撮影/齋藤周造

 日本の第一次産業を応援する映画シリーズの第3弾『種まく旅人~夢のつぎ木~』(岡山県先行公開中、11月5日[土]全国ロードショー)に主演する高梨臨。

 兄の病をきっかけに女優の夢をあきらめて東京から故郷の岡山県赤磐市に戻り、実家の桃農家を継ぎながら市役所の職員としても働くヒロイン・片岡彩音を演じる。

「白桃は紙袋に包んで、日の光で赤くならないようにするんですけど、甘みとみずみずしさがすごいあって。今まで食べたことのない、衝撃のおいしさでした!」

 撮影は赤磐市と岡山市で3週間にわたって行われたという。近隣のおばあさんや子どもたち、市役所の職員役も現地の方々がエキストラとして参加していたりと、まさに町ぐるみでの撮影だった。

「毎日、岡山の空気を吸って、周りの人たちともコミュニケーションをとって。いろんな方が話しかけてくれて、自然と温かい気持ちになれる環境を監督が作ってくれたんだなと思います」

 これまで『半落ち』や『ツレがうつになりまして。』などの作品を手がけ、ヒューマンドラマを得意とする佐々部清監督ならではの温かい現場だったようだ。

斎藤工はある生物に似ている!?

 作中で描かれる斎藤工演じる農林水産省の職員・木村治と彩音の淡い恋模様は、女性ならきっとキュンとしてしまうはず。赤磐にやってきた木村のことを、彩音が「マダコが確定申告しに来たみたい」と例えるセリフはインパクト大だったけど……!

「あれは監督が現場で書き換えたんですよ(笑)。最初、セリフでは“マダコ”じゃなかったんです。現場にあるもののなかで一番工くんに似ているものは何だって、監督が探し始めて、マダコがいいんじゃないかって(笑)」

高梨臨 撮影/齋藤周造

 亡き兄が残した新種の桃「赤磐の夢」の品種登録を夢見てひたむきに頑張る彩音を、高梨はどうとらえて演じていたのだろう。

「彩音も、彩音のお兄ちゃんもそうですけど、自分の夢をあきらめて桃農家を継いで、品種登録を新しい夢にして頑張ってるっていうのが、すごく勇気があるし、素晴らしいなと思います。夢は一つじゃなくていい、というのが現実っぽいなと思ましたし。人間みんな『もうだめだ』と思うときもあると思うんです。それでも一生懸命まっすぐ向いていくっていう姿は、私も影響を受けました。

 夢を語るって、今の時代、ダサい・恥ずかしい感じにとらえられてるけど、夢をもって一生懸命やることは素晴らしいことだって願いもこめて、監督が『夢のつぎ木』ってサブタイトルをつけたらしいんです」

 高梨自身はもともと女優を夢見ていたのだろうか。

「いや、全然。幼稚園の頃はお花屋さんになりたかったですし、そのあと漫画家になりたかったこともあったし。きっかけはスカウトではあったんですけど、芸能界に入った中で夢をみつけて一つ一つのお仕事をやってるので、そういう意味では彩音と通じる部分があったのかなと。

 今はセリフを覚えよう、役作りしようっていうのも、一個一個が夢の種ですし。その中で出会っていく人たちとまた出会えるように頑張ろうって思うことも、種をまいてることだな、と日々思います」

プライベートQ&A

高梨臨 撮影/齋藤周造

――休みの日の過ごし方は?

「休みの日は基本的に何もしてないんです。家で映画とか見てることが多くて。結構多趣味なので好きなことはいっぱいあるんですけど……常に役について考えているなと。この作品の撮影中だったらずっと彩音のことを考えてますし。意外と自分って何もないんだなあって思います(笑)」

――多趣味ということですが、具体的には?

「飽きっぽいのですぐやめちゃったりするんですけど、将棋やゲーム、マンガも好きで。どちらかといったらインドアかもしれないですね。最近はずっとパズルゲームをやっています。RPGも好きだけど、やるとハマっちゃってそれだけになっちゃうので、手を出さないようにしてます(笑)

 ゲームするときは何も考えないです。セリフ覚えるときも、1回ゲームを挟んだりして、脳みそをからにして、よし、こっから覚えようって。切り替えに使っています」

――好きなマンガは?

「今度ドラマ化する『東京タラレバ娘』が大好きなんです。同世代の話で、グサグサくる(笑)。エッセイ的な要素が多いので、東村アキコ先生がすごく好きです。最近は『ひまわりっ(~健一レジェンド~)』も読んでました。東村先生の作品は親近感が湧くというか、きれいなヒロインじゃないところがすごくいいなって。夢見るマンガよりは人間味のあるほうが好きですね」

<作品情報>
『種まく旅人~夢のつぎ木~』
市役所勤めをしながら実家の畑で桃を育てている片岡彩音(高梨臨)。目標は、亡き兄が接ぎ木で作り出した新種の桃「赤磐の夢」を品種登録すること。ある日、東京から農林水産省の若き官僚・木村治(斎藤工)がやって来る。ギクシャクしながらも、二人は少しずつ距離を縮めていくが――。
岡山県先行公開中、11月5日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー

<プロフィール>
高梨臨(たかなし・りん)
1988年生まれ、千葉県出身。2012年、アッバス・キアロスタミ監督によるカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作『ライク・サムワン・イン・ラブ』に主演し、第27回高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞。2014年のNHK連続テレビ小説『花子とアン』の醍醐亜矢子役で話題に。以降、TBS『まっしろ』、日本テレビ『Dr.倫太郎』、テレビ朝日『不機嫌な果実』などのドラマに出演。11月18日(金)配信予定のHuluオリジナル連続ドラマ『代償』に出演。