土地の知識があるかないかで、生死を分けることも

「私が伝えたいのは、正しく怖がるために土地の知識を持ってほしい、ということなんです」

 そう語るのは、地球科学コミュニケータの大木裕子さん。彼女の著書では、「住みたい街ランキング」の街がはたして安全であるのか、という疑問から始まり、住んでいい町かどうかの見極め方などを解説している。

「イメージなどで暮らす町を決めるとよく聞きますが、私はまずは安全なところに住むべきだと思っています」

 地震に台風、水害と自然の猛威に襲われやすい日本。災害に強い土地で暮らしたいと思うのは当然だ。

「大きな地震があったとき、場所によっては、すぐ近所でも震度が1違ったりすることも珍しくない。地震だけでなく、土砂崩れや液状化現象にしても、地盤などの土地の知識があるかないかで、生死を分けることも」

 大木さんが注目しているのは地盤である。

「地盤には地震に強い地盤と弱い地盤があります。弱い地盤の特徴は、①水を多く含む。②周辺と比べて低いところにある。③急傾斜地。④人工地盤。⑤火山灰など地盤を形成する素材が脆い。これらの特徴が1つ以上当てはまります」

 例えば、もともとあった地面にほかから持ってきた土砂をのせて作られた『盛土造成地』は、前述した特徴の①②④⑤が当てはまり、崩れやすい。また、水を含み不安定な『谷底低地』、崖の多いところ、湿地帯なども危険度が高いという。

「ボウルに水と大量の片栗粉を入れてかき混ぜ、ボウルの壁全面に片栗粉を貼りつけ整えます。すると、ボウルの中ほどに水が集まりやわやわになっていく。そして、片栗粉の壁は徐々に崩壊し、最終的にはボウルからズルリと滑り落ちます。弱い地盤はこのような状態にあるのです」

国土地理院が運営する「地理院地図」にアクセスし「土地条件図」で皇居周辺を表示してみると、同じ区内でも地盤はさまざまなことがわかる

住んでいい土地の種類は3種類だけ

 では、強くて安全な地盤とはどういうものなのか。

「住んでいいのは更新世段丘、完新世段丘、台地・段丘の3種類だけです。ざっくり言うなら、坂道を上りきり、平地が続く土地の中ほどにある、新興住宅街でない住宅地は安全です」

 ただ、台地だからと安心していても、点在する河川の周りは地盤が弱い場合もあるので注意が必要だ。

 自分が住む場所の特性は実はネット上である程度確認できる。

 国土地理院が運営する「地理院地図」にアクセスし、左上の「情報」欄から「主題図」→「土地条件図」を選択すると、主要都市が地盤ごとに色分けされる。色の凡例は同じページから閲覧できる。

 本誌は凡例と大木さんの話をもとにチェック表(次頁参照)を作成した。わが家はどんな地盤の上にあるのか、ぜひ1度、確かめてみてほしい。

 また、東京のように開発が繰り返され変貌を遂げた地域には、人工地盤が多く存在する。元の地形を知るには、図書館や資料館で閲覧できる明治時代の古地図を参考にするのもいいという。さらに、地盤の揺れやすさなどを確認するには、防災科学技術研究所が運営するサイト「地震ハザードステーション」内の『J-SHIS Map』がおすすめだ。

 危険地域に住んでいることがわかった場合、いったいどうすればいいのか。

「まず、なぜ危ないのかを知ることです。地盤の性質をとらえ、災害時に何が起こりうるかを調べたうえで必要な対策を取ることが肝心。洪水ひとつをとっても、自分の住んでいる土地の高さと河川の高さ、そして自宅と河川の蛇行の位置関係を知っていればずいぶん違う。地震についても同様です。自宅の地盤はどの程度揺れるのかを把握するだけで、耐震化の必要性や緊急性がわかります」

 同じ自然災害でも、知識や情報の不足から、本来は防げるはずの被害に遭ってしまうケースがあとを絶たない。知識を身につけることは、身近で大事な防災なのだ。

 

<プロフィール>

◎大木裕子さん 地球科学コミュニケータ、中小企業診断士。東京大学地震研究所や出版社勤務を経てウェブサイト『Solid Earth Channel』を運営。著書に『住んでいい町、ダメな町』(双葉社)