結婚しない30代、40代が増えている。'10年の国勢調査によると、女性の未婚率は30〜34歳で34・5%。'80年には9・1%なので、この30年で約4倍に跳ね上がっている計算だ。しかも、生涯未婚率も年々上昇。'80年には女性4・45%だったものが、'10年には女性10・61%に。

 結婚する、しないにかかわらず、娘にはとにかく幸せになってもらいたいのが親の本音。親の備えや豊かなおひとり様の老後について、お金のプロに教えてもらいました。

老後の必要費用を出し、娘に経済的負担をかけない

結婚だけが幸せじゃない! 親ができることから娘の幸せを考えてみた(写真はイメージです)

 結婚しない娘へ、親としてお金の面でしてあげられることは? お金のプロである、ファイナンシャルプランナーの栗本大介さんに聞いた。

 親のマネープランで一番大切なことは「娘に経済的負担をかけない状態にしておくこと」と栗本さんは話す。そのためには、最低限の生活費と、自分たちが受け取れる年金額を明確にしておき、必要な額を備えよう。

 例えば、毎月の生活費として夫婦で20万円必要で、受け取る年金額が15万円だとすると、差し引きは5万円。65歳から90歳まで生きると仮定すると、5万円×12か月×25年=1500万円が生活費として貯めておきたい額になる。ここに医療費や介護費を足していく。介護費用は仮に5年の介護期間の場合、在宅で180万円、施設入居なら900万円程度が自己負担の目安となる。

 これらの総計が、2055万〜2775万円となるわけだ。このほか、車の買い替えや旅行、住宅リフォームなど、各家庭で必要な出費も忘れずに。

娘の老後資金は年金額に要注意

 次は、娘の老後だ。いくらぐらいあれば、安心して暮らしていけるのだろうか。「老後に必要なお金の考え方は、親世帯と同じ」と栗本さん。つまり、最低限の生活費と受け取れる年金の見込み額を考え、同じ流れで計算すれば出てくるというわけだ。

 ただし注意したいのは年金の額。「娘さんの年金加入状況によっては、親世代より受取年金額が少ない可能性も。その場合、遺産などで経済的な補塡を考えてあげることが必要でしょう」(栗本さん)。忘れがちなのが、住居にかかる費用だ。ひとり暮らしだと家賃が必要となり、一方、親と同居の場合は家賃はないが、実家の修繕費やリフォーム費用がかかってくることも。

 また、生涯独身の場合、介護費用は施設介護が前提となる。具体的な金額と計算をしていくとひとり暮らしで生活費は月15万円、年金は月額8万円ぐらいが見込める場合は、7万円が不足額なので、65歳〜90歳の25年間では生活費だけで2100万円が必要。ここに医療費、介護費、自由に使いたいお金などを加えていく。

 そして、親にも娘にも共通する注意点として栗本さんが挙げるのが、「50歳ぐらいになったら、将来の年金見込額をイメージし、その範囲で生活費を賄う習慣を作っておく」こと。日常生活をすぐに変えるのは難しいもの。習慣を変え、備える姿勢を、親の背中から学んでもらうことも大切だ。

介護については今すぐ話し合いを!

 マネープランに加え、親の老後について、親子でよく話し合っておくことも、備えのひとつ。優先して話し合っておくとよいことは?

「親である自分たちが倒れてしまったり、認知症などで判断能力がなくなった場合に、どうしてほしいのかの希望です」と、栗本さん。とくに、介護については自分がどうしてほしいかをはっきりと伝えておくこと。施設介護を希望する場合、すぐに入居できないときはどうするかを考え、兄弟がいるなら子ども同士に共有させておく。

 こうした話題を、病気になったら話そうと考えている家庭も多いもの。しかし、親がある日突然倒れてしまうこともありうる。栗本さんは「この機会にすぐにでも話し合ってください」と警鐘を鳴らす。

 とはいえ、親世代も子世代も切り出しにくいのがこの話題。そうした場合、テレビで老後の問題が取り上げられることがわかっていれば、それを一緒に見る、この記事のような雑誌特集をきっかけにするなどがおすすめ。話し合いやすい場を意識して作ろう。

心のセーフティネットとなる人を見つけておく

 栗本さんが「ある意味、お金よりも大切」と言うのが、親が不在になったとき、娘が頼れる人をつくっておくこと。「不在」とは、亡くなることだけではなく、大病を患ったり、認知症になったり、要介護状態になるなどの状態を指す。

 そうした場合、医療費や介護費の準備をしていたとしても、身の回りの世話は未婚の娘に偏りがちなもの。娘の相談相手が親だけの場合、精神的な負担が重くのしかかることに。

 娘にとっての叔父や叔母、近所の人、例えば、ファイナンシャルプランナーや保険会社の営業員など生活にかかる相談を受けている専門家など、「私が倒れたらこの人を頼りなさい」という相手を娘に教えておこう。

 また、相手に対しても事前にその旨を伝えておくことも必要だ。「周囲の人との関係を良好に保ち、“あの人の娘さんだから、なんとかしてあげよう”と思ってくれる人をつくりましょう」(栗本さん)

おひとり様の老後に大切なこととは

 おひとり様の豊かな老後がイメージできれば、親としても安心できるはず。ファイナンシャルプランナーとしてさまざまなケースを見てきた栗本さんに、おひとり様女性の老後にとって大切なことを聞いた。

 まず挙がったのは、老後に生き生きしている人の多くは打ち込める趣味や気軽に参加できるコミュニティーを持っていること。

 注意すべき点は、同じ境遇の友人を頼りすぎないこと。おひとり様のなかには、友人と「将来もお互い助け合って生きていこうね」と約束している人も少なくないが、ケンカで疎遠になったり、親の介護で故郷に帰るなど関係が変化する可能性も。「いつまでも今のままの状況が続くとは限らないという点も認識しておきたいものです」(栗本さん)

 女性は身の回りの家事で困る人は少ない反面、住んでいる家が古くなったときや、家電製品の買い替えなどで相談先に困るケースが多い。そういったときに備えて栗本さんがおすすめするのが、近所の家電店や不動産業者と顔見知りになっておくこと。また、保険の担当者は幅広い人脈を持っているケースが多い。自分が困ったときに助けてくれそうなキーマンをつくっておくと安心だ。

 おひとり様の女性で穏やかに生活している人は、親子仲が良好な人が多いと栗本さんは話す。そのポイントは、親からあれこれプレッシャーを受けていないこと。結婚や自身の老後のことなどわかってはいても、娘自身、今すぐどうにもできないことも多く、触れられたくないもの。

「娘さんのことが心配な場合は、“私たち(親)自身の心配事について、娘を頼って相談している”という姿勢を取ると、コミュニケーションの質が変わってくるのではないでしょうか」(栗本さん)

 コミュニケーションがとれているほうが老後の希望を伝えたり、相談もしやすい。親子仲のよさも娘に残してやれる“財産”なのかもしれない。

<プロフィール>
◎栗本大介さん
'71年、滋賀県生まれ。ファイナンシャルプランナー。エフピーオアシス代表取締役。生活経済研究所長野主任研究員。栗本FPスクール主宰。滋賀と長野を拠点に全国で講演行脚。『40代からのお金の教科書』(筑摩書房)など著書多数。