桐谷健太 撮影/廣瀬靖士

「ここ数年ですね。今を全力でやりながらも、遊び心を持ってやっていったほうが道はおのずと開けると思えるようになったのは。

 三線(さんしん)もそうで、ただ好きでやってたことが仕事につながった。沖縄に行ったときに出会ったのがきっかけなんですが、たまたま実家(大阪)の近くに三線のお店ができたので買ったんですよ。そしたら、auのCMプランナーが僕が三線も弾いているのをバラエティー番組で見てたんです。それでauのCMの浦ちゃんにぴったりだということで浜辺で歌うことになった。

 まさか『紅白』にまで出させていただくことになるとは思いませんでした(笑)」

 ドラマや映画のみならず、『au』のCMでは浦島太郎の“浦ちゃん”として大注目。歌手として昨年の『紅白歌合戦』にも初出場を果たすなど、活動の幅を広げる桐谷健太。

『彼らが本気で編むときは、』では、トランスジェンダー(生まれた性別と自分で認識している性別が異なる人のこと)のリンコ(生田斗真)と同棲中のマキオを好演。声を荒らげることはまずなく、物静かでリンコをそっと温かく支えるマキオ。明るく元気な彼のパブリックイメージとは違う、難しい役どころだ。

「静かな役も演じてきましたが、話題になった作品がそういうイメージの役が多かった。それはそれで楽しんで演じてましたし、すごく経験にもなっています。

 そう、この前取材のときに隣に荻上(直子)監督がいらっしゃって、“何でこの役を桐谷さんに?”という質問があったんです。そうしたら、“桐谷さんの20代のパワフルなお芝居も見ていましたけど、30代になってこんな色気があるんだって思いました”っておっしゃってくれて。僕がここで言うのも恥ずかしいけど(笑)。マキオに色気は必要ってわけじゃないんですが、自分の幅が広がってるんだなってうれしかったし、自信になりました」

自分自身がいい感じで変わっていっている

 物語は、マキオたちが同居する家に、母親の失踪でひとりぼっちとなった姪(めい)のトモ(柿原りんか)がやって来たことから、3人で家族のような特別な時間を過ごす60日間の日々を描く。おっぱいもしっかり作り込んだ生田の、かわいいママっぷりも話題に。

「年を重ねるごとに、好きな何かが増えていくって素敵だなって思います。例えば映画を見たとき、今まで気づかなかったポイントで泣いてしまったり、心が熱くなったり。自分自身がいい感じで変わっていっているし、何かに気づくということは大事なんだなって感じるようになりました」

 また、こうも語ってくれた。

「若いころは目標をすごく高いところに設定していたんです。それを追いかけて必死に上ろうとするけど、全然頂上に届かないから、1段ずつ上がっているけど、実感がないみたいな(笑)。心が折れたときは立ち上がれなかったですね。“痛いよ〜”って気づいてほしくて泣き叫ぶ子どもみたいな心境でした(笑)」

桐谷健太 撮影/廣瀬靖士

 それが日々の幸せを得たことで、役者としてもいい影響を。

「今は、大切な人とご飯を食べているときとか、満足を得た仕事の後に飲むお酒、友達と銭湯に行ったりする時間が至福の時間ですね。前は、もっと大きな夢を持つことが幸せみたいなところがあったけど、何でもない日常がすごく大事というか、それが芝居にも生きてきているんだなって思えるようになりました」

 自身はどんな子どもだったのだろう。  

「小さいころは、めちゃくちゃ目立ちたがり屋なのに、すごくシャイみたいなややこしい子でした(笑)。あと、実家の近くに淀川が流れてたんですけど、夕方とか1人でテトラポットの上に佇(たたず)んだりしてました。“なんやろ、この胸締めつける感じ……”っていうセンチメンタルな感じがすごく好きで(笑)。そのころの感覚はもう戻ってこないと思いますが、今でもふと思い出しますね」

〈作品情報〉
『彼らが本気で編むときは、』
2月25日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー!
配給:スールキートス

(c) 2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会