歩き疲れたときにひと休みしたり、ランチやスイーツを楽しんだり。日本中どんな街にもある、散歩のお供に欠かせないスポットが喫茶店。中でも、ノスタルジックな雰囲気漂う『純喫茶』は、街歩きの合間にちょこっと寄るだけでも、意外な発見がタップリ。

「個人経営の純喫茶のいちばんの魅力はやっぱり、マスターの個性が店のあちこちに色濃く出るところ。商品の味や盛りつけはもちろん、照明の明るさ、ソファやテーブルの形、BGM、冷房のきかせ方、マッチのデザイン……。雰囲気が似ているようでも、その店ならではの“こだわり”が必ずどこかにあるんです」

 と、 純喫茶巡りのプロ、難波里奈さんはその魅力を語る。これまで足を運んだお店は、のべ1600軒以上! 純喫茶への愛は日本一といえるかもしれない。

 まち散歩のついでに、まずは気の合う友人と連れ立って行ってみるといいそう。

懐かしのクリームソーダ(写真はイメージです)

「パフェやプリン、クリームソーダは大人になるとめったに食べなくなるのでは? 純喫茶ではぜひ頼んでみてほしいです。見た目の可愛さや懐かしさに思わず童心に戻り、ワクワクする時間はきっと楽しいはず」

 純喫茶巡りにハマり始めたら、“行きつけ”のひとつでもできるとなんだかカッコいい。とはいえ、星の数ほどある店の中から、どうやって好きな店を見つければいいの?

「知らないお店に入っていくのは勇気がいりますが、純喫茶巡り初期におすすめなのは、外から中が見え、6割くらいはお客さんがいて、はじの席が空いているお店。

 お気に入りを見つけたら、今度はなんとなく、たたずまいが似ている店を選ぶんです。10軒くらい続けると、外観や看板だけでも好みのお店か判断がつくようになってきますよ」

 閉店の1時間前など混雑しにくい時間に行き、マスターとゆったりと会話を楽しむのもいい。

 心惹かれる店が増えてきた人は、喫茶店巡りをまち散歩の目的にしてみても楽しい。学生街や下町は雰囲気がよく、純喫茶も多い。ちなみに、全国的にも喫茶店が多いスポットは……。

「まず浮かぶのが、大阪の天神橋筋。1丁目から6丁目まで、日本一長いといわれる商店街がありますが、個人店だけで数えきれないくらいあります。私はそこで1日13軒、ハシゴしたこともあります(笑)」

 それでも使ったお金は、1万円にも満たなかったとか。1軒あたり、1000円もあれば十分楽しめてしまうのも、喫茶店巡りのいいところ。

「純喫茶は、“生ける昭和の博物館”。入場料がわりに、コーヒーやソーダ代を払うんです。歴史が長い、いいお店はたいてい、古いものを大切に丁寧に手入れしながら店の雰囲気を守り続けている。それを楽しむのに1000円でお釣りがくるのは、お得ですよね」

難波さん厳選! 日本全国純喫茶ベストセレクション

◎オリンピア(北海道)
「階段の手すり細工、飴色の壁、赤いソファー、大きなシャンデリア。当時の最先端だったはずの店内は今も美しいです」
*住所:北海道札幌市中央区北4条西6丁目1 北四条ビルB1/営業時間:8時~18時/定休日:土曜、日曜、祝日

◎道玄坂(宮城県)
「貴重な漫画が棚にズラリ。つい長居してしまいます」。店内のランプもランタンからキャラクターまでバラエティー豊か。
*住所:宮城県仙台市青葉区国分町1-3-25/営業時間:8時~20時(土曜は~14時)/定休日:日曜、祝日

「道玄坂」の内観

◎カフェ アルル(東京都)
「かわいい猫2匹は住み込みで働く立派な正社員。ナポリタンならぬ“ニャ”ポリタンがいただけます」。都会の喧騒を忘れられそう。
*住所:東京都新宿区新宿5-10-8 1F/営業時間:11時30分~22時/定休日:日曜

「カフェ アルル」のナポリタンならぬ““ニャ”ポリタン

◎ブルートレイン(富山県)
「店内には電車模型が走っていて、運転席まで。探究心がくすぐられます」。砂糖壺やお皿の片隅などにも列車が見え隠れ♪
*住所:富山県富山市鹿島町1-9-8/営業時間:10時~19時/定休日:火曜

「ブルートレイン」の店内

◎ミュンヒ(大阪府)
 いちばん高い商品は「珈琲1杯10“万”円、カップは500“万”円。しかも、男前マスターのブロマイドがいただけるかも!?」
*住所:大阪府八尾市刑部2-386/営業時間:6時~L.O.翌2時/年中無休(不定休あり)

マスターから珈琲まで超一流の「ミュンヒ」

◎ニューリンデン(岡山県)
「外観は遠くからでも目立つピンク色、店内はクラシカルな珈琲色。豊富な料理メニューは1つ1つきちんとおいしい」。その数なんと約250種類!
*住所:岡山県倉敷市広江1-14-25/営業時間:8時〜21時/定休日:月曜

◎冨士男(長崎県)
「フルーツサンドといえば、こちらを思い出すほどおいしい。タマゴサンドも人気」店内の装飾やカウンター上の新鮮な果物にも注目♪
*住所:長崎県長崎市鍛冶屋町2-12/営業時間:9時~19時/定休日:第2木曜

「冨士男」のフルーツサンド

純喫茶雑学Q&A

【Q】純喫茶の「純」って何?

【A】アルコール類を提供しない喫茶店、という意味。大正時代に流行った「カフェー」は、アルコールを出し女給が接客を行う、現在のクラブのような店で、「特殊喫茶」と呼ばれていた。それと区別するためにつけられた

【Q】日本初の喫茶店はどこ?

【A】1888年、下谷区上野西黒門町二番地(現在の東京都台東区上野1-1-10)で開店した『可否茶館』。建物は2階建ての洋館で、海外の新聞や雑誌も置いていた。店内には、化粧室や更衣室、シャワーまで完備されていたというから驚き!

【Q】クリームソーダは何色?

【A】お店やフレーバーによってさまざまなので、正確なところは不明。東京・千代田区の『さぼうる』では、赤・青・緑・黄の4色のなかから選択できる。4人組で訪問し、机の上に全色並べてみたらワクワクしそう♪

【Q】純喫茶の多い都道府県は?

【A】チェーン店も含め約1万2000店の大阪府、1万1000店の愛知県の2県がダントツ。人口では1.5倍の3位・東京都の約8000店を大きく引き離している。人口1万人あたりの店舗数では、17.7店の高知県が1位(いずれも平成18年度調べ)

【Q】現役で最古の純喫茶って?

【A】1911年創業の『銀座カフェーパウリスタ』。ただし中断期間があり、’23年の関東大震災で閉店し、’70年に再開。次点が、東京・日本橋人形町にある『喫茶去 快生軒』。’19(大正8)年8月8日、末広がりの8並びの日に創業

<プロフィール>
◎難波里奈さん
東京喫茶店研究所二代目所長。会社勤めの傍ら仕事帰りや休日に純喫茶を巡り続け、その数は今や1600軒以上。著書に『純喫茶、あの味』(イースト・プレス刊)など。今後行きたいのは北海道の「喫茶めるし」

※写真はすべて難波さん提供