「今でも外出は、通院や学校のスクーリングのとき、母に付き添われて出かけられる程度。19歳の女の子の生活ができていません。私の望みは、同世代の人たちと同じように大学に行き、遊びに出かけて一緒に笑うこと。そんな普通の毎日を返してほしい」

 そう訴えるのは、千葉県の園田絵里菜さん(19)。子宮頸がんワクチンの接種後、頭痛や倦怠感、全身の脱力が起こるようになり、特に生理時には、内臓を握りつぶされるような激しい痛みに苦しめられるようになったという。

 このような被害を訴える15~22歳の女性64名が7月27日、国と製薬会社2社を相手取り、東京・名古屋・大阪・福岡の4地裁で一斉提訴した。

 原告側弁護団である『HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団』共同代表で東京弁護団代表も務める水口真寿美弁護士によれば、64名の平均年齢は18歳(2016年7月12日現在)。いずれも1~3回のワクチン接種後、頭痛や、手足や頭などが意図せずに動く不随意運動、記憶障害や月経異常といった多様な症状が生じ、容体の安定と悪化を繰り返しているという。

 弁護団によれば、日本でのワクチン承認時に、海外で重い副反応の危険性が指摘されており、国は健康被害を予見できたと主張。また、ワクチンを製造した『グラクソ・スミスクライン』と『MSD』の2社に対して製造責任などを問いたいとし、原告1人あたり少なくとも1500万円の損害賠償を求める方針だ。

19歳の女の子がする普通の生活がしたい

原告のひとりである園田絵里菜さん(右)に寄り添う母の小百合さん

 個人が裁判を起こすのはハードルが高い。ましてや10代の少女となれば、なおさらだ。

 それでも前出の園田絵里菜さんは、学校には休学をほのめかされ、病院からは詐病と言われ「話すらまともに聞いてもらえなかった」ことが大きいと語る。

「“子どもが言っていることだから”とか“(症状は)言い訳だ”と言われてしまう。でも司法の場では、法の下の平等で大人とも対等に話せます。提訴することで、みんなから“嘘つき”と言われた私の潔白を示したい」

 絵里菜さんは中学3年だった'11年8月から翌3月にかけ、3回の接種を受けた。重篤な症状になったのは3回目の接種から約2年後の'14年。高校2年の1月だった。

 いまも全身が痛むと語る絵里菜さんに代わり、母親の小百合さんが言う。

「月曜だったので朝、絵里菜を起こしに行くと、頭が痛い、身体が痛いと言い、熱もある。“風邪かな?”と、かかりつけの内科に行って薬をもらっても治らず、ずっと眠り続けているんです。ひどいときには18時間近く眠っていました。あまりにおかしいと総合病院に連れて行き、血液検査と頭部MRIを撮っても異常はない。“思春期特有の症状じゃないか?”と言われました」

 それ以来、生理時に身をよじるほどの激しい痛みに襲われ、頭痛、脱力といった症状に悩まされるようになった。原因と治療法を求めて数々の医療機関をめぐり歩いたが、“演技じゃないの?”“娘さん、どんな育て方をしたんですか?”など、心ない言葉を投げつけられたという。

 ワクチンを疑いだしたのは'14年7月、『慢性疲労症候群』との診断を受けて通っていた東京・青山のクリニックでのことだ。

「『線維筋痛症』も診察できる先生が、所属している学会で、子宮頸がんワクチンを打ったあとに線維筋痛症と慢性疲労症候群の症状が出ている女の子が多いというアンケートを見ていたんです。それで“(ワクチンを)打っているの?”という話になりました」

 '15年2月、東京医科大学総合研究所の西岡久寿樹教授の診察を受け、『HANS(ハンス/子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群)』と診断された。

 だが、ようやく原因が判明したと思った同年10月、通学していた中高一貫の私立高校を退学、通信制高校に転学することになる。体調不良による遅刻欠席や、普通の学校生活が送れないことを理由に休学を強制された末のことだった。

 現在、通信制大学1年生となった絵里菜さんが言う。

「特進クラスだったので、受験に邪魔というか、目障りだったんだと思います。卒業に必要な登校日数の残りは実質、2か月・4単位のみ。それを残しての転学でした。中学から一緒だった友達と卒業式を迎えられなかったことが何よりもつらかったです」

“痛い! 痛い!”と泣きながら七転八倒

一見しただけではわからない症状に苦しむ日々。伊藤維さんは「記憶がなくなってしまうのではないかと怖かった」

「高校を卒業したら海外にバイオリン留学がしたかったんです。それもできなくなりましたし、音楽学校では毎日5時間はおさらいをしなくちゃいけないんですが、腕も痛いし指も痛い。身体のあらゆるところが痛いのでベッドで休みながらの練習になる。おいていかれちゃうかもしれないと焦る気持ちはあるけれど、いまはこの状況で頑張るしかないのかなあ、と……」

 こう語るのは東京にある音大の3年生で、バイオリン演奏家の伊藤維さん(20)だ。

 維さんのワクチン接種は'10年7月、中学3年のときだった。母親の亜希子さん(仮名)が当時を振り返る。

「私のほうがいわゆる“がん家系”で、みんながんで亡くなっているんです。このワクチンを打てば絶対に子宮頸がんにならないと聞いて、“そんなにいいものがあるならば”と、飛びついてしまった」

