東京都の小池百合子知事(64)が立ち上げた政治塾に全国から4827人が応募し、1期生2902人が入塾した。受講料は5万円。女性割引があるけれど、気軽にポンと出せる金額ではない。卒業するメリットとは──。
 

「東京には、日本には、ありとあらゆるものがあります。しかし、そこにひとつ足りないもの。それは希望ではないでしょうか。『希望の塾』を通して、みんなでその希望を見つけていこうではありませんか」

 小池百合子都知事は10月30日、自ら立ち上げた政治塾『希望の塾』の開塾式で1期生にそう呼びかけた。

 入塾希望者は予想を大幅に上回り、ひとまず2902人に絞り込まれた。大学講堂を貸し切ったが、それでもいっぺんに収容できず、開塾式は4回に分けて行われた。

 塾長の小池氏のあいさつは計4回繰り返された。小池氏はインターバルの休憩中、ツイッターでこうつぶやいた。

《4割が女性というのも、心強いかぎりです》

 都知事選で小池氏を支持し、塾の事務局を務める音喜多駿都議(33)は「それは稀有な光景でした」と振り返る。

「受講生は前のめりというか熱意が高く、若い方や女性も多かったのでパワーを感じました。政治の集会って、参加する女性はせいぜい1割程度ですからね。会場はちょっといい香りがするみたいな感じでしたよ。加齢臭がしないな〜みたいな」(音喜多都議)

『希望の塾』開塾式であいさつする小池都知事=10月30日、東京都豊島区で

『小池塾1期生』のブランド力

 なぜ、こんなに女性が集まったのか。会場には女性経営者やOL、主婦、学生のほか、弁護士や医療関係者など専門職も。タレントのエド・はるみや、アイドルグループ『仮面女子』のメンバーで東大卒の桜雪の姿もあった。

「女性塾長ですし、小池さんの魅力もあるでしょう。受講料の女性割引や無料託児所のサービスを行い、“女性はウエルカム”というメッセージを発信し続けています。小池さん自身、女性を応援したいという気持ちが強い」

 と前出の音喜多都議。

 受講料は男性5万円、女性4万円、25歳以下の学生3万円。来年3月まで月1回のペースで計6回講義があり、初回の講師は高野之夫・豊島区長だった。橋下徹・前大阪市長も講師として参加することに前向きという。

 しかし、1万円割引の女性にとっても決して安い支出ではない。お小遣いをはたくだけのメリットはあるのか。

 政治評論家の有馬晴海氏は「これだけ連日ワイドショーなどで取り上げられたら、本物を見たい人も出てくる」としたうえで次のように話す。

「来年夏に都議選が予定されています。もし、いま都議選があって、小池新党ができていれば圧勝ですよ。都道府県議や区市町村議ら地方の政治家を目指す人にとっては、このブランド力は大きい。プロフィールに『小池塾1期生』と書くだけで票が集まりますから。5万円でその肩書を買えるのだから、むしろ安いといえるでしょう」(有馬氏)

 いまの小池氏の勢いが続けば、一流企業の勤務歴や一流大学卒の学歴よりもインパクトが強い肩書になるという。

 ただし……と付け加える。

「豊洲新市場の移転延期にせよ、五輪会場の見直しにせよ、小池氏はブラックボックスをこじ開けただけ。成果を出しているとはいえません。本人も人気がいつまでも続くとは思っていないはずです。市場と五輪問題をどう着地させるか。来年度予算で福祉や子育て施策にどの程度お金をつけることができるか。このままでは都民ファーストというよりも、やりたいことだけやっている“小池ファースト”になってしまいます」(有馬氏)

新党として組織化するのは簡単ではない

 政治塾とは本来、政治を勉強する場所にすぎない。しかし実際は、政党候補者をリクルーティングする場所として活用されることが多い。

 橋下氏が2012年に立ち上げた『維新政治塾』には3326人が応募し、選考をパスした888人が入塾。同年末の総選挙で複数の塾生が国会議員のバッジをつけた。

 この年は地方首長による政治塾ブームが沸き起こり、河村たかし・名古屋市長の『河村たかし政治塾』や大村秀章・愛知県知事の『東海大志塾』、嘉田由紀子・前滋賀県知事の『未来政治塾』が設立されている。さて、小池塾は小池新党につながるのか。

 政治評論家の浅川博忠氏は「その可能性は低い」とみる。

新党として組織化するのは簡単ではありません。政党支部をつくり、事務所を借り、専従職員を置く必要があります。1期生の受講料で1億円以上集めたとしても、まだまだ足りないでしょう。塾生といっても、政治家になるための“身体検査”をしたわけでもありませんしね」(浅川氏)

 小池氏は開塾式で「ひとりひとりが批評家ではなくプレーヤーとなって参加してもらえる方向を目指したい」と話した。プレーヤーとは政治家だけを指すのではなく、政治活動を支える人なども含まれるという。そもそも小池氏は自民党籍を捨てていないため、表立ってリクルーティングすることはできない。

 前出の有馬氏は言う。

新党結成は“あるぞ、あるぞ”と脅しているときがいちばん効果的。小池氏が都議会自民党と正面対決する展開になれば別ですが、うまく脅して都政運営を回すのが狙いでしょう。小池氏を支えるのは音喜多都議らの会派『かがやけTokyo』の3人だけですから、もう少し仲間が欲しいところです」

 小池塾の応募資格は18歳以上で日本国籍を持っていることなど。18日必着で1期生を追加募集している。