古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第9回は樋口卓治が担当します。

リリー・フランキー 様

イラストレーター、小説家、ミュージシャン、俳優など多種多様な顔を持つリリー・フランキー

 今回、私が勝手に表彰するのはリリー・フランキーさんである。

 リリーさんの魅力を言葉にするのは難しいが、書かずにいられない憧れの人だ。

 養老孟司さんの大ベストセラー『バカの壁』に「y=ax」についての面白い説明がある。「a」は興味の値、「x」はその人の発する言葉の値。この掛け算が人の心に刺さる値になるという。

 どんなにいいことを言っても、聞く相手がその人に興味がなければ、伝わる値は低い。大学の講義で妊娠から出産までのVTRを女子に見せると、自分に関わるので興味津々、yの値は大きいが、男子に見せてもさほど興味はなくyの値は低かったというデータを載せていた。

 僕なんかはリリーさんへの興味が大きいので、ボソっと言った一言に「深い!」と思ってしまうのだ。

 イラストレーター、作家、俳優とリリーさんはいろんな顔を持つが、僕は人間性に惹かれる。国語の時間に習った小林一茶に妙に惹かれたような感覚に似ている。

 心に残る言葉がある。

「仕事と生業の違いはね、お百姓さんが大根を作る。その大根を100円で売る。これが生業。その大根を作るにあたり、道具の手入れをしたり、大根を美味しくする勉強をしたり、お金にならなくとも一生懸命時間を費やすことを仕事っていうんだ」

 セクシーで低い声でそんないいことを言われたらジーンときてしまう。女性でなくても落ちてしまう。

 今もテレビ番組を作るとき、この言葉を大切にしている。

 酒場でときどきリリーさんと遭遇することがある。リリーさんは僕を見つけると「タコ社長!」と声をかけてくれ、高いウィスキーを一杯奢ってくれる。その店によくいるので映画『男はつらいよ』のタコ社長のようだという。それを言うならリリーさんは寅さんである。

 酒席にふらっと現れ、周りの人たちを楽しませ、気がついたらもういない。

 自由であり不良であり知識人であり常識人である。『憧れ』とは、その人に近づきたいと思い、そこに近づききれない距離感のことを言う気がする。同じ時代に生きていて、その人が次に何をするのかに寄り添いながら生きる。

 僕が今日、何を書きたかったのか。

 それは世の中にお手本が必要だということ。お手本がいればそれを目指し、その業界は活気づく。最初は真似っこ、コピーだが、次にアレンジが生まれ、その先にオリジナリティが生まれる。お笑い芸人、ミュージシャン、物書き、各世界に強烈なお手本がいることが大切だ。僕にとってそれがリリー・フランキーである。

【プロフィール】
◎樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また『ボクの妻と結婚してください。』など小説も上梓。9月15日に4作目『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)が発売。映画『ボクの妻と結婚してください。』が全国東宝系で公開中。