてみると……。

「新人のとき、あからさまに人によって態度を変える人に会っていて。そういう人たちに対して、“見とけよ~”という反骨精神を持っています。あと、僕がまた一緒に仕事したいと思っている人に再度使ってもらうために、“今後の成長を見とけよ~”という気持ちもありますね」

 では、具体的にこれからやってみたい役や作品は?

「今まで求められてこなかった役をやってみたいです。男くさい作品とか、あんまり笑わない役とか。殺人鬼とかもやってみたいです。そのうえで、どの作品でも、作品の邪魔をせず、ちゃんと光っている役者として映ればいいなと思います」

 同世代で刺激を受ける役者は誰?

「過去に作品で共演した福士誠治、林遣都、中村勘九郎。福士は演技も人間的にも素晴らしくて。遣都とは一緒にいてすげえラクで、サーフィン行ったりします。

 勘ちゃんは酒飲んでいるときはダメだけど(笑)、舞台に立ったときは本当にすごい。向こうは伝統を背負っているから俺より大変だけど、刺激受けるぶん、なんか返したいなという気持ちがあります」

【作品情報】

◎映画『夢二~愛のとばしり~』

明治後期から大正時代の東京。『美人画』のモデルとなった妻・たまき(黒谷友香)と息子の3人で暮らしていた竹久夢二(駿河太郎)。生活のために詩人から画家へと転向したが、日常に不満を抱えていた。そんなある日、運命の美女・彦乃(小宮有紗)と出会って……。7月30日(土)より、シネ・リーブル池袋、シネ・ヌーヴォほか全国順次公開。