全国の大学、会社から「講義をやって」とひっぱりだこの芸人・キングコング西野亮廣さん。“仕事の広げ方”“エンタメの仕掛け方”“イベント集客”などのノウハウを型破りな視点で語り、聴衆の度肝を抜いている。
「テレビの仕事をやめる」と宣言してから10年――。漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長など肩書を自由に飛び越え、上場企業の顧問にも就任しちゃった西野さん。どうやって“好きな仕事だけが舞い込む働き方”を手に入れたのか。その秘密を綴った異色のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』8月12日、発売になりました。この本の一部を特別掲載します。(毎週金曜更新)
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 彼は、お金持ちじゃないけど、「信用持ち」なのだ。

 信用の面積がバカみたいに大きいから、数値化(お金化)した時の額が信用の面積に比例して大きくなる。

 さて、「お金の正体」を知って、具体的にどのように可能性が広がったのか?

 くれぐれも言っておくけど、ここからの話は「お金儲け」の話ではないッス。

「お金の正体をキチンと把握しておけば、今の時代、こういう可能性があるよ」という話。

 僕は、お金を「信用の一部を数値化したもの」と定義している。

 僕が普段遊んでいる連中の中に、「ホームレス小谷」という男がいる。

 そういう芸名でタレント活動しているわけではなく、ガチンコのホームレス。もちろんホームレスなので家はないし、お金もない。歳は33歳ぐらいだと思う。

 これだけ聞くと悲惨な人生なんだけど、どっこい、ホームレス小谷は毎日とても幸せで、ホームレスになって3年で20キロ太って、美人の嫁さんまで貰っちゃった。

 お金は「信用の一部を数値化したもの」という「お金の正体」のヒントは、このホームレス小谷にある。

1日50円で自分を売る

 ホームレス小谷の生き方は実に単純だ。インターネット上に自分の店を出し、売るモノがないから「自分の1日」を売り、それを収入源にしている。買われたら何でもする。草むしりでも、引っ越しの手伝いでも、ヌードモデルでも、何でもする「なんでも屋」。

 ショップを出した最初の1か月は「オープン記念特別価格」で1日100円。1か月が過ぎ、通常営業に入ると、1日50円。「オープン記念特別価格」のほうが高かったのだ。とにかく小谷の値段は今日も1日50円である。

 丸1日働くのだから、普通なら7000~8000円、または1万円という感じで“労働時間相応の値段”に設定しそうなものだが、このホームレスは徹底して50円を貫いている。どれだけ働いても50円。自分人身売買の自分向けブラック企業で、その社長が一番理不尽な目に遭っている。

 実は、ここにカラクリがあって、たとえば草むしりの依頼で朝から昼まで草をむしったとする。そうすると、購入者は「これだけ働かせて、さすがに50円は申し訳ないな……」という気持ちになり、ホームレス小谷に昼ご飯をご馳走する。

 ホームレス小谷は昼ご飯をバクバク食べた後、また夜まで草をむしるむしる。

 次に購入者は「朝から晩まで働いてもらって、50円はオカシイだろうっ!」と夜ご飯をご馳走する。昼と夜、一緒にご飯を食べたら、すっかり仲良くなっちゃって、「小谷君、軽く呑みに行こうよ」という話になり、ホームレス小谷の購入者は呑み代も支払う。

 結局、購入者はナンジャカンジャで50円以上支払っているんだけれど、あとに残るのは50円と、“こんなに働いてくれて本当にありがとう”という恩。つまり、信用だ。

 最初の値段設定を1万円にしていたら、これは生まれない。

 ホームレス小谷は、この調子で毎日自分を50円で売り続け、毎日毎日、お金ではなく「信用」を積み重ね続けた。

ホームレスが250万円の大金を集められた理由

 そんなある日、「鬼ごっこの人数調整で名古屋に来てください」と50円で依頼をしてきた女性と恋に落ち、出会って二日後に籍を入れ、あろうことか「彼女のために盛大な結婚式を挙げたい」とスットンキョウなことを言い出した。

 もう一度言っておくが、ホームレス小谷はホームレスだ。

 結局、浅草の『花やしき』という遊園地を貸しきってド派手な結婚式を挙げることにしたんだけれど、1日の売り上げが50円のホームレス小谷の月収は1か月フルで働いても1500円で、とてもじゃないが費用が足りない。

 そこで目をつけたのが、クラウドファンディング。

 ホームレス小谷がクラウドファンディングで結婚式の開催費用を募ったところ、開始早々、モーレツな勢いで支援が集まり、なんと3週間で250万円もの大金が集まった。名もないホームレスにだ。

 では、どんな人が支援してくれたかというと、その正体は、これまでホームレス小谷のことを50円で買った人達。

「あの小谷君が結婚式を挙げるなら、そりゃ、もちろん支援するよ!」と、このタイミングで恩が返ってきたわけだ。

 その後、ホームレス小谷は、やはり50円で1日を売り続け、『信用』を積み重ね続け、何かの企画の折に立ち上げるクラウドファンディングは全戦全勝。

 彼は、お金持ちじゃないけど、「信用持ち」なのだ。

 信用の面積がバカみたいに大きいから、数値化(お金化)した時の額が信用の面積に比例して大きくなる。

 今の時代、クラウドファンディングやオンラインサロンなど、マネタイズの手段はたくさんある。

 ならば、ホームレス小谷が図らずも証明してみせたお金は「信用の一部を数値化したもの」という定義に基づいて、「表現者は信用の面積を拡大化させたら、それだけで生きていけるのでは?」と考えた。

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《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。

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