人は見た目が9割!?
20年近く“働く女性”を取材し続けてきた筆者が、ここ数年の変化として顕著に感じるのは、稼ぐ女(妻)に不倫をしている人が多いこと。彼女たちの共通点は、夫も子どももいて、年収600万円以上を稼ぎ、離婚も失業もビクともしない生きていくスキルを持っている。

 もちろん家庭人としての責任もきちんと果たしており、それなりに手をかけて子どもを育て、夫の世話もしている。仕事、家庭、そして恋に忙しいから、話題の“毒母”のように子どもに依存したり支配したりすることもない。

 こういう女性たちの背景や、何が不倫に向かわせたのかを取材していると感じるのが、高度経済成長期に理想とされていた“女は3高(高身長・高学歴・高収入)の男と結婚し、家庭を守り子を育て夫に尽くすことが幸せ”という価値観の崩壊だ。「家庭は守るわよ。彼と会っても、朝までには帰っているから(笑)」と艶然とほほ笑むのは、現在、不動産関連会社で営業マンとして働く辻本みどりさん(仮名、42歳)だ。

お互い娘がひとり、家庭環境は良好

取材対象者 辻本みどりさん(仮名、42歳)
年収:600万円
夫の職業:大手飲料メーカー(45歳・年収750万円)
最終学歴:有名私立中堅大学
容姿レベルと体型:そこそこ美人、身長155センチ、やや太め体型
好きなブランド:プラダ、ユニクロ
結婚年数と子どもの数:15年、11歳の娘
経験人数(結婚前/結婚後):10人/2人

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 そこそこ美人で、容姿は中の上という辻本さんは、10歳年上の男性と7年間不倫をしている。彼は飲食店のプロデューサーをしており、辻本さんとは仕事で知り合った。あるプロジェクトを担当し1年間、頻繁に顔を合わせたという。

 立場的には、辻本さんの会社のほうが発注側だった。会社が主催する飲み会で彼と同じ建築家が好きなことがわかり、いろいろ話すようになった。当時の2人の年齢は45歳と35歳。お互い娘がひとりいて、家庭環境は良好。飲み会の翌週に2人だけで展覧会に行き、その日のうちに恋愛に発展。ホテルに誘ったのは彼のほうだったという。

「最近、マンガ家の浦沢直樹さんの不倫がニュースになりました。相手は若い女の子と思いきや、同世代のキャリアウーマン。あれって、私の周りにすごく多いケースなんです。友人にも4人ほど、同じパターンで不倫をしている人がいます。

 お互いに既婚者で、男女ともに仕事ができ、仕事や人生をわかり合える同じ立場の人と息抜き的にエッチして、それぞれの家庭に帰っていく……。私たちにとって不倫とは、定期的に行きたくなるテーマパークみたいなものなんです。最初はドキドキワクワクしたけれど、結果的に現実の延長線上にあって行きやすい、バーチャルな世界(笑)」

 その世界に行きたくなるのは、月1回の排卵日付近。

「やっぱり、女は本能的にしたくなりますからね。夫とは肉体的な関係はとっくに切れていますが、関係は良好で、一緒にお風呂に入ることも多いです。

 夫は8年くらい前からひとりエッチで十分になってしまったようで、私相手だとEDなんです。上司のパワハラとハードワークで、女性相手にエッチができなくなっちゃったみたい。私が不倫相手に会うのは、体の中がじっとりしてきたときが多いです。排卵日周辺が多いかもしれません」

 仕事に家庭に忙しい辻本さんは、いつデートをしているのだろうか?

