送検される岩埼友宏被告。初公判は2月を予定(左) 手記の中で警察への怒りと反省を訴えた冨田真由さん(右)

 今年5月、東京・小金井市で、岩埼友宏被告(28)に刃物でめった刺しにされ、生死の境をさまよった冨田真由さん(21)が12月16日、代理人を通じて手記を公表した。

 冨田さんは事件当時、大学に通うかたわらシンガー・ソングライターとして活動し、ストーカー被害に遭っていた。事件前、警視庁に相談していたが、未然に防げなかった。

 手記で、冨田さんは、事件後に警察から「本当に殺されるかもしれないと言ったんですか」と疑われたことにショックを受けたことを明かし、《この事実を警察が認めないことに、怒りを通り越して、悲しみを感じています》と綴っている。

 代理人の柴田崇弁護士によれば、冨田さんは9月初旬に退院し、現在も療養中。今後、顔や首などに残る傷を見えにくくする手術を受けるという。

 だが、精神的、肉体的な傷は、今も冨田さんの心や身体に深く残っている。PTSDを発症し、近くに男性がいる状況や、逃げ場のない空間が怖く、公共交通機関を利用する際も付き添いが必要。左目の視野が狭くなり、手足の指を動かしにくいなどの後遺症もある。ストーカーは被害者のその後の人生にも暗い影を落としていく。

 ストーカー被害者・加害者のカウンセリングなどを行うNPO法人ヒューマニティーの小早川明子理事長は、自身もストーカー被害者で、実体験を話してくれた。

ストーカーと似ている人がいると、足がすくんで動けなくなるんです。慌てて家の中に逃げ帰って、一番奥の寝室に半日ぐらいこもったりしたこともありました

 小早川さんが相談を受けたある女性は、引っ越しをした今も、自宅に誰かが潜んでいるんじゃないかと常に不安で、クローゼットやトイレ、お風呂まで全部開け放した状態にして、誰もいないということを毎日、確認するそうだ。

加害者がどう思っているのか、恨んでいるのか、怒っているのか。そういうことがわからない。だからとにかく気になるんです。何もなくて静かなほうが余計に不気味で、また急に目の前に現れるんじゃないかと不安なんです

 と小早川さん。

 冨田さんの手記には、犯人に対する怒りや加罰感情を述べるくだりが一切ない。

被告については、怖い、許せない、元の身体に戻してほしいという思いが混在しているようで、ポツン、ポツンと話していました

 と柴田弁護士。警察の取り調べにもフラッシュバックが起こり話せなくなることもあったという。犯人にナイフで刺されるシーンが脳裏に再びよみがえる怖さ。そんなトラウマから、岩埼被告への言及を避けたのではないだろうか。

 手記には《警察がこの事件のことを本当に反省してくれないと、また同じことが繰り返されるのではないかと心配です》とある。2度と同じ悲劇が起こらないよう、警察は万全の態勢を整えてほしい。