芸能界では清水アキラ、加山雄三も

「そろそろ夫や子どもの世話から解放されて、これからは自分の好きなことをしたい」

 ──そんな思いから「結婚を卒業=卒婚」する女性が増えています。

 今まで、家族のために生きてきたけれど、子どもが大きくなった後は、自分のための人生を歩みたいと考え、夫と別居して自由を手に入れ、やりたかった仕事や趣味にチャレンジする女性も多いよう。

 夫との関係が良好なため、離婚ではなく卒婚となるケースが多いのが特徴です。

 芸能界では清水アキラ、加山雄三が卒婚を早々と実践していて話題となっていますが、一般人にも徐々に浸透。

「女性ライフスクール」の代表・山本和美さんは、パートナーシップの悩み相談が多いことから今春、卒婚講座を開講しました。50〜60代の女性を中心に受講者が急増しているそう。

山本和美さん

「女性はパートナーによって人生が決まりがち。夫の転勤や義父母の介護で自分の仕事を辞めざるをえなかった人もいるでしょう。日本では、家事や育児、介護を担うのは妻の役目と考えている人もまだまだ少なくありません。

 自分の人生よりも家族の幸せを優先して生きてきた妻たちが、夫の定年退職後、夫の身辺の世話だけをして生きていくことに耐えられず、“好きなことをするには今しかない”と卒婚を希望するのです

 しかし、離婚しないのは、多くの場合、夫婦関係が悪いわけではないから。夫婦で積み上げてきた歴史は捨てられないし、新しいパートナーを探すエネルギーもない。

 結婚という状態を続けたまま、お互いが相手に依存せずに自立し、人生の後半はそれぞれ好きなことをして生きていくという形が卒婚です」(山本さん)

「無理して帰ってこなくていいよ」

 74歳の現役美容家・渡辺雅子さんも3年前に卒婚をしたひとり。写真家の夫とはもともと自立した関係を築いていましたが、自分から別居婚を提案することはできなかったといいます。

「夫は自由な人ですが、それでも昭和の男。食事は女性が作って出してくれるものという固定観念があり、結婚当初は、私がどんなに仕事で遅くなっても、夕食が出てくるのを待っていました。もちろん、育児も私が担当で、仕事、家事、育児とフル回転で働いていました。家事や育児は女性の役目だと当たり前に考えられていた時代でした。

渡辺雅子さん

 その後も、仕事はずっとしていて、都心の事務所から毎日、終電で自宅に帰るという生活を70歳過ぎまで続けていました。けれど、3年前に足を悪くして、歩くのがつらくなったときがあったのです。

 すると夫が“無理して自宅まで帰ってこなくていいよ。仕事をしているほうがあなたらしいし、これからも仕事を続けるなら事務所で暮らすほうがいいのでは”と、やっと言ってくれました。ようやく“お役御免”をいただけたわけです(笑)

 もともと事務所にはキッチンもベッドルームもあったので、こちらで自宅兼事務所として暮らすようになり、今では1か月に1回しか夫との自宅には戻りません」(渡辺さん)

 実際に卒婚をしてみると、夫にも変化があったそう。

「自分で無農薬野菜を買ってきて料理をするようになり、毎日、腕立て伏せをしたりして健康管理をしています。たまに家に帰ったときは、コーヒーを丁寧に淹れてくれてビックリ。意外ときっちり暮らしていて、今まで知らなかった夫の一面を見ることができました」(渡辺さん)

 今後、どちらかが病気になれば、また同居される可能性はあるのでしょうか?

「ありません。うちは自分の健康は自分で責任をとろうと話し合い、介護が必要になれば、専門の方にお任せすることになっています。病気のときに相手に頼ろうとは思っていません」(渡辺さん)

親の介護をきっかけに

 また、親の介護をきっかけに卒婚へと流れるケースも少なくありません。両親が卒婚したという47歳のフリーライターの女性は、子どもの立場から卒婚に賛成しています。

「うちは祖母の介護をきっかけに父親が実家に戻りました。しかし、すごい田舎で山と畑しかなく、車がないと生活できない場所。都会暮らししか経験がない母は、そんな田舎でずっと暮らすのは無理と、たまに手伝いに行く生活が続いていました。

 その後、祖母は亡くなりましたが、父はこれからも生まれ育った場所で暮らすことを選択。母はこれまでどおりの都会暮らしを選び別居生活が続いています。母は70代、父は80代になり、なかなか移動が大変なので、会うのは1年に数回。けれど、毎日30分以上、電話で話していますし、夫婦の絆は変わっていません。父も母も、ひとりでのびのび暮らしているせいか、持病もなくて元気。子どもから見ても卒婚してよかったと思っています」(フリーライター)

法律上の問題も

 一方、結婚という状態を維持しているとはいえ、「法律面では気をつけたほうがいい」と、青山外苑法律事務所の秋田一惠弁護士は指摘します。

「例えば卒婚をして別居を続けていたとき、夫に新しい女性ができて、“離婚してほしい”と言われたとします。妻が“離婚したくない”と言っても、長く別居を続けていると、婚姻関係が破綻していると裁判所が考え、すんなり離婚が認められてしまうこともあるのです。

