全国の大学、会社から「講義をやって」とひっぱりだこの芸人・キングコング西野亮廣さん。“仕事の広げ方”“エンタメの仕掛け方”“イベント集客”などのノウハウを型破りな視点で語り、聴衆の度肝を抜いている。
「テレビの仕事をやめる」と宣言してから10年――。漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長など肩書を自由に飛び越え、上場企業の顧問にも就任しちゃった西野さん。どうやって“好きな仕事だけが舞い込む働き方”を手に入れたのか。その秘密を綴った異色のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』の一部を、8月12日の発売に先駆けて特別掲載(毎週金曜更新)。第7回は前回の“ヨットのように生きる術”の続き――。
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 この向かい風を分かりやすく利用したのが、2015年のハロウィンで仕掛けた“ゴミ拾いイベント”だ。

 インスタグラムなどの写真特化型のSNSの盛り上がりも手伝って、猛スピードで日本に定着したハロウィンパーティーという名の大コスプレ大会。

 こうなってくると、本音は「ただハシャいでいる奴らがムカつく」のクセに、「ハロウィンというのは、そもそも収穫祭であり、大人がコスプレをするような……」とウィキペディアで調べたような浅い知識でもって、苦言を呈する正論ジジイが必ず大量発生する。

「そもそも論」を言っちゃうと、日本の祭りなんて、ほとんど中国から来たもので、それを日本仕様にカスタムしたのが今だ。節分や七夕なんかも、もともとは中国の習俗だ。ウィキペディアで調べたので間違いない。

 日本は神も仏もいるウェルカム国家であり、節操などなく、クリスマスは恋人達の祭典で、ハロウィンはコスプレ大会でいいじゃないか。

 ジジイの小言には適当に蓋をして、日本のハロウィンはコスプレ大会として、どんどん盛り上がっていけばいい。

 ただ、祭りには必ずゴミの問題が付いてまわる。

 事実、2014年のハロウィン翌朝の渋谷は悲惨だった。

 ハロウィンパーティーで渋谷に集まった人々が捨てたゴミで、地獄的に汚れてしまった街は、新聞に取り上げられ、ワイドショーに取り上げられ、SNSで拡散され、そのネガティブニュースは、ついに海外にまで飛んでいってしまった。

 テレビをつければコメンテーターがこぞって「ゴミは自分で持ち帰れ」だの「モラルが欠落している」だの、まぁ、やいのやいの言ったが、このゴミ問題はヨットの理論でいうとモーレツな向かい風。

 ここまでの強風を消してしまうのは賢くない。

 上手く消せても元の場所に戻るだけで、前進はしない。

巨大なトラッシュアート『ゴミの木』

 ゴミが出てしまうなら、ハロウィン当日に「ゴミを出すな」と力で押し戻すのではなく、ゴミが出ることを逆手にとって、ハロウィン翌朝に“ゴミがないと成立しないイベント”を新しく作っちゃえばいい。ゴミがあればあるほど盛り上がるイベントを。

 ハロウィンの夜に街を徘徊するのはオバケだ。そのオバケが、バカみたいな量のゴミを残していく。このオバケの残骸を退治するのは彼等しかいない。

 オバケ退治のプロ集団『ゴーストバスターズ』である。

 というわけで、「ハロウィンの翌朝6時に、ゴーストバスターズのコスプレをして、ハチ公前に集合。ゴミ拾いしようぜ」とツイッターで呼びかけてみた。

 ハロウィン当日はちょうど、毎年12万人以上を動員する『東京デザインウィーク』という国内最大級のクリエイティブフェスの期間中だったので、理事の権力をフルに利用して(そう。実は俺、理事!)、集めたゴミを『東京デザインウィーク』の会場に運び、そのゴミを使って巨大なトラッシュアート『ゴミの木』を作ることにした。

 落とし所をアート作品にすることで「ゴミ拾い」から、「アート作品の材料集め」に目的が変わる。つまりボランティアで“良いこと”をするわけではなくて、“遊んだ結果、良いことになっちゃってた”という流れ。

 そして、何年後になるか分からないけれど、毎年作っている『ゴミの木』が、いつか、「今年は材料が足りなかったので木が枯れている」となれば物語として素晴らしい。

“アンチ西野”の2ちゃんねらーも“参加”

『渋谷ハロウィンゴーストバスターズ』と銘打ったこのイベントはトントン拍子に話が進み、ゴミを拾う500人のボランティアスタッフと、拾ったゴミでトラッシュアートを作る100人のボランティアスタッフは一瞬で定員に達した。

 渋谷区の全面協力を得たほか、東急電鉄さん、西武デパートさん、ボランティアスタッフがゴミを入れる用のトートバッグ(ゴーストバスターズのロゴ入り)500個を提供してくださったROOTOTEさんや、背中に背負う用の掃除機を提供してくださったダイソンさん、さらには本家『ゴーストバスターズ』のソニー・ピクチャーズさんなど、本当にたくさんの方々の援護射撃のもと、総勢700人による渋谷大掃除がハロウィンの翌朝に敢行されることとなった。

 しかし、ここで黙っていなかったのが“アンチ西野”の2ちゃんねらーの皆さん。

「西野のイベントを邪魔してやろうぜ」と、我々本隊が集合する2時間前に渋谷の街に集まり、「西野の邪魔をしてやれー!うりゃー!」と、ゴミを拾ったのである。

 最高すぎる。

 おかげでずいぶん助かった。

 老若男女(ときどき2ちゃんねらー)総勢数百人のゴーストバスターズが、ゲラゲラと笑いながらゴミ拾い。大きなマントのゴミを拾った子供は「やった!これは使える」と雄叫びを上げ、3回続けてタバコのゴミを拾った親父は「もっと大味のゴミないのかよ!」と悔しがり、皆から笑われる。

 なんとも痛快な朝だった。

 一番嬉しかったのは2015年の年末に聞いた、「今年、渋谷が一番綺麗だったのは、ハロウィンの翌朝でした」という報せ。

 街を汚すハロウィンがあったから、街を綺麗にすることができたのだ。

 向かい風は消さずに使っちゃったほうがいい。

※2016年、広告業界の若手が選ぶ広告賞『Innovative Communication Award』でこのイベントが優秀賞を受賞
※イベントの動画『Shibuya Ghostbusters JAPAN Halloween』

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《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。

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