※写真はイメージです

 日本中に待機児童問題の存在を知らしめた匿名ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」から1年。4月の入園時期を控え、今年もすでに、SNSでは母親の切羽詰まった悲痛な叫びが広まりつつある。

《まさかの待機。仕事復帰しないとマンション売って引っ越ししないといかん》《頑張ったら通える距離の保育園、第20希望まで書いたけど、全滅です》などといった書き込みが、日に日に増加中だ。

 保育園入園の可否が、実生活に深刻で切実な影を落としていることがよくわかる。

 昨年、「〜日本死ね」ブログを国会で取り上げた民進党の山尾志桜里議員は、4月に就学する子どもを認可外保育園に預けている。保活に悩む多くの母親の声も耳にした。

 そこからは、預けることができた母親の、遠慮がちな心情が垣間見えたという。

預けて仕事をする環境に恵まれていた私も、本当にありがたい気持ちと申し訳ない気持ちがあるんです。

 預けることができたお母さんはみなさん、枕詞のように私は幸運で、運がよかっただけ、と。私も含め、みなどこかで後ろめたさを感じているんです。だからこそ、母親たちが、そういった後ろめたさを感じないですむ世の中にしていきたいんです

 政府や自治体も、手をこまねいているわけではない。とはいえ、その地域の未就学児が全員小学校に入学できるのと同じようには、保育園に入れないのが現実だ。『保育園を考える親の会』の代表・普光院亜紀さんは、

少しずつ前進していると思うのですが、劇的に改善されるものではありません。ただ、待機児童というと、かつては女性のわがままだといわれてきたものが、そうはいえない空気になったのは変化のひとつかなと感じています

 と変化を前向きにとらえる。

1983年にできた保育園を考える親の会代表普光院亜紀さん

 だが、SNSには《下の子が保育園落ちた。上の子が保育園からでていかないといけない》との書き込みも。

 自治体によるが、第2子を保育園に預けることができずにしかたなく育休を延長すると、保育園に通っている第1子まで退園させられる場合も。

 前出・普光院代表は、

「育休中はお母さんが家にいるから、保育園に預けなくてもいいでしょう、という話なのでしょうけど、保育園は預ける場所ではなく、教育を受ける場所なんです

 と、保育園=教育の場という認識がまるで欠けていると指摘する。

 前出・山尾議員も、

「他の子どもたちに囲まれて、家ではできない教育をしてほしいという思いを持つお母さんはたくさんいます。保育は子守りではなく、就学前のかけがえのない教育の場なんだと社会で共有して理解していくことが重要ですよね

自治体によって違う待機児童の数え方

 『待機児童数ゼロ』という言葉に潜む“ごまかし感”も、母親たちの神経を逆なでする。自治体によって、待機児童の数え方が違っているのだ。

 数年前、待機児童がゼロになったと市長が胸を張り会見していた横浜市と、待機児童全国ワーストワンの東京都世田谷区を比較すると、数字のとらえ方の違いがよくわかる。

 子どもが入園できなかったため育休をやむなく延長した場合の児童、自宅でネットなどを使って求職活動をしている場合の児童を、横浜市は統計に含めず、世田谷区は含めている。どちらがより、実態に近いかは一目瞭然だ。

 待機児童とは別に、『保留児童』という言葉がある。希望した保育園に入れなかった児童数で、2016年4月時点の横浜市の場合、待機児童数は7人、対する保留児童数は3117人だった。

結局のところ、保護者が知りたがっているのは保留児童数です。厚生労働省は待機児童の定義を見直す作業に入っているようですが、待機児童をやめて、保留児童数に統一すればいいと私は思っています。横浜市の場合、内訳をしっかり開示しているだけまだ良心的。内訳を開示していない自治体もありますから」と前出・普光院代表が指摘する。

 待機児童ゼロの街に引っ越したところ、潜在的な待機児童はゼロではなく入園できなかった、という悪い知らせは、山尾議員のもとにもたくさん届くという。

2万7862人の署名を手にする山尾志桜里議員

 また非常に良心的な取り組みと評価された自治体もある。

 岡山県岡山市。'03年から'14年まで待機児童ゼロだった同市だが、'16年には729人に跳ね上がり、世田谷区に次ぐ不名誉なワースト2に。その理由を、同市岡山っ子育成局就園管理課が明かす。

保育園の申込書には、第3希望まで書けますが、第3希望までに入れなかった人は全部待機児童にしようということになりました。(以前の集計が)市民感情とかけ離れているのではないかと感じたためです

 虚飾のない数字は、まさに“市民ファースト”といえる。

 厚生労働省の調査によれば、'14年まで減少傾向にあった待機児童数だったが、'15年から'16年にかけては、再び増加傾向に転じた。そんな中、減少に成功している自治体もある。

 '15年から'16年にかけ全国1位、400人以上の待機児童の減少を成功させた千葉県船橋市は、

施設整備による受け入れ枠の拡大と保育士の確保に力を入れてきました。'16年から、保育士1人の給与に月額約3万円を上乗せしています

 東京都杉並区でも改善の兆しが見える。『保育園ふやし隊@杉並』が実施したアンケートによれば、

「最終集計がまだすんでいないのですが、昨年と比較すると待機児童が5〜6%減少し、自由記述欄にも“区はよく頑張った”といった前向きな声が多くありました」

 小池百合子都知事は、昨年9月、待機児童対策として126億円の補正予算を計上した。都福祉課によれば、

「受け皿となる施設の整備を第1とし第2に働く人の確保に重点が置かれます。2017年度予算ではモデル計算で100人定員の施設で保育士1人あたり月額平均2万1千円を上乗せする予定です」

 実際の声を聞きたくて世田谷区で認可保育園の2次募集の申し込みに来た母親に声をかけると、

「子どもは2人目なんですが、保活に翻弄される毎日で、7年前と何も変わっていないですね。育休はとれそうですが、早く仕事に戻りたいんです。でも、来年も入れるかどうか……

 今年は大幅に改善が見込めるという話も聞くというが、区民が直接肌で感じるものとしては、まだまだ遠いようだ。

 待機児童問題の根本にあるのは施設の整備と保育士の処遇。山尾議員は保育士の待遇改善を与党がもっと議論するべきだと訴える。

私が政調会長時代に、保育士給与を月額5万円上げるという法案を、5野党で提出しました。議論するかどうかは、数の力で決まるんです。数を持っている与党側に、国会で議論しましょうといってほしいところです

 大規模マンションの建設や共働き世帯の増加により生まれる新たな保育ニーズ。安心して産み育てる社会をつくること。国や地方自治体の対応が問われる。