 また、財産分与についても、卒婚後に築いた財産は共有財産ではない、と考えられる可能性も。もめごとを起こさないために、卒婚をする前に、弁護士のところに行き、お互いの取り決めについて契約書を作るのもおすすめです。

 卒婚は終活のひとつとしてもとらえることができますし、夫婦の今後の生き方を見直すきっかけにもなります。これを機会に、お金やお墓のことについて話し合うのもいいでしょう」(秋田弁護士)

 しかし、そもそも、卒婚という形をとらなければならないのが、女性にとって日本の婚姻制度がどれだけ不自由であるかを表しているという秋田弁護士。

「欧米では夫婦の関係が横型であるのに対し、日本では縦型。男女平等といっても女性が男性に従うという形がまだまだ日本では主流です。“夫が家事をしないから離婚したい”といった主張は認められず、妻が夫や子どもの世話をするのが当たり前と考えられ、長い間、自分を犠牲にして我慢をしてきた女性も多いでしょう。妻にとって卒婚は“夫の世話からの自由”。一方で夫によっては卒婚を“性的自由”と考える人もいます。卒婚後の男女交際については、ルールを話し合っておいたほうがいいかもしれません。

 年金や税金などのお金の面でも、離婚するより結婚していたほうが有利なのが日本。もう夫に愛情もなく、本当は離婚したいけれど、お金のために卒婚という形をとっている女性もいるのでしょう」(秋田弁護士)

実際にはさまざまな理由で

 夫婦が尊重し合い、お互いに自立して好きなことをするというのは、理想の卒婚の形ですが、秋田弁護士の言うように、実際にはそんな美しい理由ばかりではありません

 山本さんの「女性ライフスクール」には、さまざまな相談が寄せられます。

「夫が離婚するのは世間体が悪いと考え、卒婚という形で別居するケースもあります。会社、親戚、友人などの手前、離婚というよりも卒婚というほうが波風が立たないわけです。また、DVやパワハラを繰り返す夫が離婚に応じてくれず、卒婚したいという相談もありました。離婚したいけれど、ひとりで生きていく力はないので、夫の経済力に頼りながら卒婚という人もいます」(山本さん)

 実際、卒婚で二重所帯となるとお金がかかるので、経済的に余裕がある夫婦でないと実践が難しいのも事実

 前出の美容家の渡辺さんは、ずっと共働きで財布も別々、家計も折半だったといいます。

「女性も経済的に自立していないと、卒婚を進めにくいのではないでしょうか。40代になったら人生の後半戦をどう生きるか計画を立て、卒婚を希望するなら、ひとりで生活できる基盤を作っていくべきでしょう」(渡辺さん)

 一方、お金がなくて卒婚できないという夫婦には、とっておきの秘策も!?

「なかには家庭内卒婚というご夫婦もいます。自宅の1階が夫、2階が妻というふうに分け、食事もそれぞれが自分で作って食べ、洗濯も別々。別居よりも顔を合わす頻度は高いですが、“夫の食事の支度をしなくていいし、ふたりで一緒にテレビを見なくてもいいし、自分の時間ができて十分満足”とおっしゃっています。いきなり卒婚というのはハードルが高くてという人も、家庭内卒婚からスタートしてみてはいかがでしょうか」(山本さん)

別居から同居に戻るという選択

 卒婚は妻が言いだすことが多いと言いますが、夫が承諾してくれない場合はどうすればいいのでしょうか?

「いきなり卒婚と言われても夫は戸惑ってしまう。自分がこれからやりたいことをまず伝えて、勉強を始めたり、仕事を始めたり、ちょっとずつ行動に移し、夫との距離を変えていくほうがスムーズです。

 なかなか承諾してくれない場合、強硬手段に出て、さっさと家を出て田舎暮らしを始めてしまった女性もいました。でも、夫もひとりになると家事を自分でせざるをえなくなりますし、妻に頼らず、たくましくなっていきます。夫に妻離れさせるためには、どこかで思い切った行動に出ることも大事です」(山本さん)

 夫婦が自由に生きていくことが目的の卒婚ですが、離れてみて、パートナーのよさに気づき、また同居を始めるケースもあるそう

「やっぱり夫がいないと寂しい、あの人と結婚してよかった、外の世界に触れてみて自分がどれだけ守られていたかわかった、といった新たな気持ちが芽生え、元に戻る夫婦もいます。また、病気など困ったときはお互いに助け合えばいいし、離婚したわけではないので、夫婦関係は柔軟に考えればいいのではないでしょうか」(山本さん)

 人それぞれ卒婚する理由もさまざまですが、よりよい人生を送るための選択肢のひとつであることは確か。これからは新しい夫婦関係をつくって、自分の人生を生き直してみる人がますます増えるかもしれません。

取材・文/紀和静 撮影/竹内摩耶(山本さん)、森田晃博(渡辺さん)

<プロフィール>
山本和美さん
大人の女性の自分磨き塾「女性ライフスクール」で、卒婚サポート、起業家支援を行う。姿勢セラピストとして美容・アンチエイジングの指導でも活躍。http://www.life-woman.com/

渡辺雅子さん
美容家として50年以上の実績を持ち、海の成分にこだわったオリジナルコスメ「Le me we キュアサプリ」も販売。ショップチャンネルでも話題に。http://www.le-me-we.jp/