イラスト:星野グミ子

 2016年、多くのアーティストがチケット転売反対の声明を出したことは記憶に新しい。もちろん、詐欺や各都道府県が定める条例違反などの犯罪行為は絶対にやってはいけない。

 ただ、ジャニヲタが転売チケットを買いたくなるのにはワケがあるのだ。

チケットとジャニヲタの歴史を振り返る

 そもそもチケット転売の歴史は古く、ネットが普及する前から行われていた。光GENJIが全盛だったあたりまで遡る。コンサート会場やその最寄り駅周辺に“いかにも”な男性が数名うろつき「ないならあるよ、余ってるなら買うよ」と言ってファンに近づく。

 その正体は「ダフ屋」だ。

 最前列やアリーナ席のチケットを求めて一部のジャニヲタは群がる。可愛い子は自分のカラダと引き換えにチケットを入手するということもあったそうだ。そして、忍耐力のある子は「ダフ屋」の“ハト”になり純粋なファンを装って会場の最寄り駅周辺に「譲ってください」というカンペを持って立ち続ける、そしてチケットを買い上げ、転売する……。

 これが、当時主流のチケット転売だったと思う。

 とは言え、当時はネットもあまり普及していなかったので、「光GENJIのコンサートチケットが100万円で取引されたらしいよ」という噂が都市伝説のようにささやかれていた時代だった。

 会場に直接足を運んでいないファンには関係のない世界だったのである。

ネット普及と「チケット掲示板」の勃興

 そしていよいよ2000年代になってネットが普及しはじめる。巨大掲示板『2ちゃんねる』などが盛り上がった側ら、それとは別に「チケット掲示板」というものがポツポツとでき始めた。

【会場】横浜アリーナ
【座席】センター2ブロック50番以内
【値段】5万円~

 この「チケット掲示板」には上記のような形式で転売したいチケットの内容が書き込まれており、気になったジャニヲタは掲載者に直接「5万円で即決していただけますでしょうか?」とメールをする。

 そうすると「もっと高い値段でほしいという方がいます」「では、5.5万円でいかがでしょうか?」というやりとりが発生する。ただし、この時点では掲載者の言っていることが本当かどうかわからない。つり上げにあっている可能性があるのだ。

 ちなみに「チケット掲示板」は、現在もいくつか残っているのだが、チケット売買が行われることは少なく、単にチケットの情報を交換して、アリーナなどの座席の予想をするスタイルになっている。

 さて、そんな「誰だかわからない人からつり上げにあっているかも……」という不安を解消してくれたのが『Yahoo!オークション(現:ヤフオク!)』である。

 このウェブサービス上で出品、もしくは一定額以上の入札をするためにはプレミアム会員登録をしなくてはならない。そして、プレミアム登録をする際に本人確認が必要になる。つまり、出品者や購入者の身元がしっかりと明かされるのだ。

 しかし、不思議なもので「5万円予算」と事前に決めて競っていても、気づいたら8万円で購入していた……ということが起こる。それはなぜか。

 登録時に取得するオークションIDで、だいたいの担当(編注:ジャニーズでお気に入りのメンバーやグループのこと)がわかり「同担には負けたくない……」という競争心からついつい「あと千円くらい……」とどんどんと値段がつり上がっていく。

 このあたりから転売されるチケットの値段も高騰していったように思う。

 そして、さらに問題が出てくる。オークションに入札すると終了時間が10分延長されてしまうのだ。最終入札が行われて10分間誰も入札しなければよいのだが、欲しいチケットが手に入るのはだいたい丑三つ時。そこから支払い手続きや取引メールなどを行う。

 条件の良いチケットを入手できたとしても、睡眠時間が削られ、疲弊したままコンサートに向かうという経験をしたジャニヲタも多いはずだ。

時代は「チケ流」から「チケキャン」へ

 そんな中、2008年あたりから流行り出したサイトが『チケット流通センター(通称:チケ流)』。このウェブサービスでは、掲載された価格ですぐに購入できる“即決スタイル”をとる。面倒な入札終了の待ち時間もなく非常に便利なのだ。

