西の人間が、東の結婚式で「ウソでしょ!?」。東の人間が、西の葬式で「信じられない!」。狭い島国の日本とはいえ、冠婚葬祭の“当たり前”は東西でこれほどまでに違いました。

【金封の折り方】東はたとう折、西は風呂敷折

 “金封”とは、冠婚葬祭でお金を納める封筒(中袋)と、それを包むもの(上包み)。慶事の金封は祝儀袋など、弔事の金封は香典袋など。そんな金封の折り方は、東西でけっこう違う。

「東は“たとう折”、西は“風呂敷折”や慶事であれば鮮やかな飾り折りの“ひだ折り”が多いですね。でも全国的には、東の“たとう折”がメジャーです」(和文化研究家・三浦康子さん、以下同)

【結納】東はコンパクト、西は派手

 結婚が決まった両家の縁組みの儀式が、結納。

「関東式の結納飾りは、1品1品がコンパクトで、横長のひとつの台にまとめてのせるタイプが一般的です。関西式は1品1品が豪華で、品物ごとに台が分かれています。東西問わず、最も正式なのは9品です。

 目録も、関東では本人同士の名前を書くことが多いんですが、関西では“〇〇家”だったり、親の名前であることが多いです。

 結納返しとして、東は女性もさまざまな結納品を用意することが多いんですが、西は品物は返さず、受書をお渡しするのが一般的ですね。結納返しの額は、いただいた結納金に対し、東は半返しが主流ですが、西はだいたい1割程度です」

【引き出物】東は引き出物のみ、西はプラス縁起物

 結婚披露宴の出席者に対し、新郎新婦から感謝の気持ちを込めて贈られる品物が、引き出物。

「西では引き出物と一緒に、縁起物を加えますね。縁起物は、昆布(喜ぶ)やかつおぶし(勝男武士)、それこそ尾頭付きの焼き鯛(めでたい)をつけることもあるようです。縁起物がプラスされる分、相場は西のほうが少しだけ高いです」

【仏事の金封の水引】東は黒・白、西は黄色・白も

【仏事の金封の水引】東は黒・白、西は黄色・白も

 仏事の金封の水引は、実は東西で色が違う。

「東は黒・白ですが、西には黄色・白もあります。東の方が、黄色・白の水引を見ると驚かれますね。でも、れっきとした理由があるんですよ。皇室では紅白の水引といえば、紅が“玉虫色”。由緒正しい方法で染められていて、かなり黒に近いんです。傍から見ると黒・白に見えます。だから西では、御所があることもあり、“皇室に似せてはいけない”と、黒の次に弔いの意味を表す黄色を使うようになったんです」

【通夜ぶるまい】東は参列者全員、西は親族のみ

 通夜ぶるまいは、読経や焼香のあとに、遺族側から軽い食事と酒が振る舞われ、故人を偲ぶ場。故人とともにする最後の食事となる。

「東では参列者全員が出席しますが、西では親族のみが出席します。要は、西には通夜ぶるまいの習慣がないんですね。だから、西の方が東の葬儀に出席した場合“身内ではないから”と遠慮しますが、東ではひと口でもいいから箸をつけていくのが礼儀です」

【納骨】東は全収骨、西は部分収骨

 火葬後は、故人の遺骨を遺族や関係者が2人1組になって骨壺へと骨上げする。東は遺骨のすべてを骨壺に納めるが、西は遺骨の一部を納めるのみだという。

「よって、骨壺のサイズも東西で違うんです。東は6寸~7寸(約18cm~21cm)と大きめ、西は3寸~5寸(約9cm~15cm)と小さめです。東では骨壺に入りきらない場合、お骨を砕いてでも全部入れることが多いと思います。西では、入りきらなかったお骨は斎場に引き取ってもらいます。お骨のすべてを斎場に引き取ってもらうケースもあるようです」

【香典返し】東は半返し、西は三分返し

 通夜葬儀でいただいた香典のお返しとして品物を贈るのが、香典返し。

「“関東の半返し、関西の三分返し”なんていわれますね。東ではいただいた香典の半額程度を目安にした品物です。関西ではいただいた香典の3分の1程度の品物を選ぶことが多いようです」

【七日参り】東は2回だけ、西は7日ごとに計7回

 東では葬儀後の法要が、初七日と七七日(四十九日)だけというケースが多い。西では初七日、二七日、三七日、四七日、五七日、六七日、七七日(四十九日)と、7日ごとの法要をきちんと行う地域が多い。

「なぜ西は7日ごとにやるかというと、閻魔大王に裁きを受けるのが7日ごとだからです。7日ごとに“きちんと通れますように”“その裁きで地獄に落ちませんように”と親族が祈り、お経をあげます。四十九日は、極楽浄土に行けるかどうかの裁きが下る日。その日まで、細かく7日ごとに行うのが西の考え方なんですね」

【月参り】東はほとんどない、西はある

 一般的な命日は故人が亡くなった月日だが、月命日は故人が亡くなった日のみを指す。つまり、月命日は命日の月を除いた毎月(年に11回)やってくる。

「東では月命日に、お坊さんに来ていただく“月参り”という風習を有する寺院や地域は、ほとんどありません。西では月参りの風習があり、毎月の月命日にお坊さんに来ていただくことが多いです。七日参り同様、西のほうが手厚いですね」

【番外編】お中元&お歳暮、東西で時期が違う

 お中元は、関東が7月初旬~15日、関西は7月下旬~8月15日に贈ることが多い。

「お中元は、“お盆の供物を差し上げる”ことに由来しています。もともとお盆は旧暦の7月15日でした。しかし、暦が(旧暦から新暦に)変わったときに、月遅れの8月15日が一般的になりました(8月盆)。ただ、昔ながらの7月15日という日付を守っている地域もあります(7月盆)。東京や横浜のような都市部です。函館もそうですね。

 都市部には、地方から来ている人が多くいて、必ず盆と正月には帰省していました。だから、地方とはズレていたほうが都合がよかったんです。お盆の時期が違うことに伴い、お中元の時期も異なっているんです」

 お歳暮は、関東は12月上旬から、関西は12月中旬から贈り始める人が多い。

「お歳暮は“お正月の供物を差し上げる”という考え方に由来しています。“正月事始め”といって、すす払いをして正月を迎える準備を始める日が12月13日。だから、この日以降にお持ちするのが本来のお歳暮です。関西にはこの考え方が残っているので、12月中旬から。厳密な家では12月13日以降です。

 そういう意味では、関東はフライングになりますね。現在は、お歳暮を“1年間の感謝のしるし”と考えるようになっているので、“12月に入ったらお贈りしよう”が関東なんですね」

【名古屋編】派手さでいったらやっぱり…!

「名古屋で娘が3人いたら家が傾く」「嫁をもらうなら名古屋から」なんて言葉もあるくらい。結納品もド派手で、反物や酒樽が用意されることもあるという。

「紅白の帯で結んだ嫁入り道具を、トラックの荷台にパンパンに積み、見せびらかしながら走る“嫁入りトラック”は今でもあります」

 そのトラックは家具店から新居へは直接向かわず、まず新婦の家へ。そこで身内や近所の人を集めてお披露目の会を開き、“いい家具ね~”と褒めちぎってもらった後に、新居へと向かうそう。“出戻り”に通じるので、バックするのもNG。

 結婚式の当日は、新婦が家を出るときや披露宴で“これでもか!”とお菓子をまく“菓子まき”も。まかれた菓子の量が、結婚式の豪華さを表すんだとか。

「とはいえ最近は、昔ほど派手にやらなくなってきてはいるようです」