牧村朝子さん

 テレビではLGBTの方々を見る機会が多少増えたけれど、実際に身近な人にカミングアウトできる人は少なく、偏見や差別の目にさらされる人が多いのが現状です。

 そんな中、さまざまなマイノリティーの生き方を描いた映画や舞台が増加中。エンターテイメントとして楽しみながら、自分の中の偏見を解き、LGBTへの理解を深めてくれる作品を、タレント・文筆家の牧村朝子さんが紹介します。

 牧村さんがレズビアンだとカミングアウトしたのは、大学進学を機に、実家から東京に出た後のこと。最初はSNSのグループを通してだった。

「差別的な世間が気になるというより、自分がどう扱われるのかが怖かったですね。レズビアンだと言った瞬間、住む世界が変わってレズビアンという生き物になってしまうと。でも、周囲に言ってからは楽になりました」

 フランス人女性のパートナーとフランスで結婚、帰国後はLGBT(※1参照)に関連した諸問題と真摯に向き合っている牧村さんは「LGBTであってもなくても人はみんな違う、という当然のことを思い出せばいいだけ」と語る。

「この5年で、悪意を向けられることは驚くほど減ったと感じます。でもまだ『バレたら人生終わり』と思っている人もいっぱいいる。一橋大学ロースクール事件(※2参照)のようなこともまた起こりかねません。

 今はSOGI(※3参照)という言葉も生まれていますが、性的指向は異性愛だけ、生まれたときの肉体と合致した性だけしかないと思い込んでいる世界がまだあり、そこではLGBTが理解されようがないですから」

(※1)LGBT
 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれたときに診断された性別とは違うあり方を生きる人。性同一性障害を含む)の頭文字をつなげた、いわゆるセクシュアル・マイノリティー(性的少数者)を示す言葉。ただし、この4つに属さない性的少数者もおり、この言葉でひとくくりにされることに違和感を感じる人も多い。牧村さんは「人間の種類を指す言葉ではなく、差別に立ち向かう人々のチーム名ととらえてほしい」という。

(※2)一橋大ロースクール事件
 2015年の9月、一橋大学の法科大学院に在籍していた男子学生が、思いを告白した同性のクラスメートにLINEのグループで同性愛者であることを暴露(アウティング)され、心身を病んで転落死してしまった事件。

(※3)SOGI(ソギ)
 セクシュアル・オリエンテーション・アンド・ジェンダー・アイデンティティーの略で、性的指向と性自認という意味。性的マイノリティーのみならず全人類が対象。SOGIは人それぞれであり、SOGIによる差別はすべきでない、という当たり前のことを違和感なく言い表す言葉として、広く認識され定着することが待たれている。

牧村さんのおすすめ映画

 理解を深められそうな、牧村さんがおすすめする映画の1本は『ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判〜』

「2組の同性カップルが、カリフォルニア州の同性婚を禁じる修正案と闘う姿を追ったドキュメンタリーです。裁判の練習で味方の弁護士がすごく意地悪な質問をぶつけてくるのに、べそをかきながら必死で答えたり。そんな苦労のかいがあって本当によかったと思えます」

 もう1本はディズニーアニメ『ズートピア』

「LGBT映画ではないのですが、差別や偏見、多様性を認めることについて、すごくわかりやすく語っている映画。LGBTを意識し暗示させつつも直接的に訴えるのではなく、コアな部分をつかんでお話としてうまく見せています。

 LGBTとひと言でいってもいろんな人がいますから、いろいろな作品を足がかりにして理解を深めてほしい。たくさん見ることで、“LGBTといっても、いろいろあって、逆に何だかわからなくなった”、“もっと知りたい”と思ってほしいです」

<作品紹介>

■『ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判〜』

同性婚禁止を覆すため5年以上にわたって闘った記録

 2008年に同性婚が認められながら、半年後に修正案「提案8号」で覆ってしまったカリフォルニア州。これに対し、男性同士と女性同士のカップル2組が異議を唱えて提訴した。パートナーとの愛を貫きたい一心で酷い差別にも耐え抜くカップルたちの人柄、愛のパワー、そして法廷サスペンス的な道程が大きなカタルシスを呼ぶ。

本編112分/個人鑑賞用DVD4000円(税別)/発売元:ユナイテッドピープル

(c) 2014 Day in Court, LLC

■『ズートピア』

レッテル貼りや偏見に負けない、ヒロインと相棒に勇気づけられる

 警察官になるという夢を叶えたウサギのジュディが、すべての動物たちが共存する理想郷、ズートピアで連続行方不明事件に遭遇。詐欺師のキツネ、ニックとともに謎に立ち向かう。物語にはマジョリティーとマイノリティー、多様性、差別や偏見の弊害といった深読みしがいのあるメッセージが満載。LGBTらしきキャラも登場している。

本編108分+特典映像/MovieNEX4000円/発売・販売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

(c)2016 Disney

<プロフィール>
牧村朝子さん
LGBTを中心に、社会的弱者についての諸問題を専門分野とし、タレント・傾聴ボランティア・執筆業を通して、周りと共有しづらい悩みを抱える人々に向けての活動を続けている。著書に、『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』(星海社新書)などがある。