「彼に会うのは、土曜日の午前中から夜にかけてです。私は不動産関連会社で、もともと休日出勤も多いので、家族は絶対に不倫を疑っていません。

 娘はダンスサークルに入っていて、土曜日は朝からお弁当を持ってダンスの練習に行ってしまう。夫は金曜の夜中に帰ってきて、土曜日は家で文字どおり死んだように眠っています。彼も自由に外出できるので、月1~2回土曜日に、高田馬場や中野で会います。学生街だから気づかれるリスクが少ないし、ラブホテルもありますから」

仕事の話をしながらゆっくり交わるのがいい

 稼ぐ女の多くは、高級ホテルやレストランは仕事で行っている。親密な相手とはなるべくカッコつけないところに行きたい、と続ける。

「バブル世代の先輩と話していると、予約の取りにくいレストランとか、高級ホテルとかが好きみたいだけど、私たちみたいな氷河期世代は、フツーがいちばん安らぐ。出張や仕事の会食で高級店に行っていますし、ホントにおしゃれなお店は女子の後輩と行きたい。それに、肉体関係がすでにあり、お互いのヤバい部分も見せ合っているわけですから、そんな相手とおカネをかけてカッコつけても意味がないし疲れる。不倫相手の彼とはおいしい居酒屋さんに行き、テキトーなラブホに入って、仕事や業界、娘の話をしながら、ゆっくり交わるのがいい」

 辻本さんに不倫相手の男性について伺うと、“髪は薄く太っていて、お世辞にもカッコよくはない”と語る。

「でも、鼻毛が出てなくて朗らかな人なんです。お互いにちょっとした非現実的な気分を共有し、ハードな仕事のことも語り合えて、生活や文化水準が同じで、コミュニケーションの延長線上でエッチができるのがいいんですよ。慣れ親しんだ夫の肌とは別に、男性の肌を知っているというのは、社会に対して秘密を持ったような気分になります」

 高収入の不倫女子が、相手に求める条件で目立つのは、“身だしなみがよく明るい”こと。辻本さんは“鼻毛”と言ったが、これは重要なポイントなのだ。

「どんなにイケメンでも、仕事ができても、おカネを稼いでいても、鼻毛が出ていたらNG。鼻毛が出ていないというのは、相手に不快感を与えず、自分を冷静に観察できる人の証明だと思うんです。私はそれに加えて“朗らかな人”というのが外せない。営業マン的に上っ面だけ明るいのではなく、そこにいるだけで朗らかな人。この2つがそろう人って意外にいないんですよ」

“恋人以上・家族未満”が安らぐ

 確かに、辻本さんの話を聞いてから、男性の鼻を見ると、意外なほど皆ケアをしていない。そして、朗らかな人というのも少ない。

「最初はお互いにカッコつけていたけど、“恋人以上・家族未満”という慣れ親しんだ感じが安らぐんです。若いイケメンは息子に見えるし、カッコいい男の人は、ほかに女性がいたり、女性を心のどこかで見下している部分があると思います。

 今の不倫って、“夢”を求めている人は少数派で、“安らぎ”を感じたい人が多いんじゃないかな。周囲でも、さほどカッコよくないけど、明るくてこざっぱりしている人がモテているみたいですよ」

 夫と離婚して、彼と一緒になる気持ちはいっさい、ない。

「結婚すれば、もれなく相手の家族や親戚がついてくる。その存在の重さや、相手の実家の暴力的なまでの夫や娘への支配欲求の調整をするのは、夫の両親だけで十分。それに、私が離婚したいと言っても、夫が困るだけだと思います。

 だって、夫はED、子持ち、容姿劣化、無口と、恋愛市場での資産価値はマイナス(笑)。不倫相手だって、私は好きな人ですけれど、ほかの女性が彼を好きになるかと言ったら、かなり疑問が残ります。

 それに、彼と再婚しても、義母の誕生日を祝ったり、母の日にイベントしたりと、面倒なノルマが課せられるわけでしょ。もう他人の価値観を受け入れたり、スルーしたりはできませんよ。きっと彼だって私と会っているときは朗らかな人だけれど、実際はそうじゃない闇の部分もあると思う。私と彼はたまたま気分と肌が合うから、定期的にエッチするだけ。それだけのことです」


<著者プロフィール>沢木文(さわき・あや)◎Writer&Editor 1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。