「学歴・頭のIQ」で、「仕事能力」は判断できない。仕事ができるかどうかは、「仕事のIQ」にかかっている。『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(ミセス・パンプキンとの共著)が合わせて22万部突破の大ベストセラーになった「グローバルエリート」ことムーギー・キム氏。彼が2年半の歳月をかけて「仕事のIQの高め方」について完全に書き下ろした最新刊『最強の働き方――世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓』は、アマゾンでも4日連続で総合1位を獲得するなど、早くも14万部を超える異例の大ベストセラーとなっている。本連載では、ムーギー氏が「世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ教訓」の数々を、『最強の働き方』を再編集しながら紹介していく。

一流の人は接待で「他人任せ」にしない

「この人、『業界のレジェンド』として有名な大金持ちやのに、接待となると細部にまで『手抜き』っちゅうもんがないな……」

 世界中の職場でさまざまな人を見てきて感じるのが、仕事がデキる一流の人は総じて、接待には「これでもか!」と気を配り、エネルギーを最大限費やすということだ。

 一流の人ほど、どれほど多忙でも、「接待のための店選び」は決して他人任せ、秘書さん任せにしない。店を選ぶときにはわざわざ自分で足を運ぶし、なかには自腹でお客さんに出す予定のコースを事前に食べている人までいた。

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 逆に二流の人は、接待の準備もことごとく二流である。大事なお客さんなのに、相手の好みやさまざまな事情を下調べせず、「会社のカネで大冒険しよう」と、自分が行ったことのない人気レストランを予約したりするのだ。

 接待も一事が万事で、仕事がデキるかどうかの「仕事のIQ」は、接待ひとつに如実にあらわれてしまう。

 では、いったい「一流と二流の人の接待」は何が違うのか。たかが1回の接待で、「二流の人のどんな恥ずかしい欠点」がバレてしまうのか。早速、紹介しよう。

 接待でバレることのひとつめは、あなたが「接待の目的」を毎回きちんと理解しているかどうかだ。

接待の場によくいる「困った人たち」

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【1】「接待の目的」をわかっているか

 一流の接待とは、たんに高くておいしいごはんを食べて、気安い話題でワイワイガヤガヤやることではない。

「オフィスを離れてリラックスした雰囲気の中、プライベートな信頼関係をつくり、それをもとに仕事を円滑に進める」のが接待の基本的な役割である。

 もちろん、「接待の目的」は毎回ケースバイケースだ。「仕事のミーティングの延長上」のものもあれば、「たんに仲良くなることが目的」のもの、「これまでの支援に感謝を伝えるため」のものまでさまざまある。

 しかし、そういう「接待の目的」を理解していない二流エリートは驚くほど多い。

 たとえば、「お互いを個人的に知ることで信頼関係を強める目的」の接待の場で、ひたすら市場環境やリスクファクター、新製品について延々と話す、困った人々も存在する。

 あるいは、まだ仕事が終わっていないから議論を続けなければならないのに、いきなり頭にネクタイを巻き、服を脱ぐ兆候を見せ始めるような二流の人もいる。

 接待にのぞむ前に、「そもそも、その接待で達成したいことは何なのか」、そして「設定した目標はそれでいいのか」を毎回きちんと明確にしなければならない。

 さもないと、それは「ビジネス接待」にならず、たんなる「会社のカネで飲み食いするだけの場」で終わってしまうだろう。

【2】「食材への配慮」ができるか

 もうひとつバレるのは、あなたが「どのくらい他人の個別事情に配慮できるか」だ。

 仮に気心の知れた仲の良いお客さんと行くなら、あなたの好きな焼肉屋やウナギ屋、天ぷら屋でもいいだろう。

 しかし、海外のお客さんとのビジネスディナーでは、来る人の背景が多様なだけに「細心の配慮」が接待の成否を分ける。

 なかでも重要なのが、「食材制限への配慮」だ。欧米やインドにはベジタリアンが恐ろしく多い。ベジタリアンのインド人のお客さんを、神戸牛の焼肉屋さんに連れて行ってしまっては、「あなたばかりおいしい肉を食べて、お客さんはサンチュとキムチだけ」という二流以下の接待になってしまう。

 また、当然のことながら、「食物アレルギーへの配慮」も怠ってはならない。私自身、ピーナッツアレルギーで気絶したアフリカの投資家を目撃したことがある(120キロの巨体なのに、本当にピーナッツ一粒で気絶したのだ)。

 こういう事態を防ぐためには、「徹底的な事前リサーチ」が重要になる。

 相手の好みや食べられる料理をうまく聞き出し、仮に忙しくても自らレストランを下見し、味や雰囲気を確認したうえで万全を期すことが「一流の接待」には不可欠なのである。

 もうひとつ接待でバレるのは、あなたが「文化的・宗教的な配慮」と「最低限の教養」を持ち合わせているかどうかだ。

【3】「文化的・宗教的な配慮」ができるか

 いろいろな国の人との接待では、多様な文化と宗教に対する理解と配慮が不可欠になる。日本にずっと住んでいると気づきにくいが、宗教を信念のコアにもっている人は、ビジネスの世界にも大勢いる。

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 以前、香港でユダヤ教徒の大口投資家を接待する機会があったが、間違って秘書さんが広東料理のお店を予約してしまった。広東料理というと海鮮物で有名だが、ユダヤ教の人たちは魚介類を食べられないのだ。

 あわてて私がコースから魚介類を取り除くように頼むと、なんとビックリ、メインのロブスターやホタテ貝を取り除いた、付け合わせのブロッコリーばかりが出てきて、お客さんが怒ってしまったのだ。