 また、『ヤフオク!』と違ってID表示がないので、誰が出品し、誰が購入したかが第三者にはわからないため余計な感情に気を取られない。

 しかし、質問欄がないため座席番号を絞ってもらうことなどはできない。あまり細かく座席番号を書いて出品すると、『ジャニーズファミリークラブ(編注:通称ファミクラ、ジャニーズタレントの公式ファンクラブの母体となる組織のこと)』にチェックされてしまうおそれがあるのだ。

 こだわりの強いジャニヲタは好きなタレント(担当)の立ち位置も気にする。「上手サイドなら欲しい……」などの思いはあれども、買ってみないとわからない“くじ引き”のような感じであった。

 その問題までも解消したのが現在CMでも見かける『チケットキャンプ(通称:チケキャン)』である。こちらも“即決スタイル”であり、質問欄もある。また『チケ流』よりも出品が簡単で、出品文言のテンプレートまで用意されているのだ。

 さらに売った金額の振り込みも手続きすれば即日入金も可能であり、今のところ、最強のサイトといえる。2017年現在、『チケキャン』が主流になりつつある。

なぜジャニヲタは高額なチケットを購入するのか

 さて、前置きが長くなったが、そもそもなぜジャニヲタは高額なチケットを購入するのか。

 一般的にコンサートといえば、観に行くものである。しかしジャニヲタは違う。会いに行くものなのだ。

 主にJr.担などに多くみられるのだが、ファンが少ないジャニタレだとコンサートに毎回同じうちわを持ち、良い席ばかりに入っていると覚えてもらえる。

 カンペに「投げちゅうして」などと書いて何度も同じものを見せたり、「○○(自分の名前)のこと覚えてね」など、繰り返していくうちにタレントと言えども人間なので覚えていくのだ。そうすると「私の名前は?」というカンペだけで名前を呼んでもらえたりする。

 そこで、嫉妬が生まれる。「ずるい、私の名前も覚えてほしい」「もっといい席に入ればいいの?」と……。

 また、前述した「チケット掲示板」とは別に、ジャニヲタについて話す専用の掲示板も存在する。ここには、担当ごとのスレッドがあり「誰がどこの席に入っていた」「誰がどんなファンサービス(通称ファンサ)」を受けていたかなどが事細かに報告されてしまう。

 そこで、有名なジャニヲタというものが出てくるのである。常にコンサートで最前列に入っておりファンサをもらっていて、ほかの担当から認知されているような。

 そういうジャニヲタに対して、憧れるもの、嫉妬するもの……。どちらにせよ、掲示板は“回る”。つまり、書き込みが増え続けるのだ。

 自己顕示欲の強いヲタクのなかには、ネット上で自分の名前が露出することを好む人もいる。自ら、自分の名前をあたかも他人が書きこんだように掲載するジャニヲタだっている。

 まるで、今はやりのタレントとお付き合いしていると思わせぶる“匂わせ女子”と同じである。SNSで付き合ってるタレントとわかるような写真を掲載する。女子のマインドはたとえ有名人でも無名な一般人でも変わらない。相手がタレントであるならより一層だろう。

「私は特別なのよ」「私はすごい!!」

 そう、言いたいのだ、みんなにわかってほしいのだ。それは、タレントが好きだからではない。結局そんな自分が好きなのである。


<著者プロフィール>
菱ユーキ(ひし・ゆうき)◎ライター。ヲタク経験値レベル100。ジャニヲタ歴30年。アラサーヲタクの代弁使。かつてはメルマガで約1万人以上もの購読者を誇る。

<イラスト>
星野グミ子(ほしの・ぐみこ) ◎イラストレーター。バンドや俳優、アニメなど何かといろんなジャンルの沼にはまりがち。オフィシャルブログ『ハマったもん勝ち 沼ガール!』を運営中。

<今回のジャニヲタ用語集>

【担当(たんとう)】ジャニーズでお気に入りのメンバーやグループのこと。「ニノ担」などと表現する。

【ファミクラ】ジャニーズファミリークラブの略称、ジャニーズタレントの公式ファンクラブの母体となる組織のこと。