さまざまな問題が浮き彫りになるSNSだが、今回は売春を強要するツールとして使われていた。先月、知人女性に売春をさせていたとして、無職の女が逮捕された。女性はどのようにして身体を売るに至ったのか──

借りてもいない借金返済のために…典型的な“困惑売春” 

さまざまな人が行き交う静岡市内の繁華街で、容疑者とAは働いていた

 売春防止法違反の容疑で8月31日、警視庁築地署は、静岡市の無職・杉山歩容疑者(34)を逮捕した。

 2013年ごろ、静岡市内の『おっぱいパブ』と呼ばれる風俗店で一緒に働いていた後輩女性A(29)に、昨年10月から今年6月までの9か月間で約1300人の客を取らせ、1000万円以上も巻き上げていたという。

 逮捕容疑は、5月21日、「LINE」で、後輩のAに「払えないなら身体を売るしかない」などの心理的に威圧し困惑させるメッセージを送信し、同日、静岡市内のホテルで50代の男性相手に3万円で売春させ、代金を受け取った疑い。リンク法律事務所の紀藤正樹弁護士は、

「困るようなことをいって売春をさせる、典型的な“困惑売春”に見えますね」

 と全体像を受け止める。

 杉山容疑者は「私を不愉快にした。借金30万円」「今日じゅうに払わなければさらに20万円」といいがかりをつけて迫り、借りてもいない借金返済のために、静岡市や新宿歌舞伎町などで、客を引かせた。「寝る時間よりも仕事が優先」などとこき使っていた。

「えぐかったよな。“おい、行くぞ”って」

 静岡市内の繁華街、両替町通り─。昼間は閑散としている通りだが、夜8時ごろになるとネオンが輝きだし、キャッチが客を呼び込むにぎやかな通りに様変わりする。

 客引きのひとりは、「『おっパブ』の子は、けっこう店を転々とするんだよ。30歳前後というと、この世界では若くないから、何店舗か店を移っていたと思うけど」と“夜市場”の流動性を説明する。

 3年ほど前の杉山容疑者を知っているという男性が語る。

「えぐかったよな。“おい、行くぞ”って後輩に対して上から目線っていうかさ。かわいくはなかったね」

 男性はそれだけ話すと、余計なことだからこれ以上はと口を閉じた。当時から他者を支配する言動をしていたのか。

 容疑者が住むマンションは、JR静岡駅から徒歩約10分にある。共益費込みで家賃は約7万円。そこでAから巻き上げた金で暮らしていたのか。

自分の意志でやっていると思わされる

 Aは取り調べに対し、「家族にばらすと脅され、逆らえなかった」と供述しているが、杉山容疑者とAの間にマインドコントロールはなかったのだろうか。

 そのあたりの心理事情に詳しい前出の紀藤弁護士は、

「今回の事案に関しては、マインドコントロールというよりも脅しの要素が強い。ただ、利益の分配もマインドコントロールと密接に関係しています。自分で稼いでいると本人が認識することで、当初は嫌々やっていたものが、自分の意志でやっていると思わされるようになるわけです」

 さらに疑問に感じるのは、歌舞伎町の路上に立ち、客を引いていた事実だという。

「ひとりじゃできないですよ。通常は必ず監視がつきますし、暴力団の縄張りを荒らすことになる。だからこそ、杉山容疑者の背後に誰かいるように感じますけどね」(紀藤弁護士)

 今年6月、警視庁保安課と築地署がAを売春防止法違反容疑で現行犯逮捕したのは、まさに歌舞伎町で客引きをしていたときだった。

 Aは起訴猶予になったが、取り調べで杉山容疑者の関与が浮上した。売春を強要した前述のような文言がLINEの履歴に残されていた。