 大急ぎでコースにはない別の料理を頼んだので事なきを得たが、そのときの凍りついた怒りの表情は「食べ物のセレクションをなめたらアカン」と深く肝に銘じるきっかけとなった。

 これだけではない。豚肉をいっさい口にしないイスラム教徒の中には、「豚肉料理をよそったスプーンで、ほかの料理を触ってもダメ」という厳しい人もいる。モルモン教徒にとっては、アルコールはおろか、コーラも茶もカフェインが入っているのでNGなのだ。

 食文化への理解はその人の全人格への尊重を示すことにもなるので、十分に配慮したい。

「仕事の話しかできない人」は軽く見られる

【4】「幅広い教養・話題」で相手を楽しませられるか

 もうひとつ、接待でバレるのは「知的な人を楽しませるだけの教養」があるかどうかだ。

 もしあなたの接待相手が「二流のお客さん」なら、接待が始まるや否やパンツ一丁になろうが、関係各位の了承があるならいいだろう。

 しかし、「一流のお客さん」が相手の場合は、ウィットと幅広い分野の豊富な知識、ユーモアのセンスで、忙しい接待先を魅了しなければならない。

 私の参加した無数のディナーミーティングでも、偉い人が世界各国から集まって何を話すかと思いきや、ひたすら歴史や美術、趣味の話に終始したことも多かった。

 ビジネスパーソンとしての価値は、ビジネス以外の場でにじみ出る教養やマナーによって値踏みされる傾向にある。実際、グローバルビジネスで成功する人の中には、経済や金融専攻ではなく、哲学や宗教、英文学を専攻したような人が意外にも多い。

 けっして仕事の話ばかりするのではなく、自分の人間的な深みや面白さを伝えて「この人と一緒にいると楽しい」という感覚を相手に叩き込むことが求められる。そうやって構築されたプライベートな関係が、ビジネスの関係に発展していくのだ。

 そのためにも、日ごろから勉強に励んで視野を広げつつ、歴史的・哲学的・文化的な見識を高めておくことが重要になる。くれぐれも「社交や会食の場で、仕事の話しかできない人」は"教養がない”と軽く見られることを忘れてはいけない。

 では、一流の人に学ぶ「接待の秘訣」は何なのか。これまで述べてきたことの裏返しである「接待の目的の認識」「食材+文化的背景への配慮」「幅広い教養」に加えて、世界の一流ビジネスリーダーたちが意識しているポイントを2つ解説しよう。

【1】「偉くない人」への全方位気遣い

 接待中、見ていて痛々しいほどに、お客さんの中の「偉い人」「意思決定者」にのみ全神経を集中させる二流の人がいる。

 そういう人に限って、自分の部下や店員さんには平気で非礼な態度をとり、またお客さんの中でも下っ端の人には最初の名刺交換以降、目配せすらしない。

 これに対して一流の人は、接待の気配りも一流である。下っ端の「若手の部下」にも酒をつぎ、等しく笑顔で話題をふり、店員さんにも極めて丁寧に接する。お客さんの飲み物がなくなりかけたら部下にそっと囁くし、帰宅の時間が近づけば1秒も待つことなく、タクシーがシームレスに用意されている。

 一流の接待の場では「いちばん偉い人が、細部にまで等しくいちばん気を遣っている」ものである。

 年齢や役職は関係なく、接待に参加している人全員に敬意をもって接しているかどうかが、その場の雰囲気づくりに重大な影響を与えるのだ。

【2】「偉い人」の文化的気遣い

 接待を語るうえで最後にご登場いただくのが、まさかのロイヤルファミリーである。

 私が親しくしている某国の政府高官がその皇族と留学時代の友人で、そのよしみで私も食事会に参加させていただいたことが最近あった。

 そのときの食事会の文化水準が高いこと高いこと。食事が始まる前にまず、伝統楽器の演奏が始まり、その楽器の歴史に関するレクチャーを演奏者が行い、その国の歴史や文化について高尚な経験ができるように配慮されていた。

 もちろん食事のコースもその国の伝統が反映されているメニューが厳選され、話題もエリザベス女王に会ったときの話や環境問題から外交問題まで、トピックも俗世を離れている。

 私は何も、すべての接待で、「いきなり琴と和太鼓の演奏会で始めて、縄文時代から明治維新に至るまでの日本史をぶつぶつ発表せよ」などと言いたいわけではない。

 ここで申し上げたいのは、たんにお客さんとワイワイ騒ぐだけの接待も別にあっていいが、「接待の目的の設定」から、「食材+文化的背景への配慮」「会話のトピックの厳正な選定」そして「文化的体験」まで、細部にこだわった「一流の接待」が世の中には存在するということだ。

 新著『最強の働き方』では、お客さんへのお土産選びで、毎回、包装紙やリボンにまで徹底的にこだわる人の話を紹介した。万事に気を配り、こだわれる人ほど、ビジネスでもいい仕事をし、成果を残すものである。

 二流の人は、接待も二流である。たかが1回の接待で、大きな仕事にも共通する「徹底した細部への配慮」があるかどうかが見事なまでにバレることを、肝に銘じなければならない。

《著者プロフィール》ムーギー・キム ◎1977年生まれ。「東洋経済オンライン」でフランス、シンガポールおよび上海での生活を書き綴った人気連載「グローバルエリートは見た! 」は年間3000万PVを集める超人気コラムに。 著書に、2冊ともベストセラーになった『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)と『一流の育て方』(母親であるミセス・パンプキンとの共著、ダイヤモンド社)がある。『最強の働き方』の感想は著者公式サイトまで。