 1回目の接種直後、注射をした左腕がパンパンに腫れ上がり、激しい痛みとしびれを覚えた。2か月後の2回目の接種では、それにしこりと倦怠感、足の痛みが加わった。不安を感じたものの、“3回打たなければ効果がない”という医師の言葉に従い、高校入学後の'11年4月、3回目を接種した。すると両足まで頻繁に痛みだし、歩行に支障が出始めるようになった。

 症状が劇的に悪化したのは'12年8月のことだ。知人の見舞いで病院に行ったところ、維さんは足の激痛で歩けなくなり、病院で車イスを借用して帰宅した。同年9月には総合病院で腰から下のCT撮影をしたものの、“異常なし”。

 だが、足の痛みはさらに悪化。“痛い! 痛い!”と泣きながら七転八倒し、ひとりではトイレも行けない状況になったという。

「学校の文化祭のあと、ものすごく痛くなって。階段があったんですが、そこから車イスで飛び込んで、自殺しようと思いました」(維さん)

 亜希子さんが車イスをあわてて押さえ、事なきを得たが、こうしたことが2回ほどあったという。

 '13年8月、国立精神神経医療支援センターを受診、佐々木征行医師より「子宮頸がんワクチン副作用の典型的な症状」と診断された。

 現在は、よくなったり悪くなったりの繰り返し。体調が安定しないので、先が見通せない。子宮頸がんワクチンの被害を訴える人に特有の状態にあるという。

「こうして取材を受けているいまも腰が痛いです。ものすごく悪いときは、痛みと全身脱力症状でスプーンも持てなければ、顔を上げることすらできません。それでも午後1時、2時ごろには回復してくるんですけど、この間はまったく治らなくて。夕方5時過ぎまで、母におんぶしてトイレに連れて行ってもらったほどでした」

 激痛は突然やってくる。だが、それがいつやってくるかはわからない。

 亜希子さんが声を振り絞るようにして言う。

「親がいるうちはいいんです。でも、そのあとは─? この体調では普通の仕事には就けません。裁判も、勝訴したいとかじゃなく、恒久的な支援が欲しいんです。裁判を通して、それを求めていきたいと思っています」

スピード導入の理由が知りたい

スポーツ少女だった望月瑠菜さんだが、ワクチンで人生を一変させられたという

「当初、私たちは提訴には消極的でした。でも、弁護士さんから“こうした薬害を繰り返さないためにも裁判を起こすべき”と言われて。このワクチン自体、すごい短時間で導入されています。どうしてこんなに早く導入されたのか?それを知りたいという思いもあり、提訴しました」

 こう語るのは山梨県の望月瑠菜さん(17)と、母の千鶴さんだ。

 1回目の接種は'10年8月。在住する身延町からの無償接種の通知を受け取ったのがきっかけだった。

「たいていの予防接種と同じで、熱が出るとか腫れるとかの一般的な副反応については書いてありました。ですが、ワクチンに特に疑いを持つことはありませんでしたね」

 と千鶴さん。

 症状が出始めたのは、接種翌年の中学1年のときだった。

「9月ごろからひざ、わき腹など身体のあちこちに痛みが出始め、頭痛もするようになってきました。症状が悪化したのは、高1だった'14年8月の、金曜のことです」

 買い物をしていたら、急にひざがガクッとした。当初は右足だけだったが、翌日には左足にも同じ症状が出て、立てなくなった。

 翌週の月曜に、身体を引きずるようにして整形外科に行ったが原因がわからない。野球の男女共同チームでキャプテンをしていた活発な女の子が、立ち上がることさえ困難になったのだ。

 あわてて大学病院に行ったが、診断は“精神的なもの”。母・千鶴さんは、そう聞いて喜んだという。

「精神的なものならば、原因がなくなれば治る。“よかったな”と思いましたが、翌日には手に力が入らずに震えるようになり、お茶碗も持てなくなってしまった。その姿を見て、“これは精神的なものじゃない”と思いました」

 '15年3月、リハビリに通っていた病院から信州大学の紹介を受け、同大の池田修一医師により「子宮頸がんワクチンによる典型的な副反応」と診断された。

 ずっと続けてきたリハビリや食事療法の効果か、ここへきて瑠菜さんは走れるようになってきた。

「今は足が震えていることと、全身に痛みを感じる程度になりました」(瑠菜さん)

 車イスや杖を使わずに学校に通える状態を保ってはいるが、生理前には痛みがひどくなり、ひざが抜け、立つと震えがきてしまう。頭痛や身体の痛みは、いまではあるのが普通。消失する気配はない。

 現在、瑠菜さんは高校3年生。かつては空間デザイナーを夢に描いていたが、

「瑠菜は進学も就職も難しいと思います。提訴となると、東京の裁判にも出廷しなくてはならないし、病院に行くにしても1日がかり。いずれにせよ学校や職場で、この病気を理解してもらうのは難しいと思います」

 と千鶴さん。

 瑠菜さんは訴える。

「やりたいことがたくさんあったのに、あきらめなければならないのがいちばん悔しい。国や製薬会社をはじめ、このワクチンをすすめた人たちは責任を取ってほしい。自分たちのしたことを痛感してほしいんです」

   ◆   ◆

 次回は、娘に子宮頸がんワクチンを接種させたことで苦悩する母たちの姿を追う。