世界最大のバリスタの国際大会「ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)」で、チャンピオンに輝いた井崎英典さん(photo by 安宅駿)

 バリスタという職業をご存じだろうか? カフェやバールのカウンターに立ち、注文に合わせてコーヒーを淹(い)れる仕事だ。

 たとえば、多くの人になじみのあるスターバックスでコーヒーを淹れている緑のエプロンの人もバリスタだし、さらにコーヒーの専門知識を持つ黒いエプロン姿の「ブラックエプロンバリスタ」もいるそうだ。

 昨今のカフェブームでバリスタも増えているが、日本にはただひとり「世界一」の称号を持つバリスタがいる。2014年、各国の予選を勝ち抜いた精鋭が集う、世界最大のバリスタの国際大会「ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)」で、わずか24歳にしてアジア人初のチャンピオンに輝いた井崎英典さんだ。

 大会時、コーヒー好きには有名な、長野県の小諸にある丸山珈琲の本店で働いていた井崎さんは、2016年1月に独立し、「SAMURAI COFFEE EXPERIENCE」を創業。現在、コーヒーエヴァンジェリストとして、世界を飛び回っている。

 今回は、世界のコーヒー事情、カフェ事情に精通している井崎さんに、「誰でもわかるおいしいカフェの選び方」、「自宅でできるおいしいコーヒーの淹れ方」を聞いた。2回に分けてお送りする。

コーヒーエヴァンジェリストの仕事とは?

──井崎さん、まずは現在、コーヒーエヴァンジェリストとしてどんなお仕事をしているのか教えてください。

井崎:コーヒー専門のフリーコンサルタントとして、コーヒーのチェーン店での技術指導や教育システムの構築、トップバリスタのコーチング、エスプレッソマシンメーカーのテクニカルコンサルタント、コーヒー豆やコーヒー関連のマシンを扱っている代理店の売り上げを伸ばすための販売戦略を考えたりしています。

 不二家、森永乳業、ティファールなど他業種とのコラボレーションも増えていますね。最近では、サラヤと「カロリーゼロでコーヒーに合う砂糖」を開発しました。

 相変わらず海外出張も多くて、昨年は68回飛行機に乗って、出張日数が226日。今年はすでにインドネシア、オーストラリア2回、イタリア、イギリス、ギリシャ、スイス、中国、シンガポール、台湾に行きました。

■チェックポイント(1) マシンまわり

──活動の幅が本当に広いですね。まさに世界を股にかけて活躍している井崎さんは、いろいろなカフェでコーヒーを飲んでいると思います。誰にでもわかるような、おいしいカフェの選び方を教えてください。

井崎:わかりました。まず、コーヒーは嗜好品なので、自分が好きな味を楽しんでもらえればいいと思うんです。ただ、どんなカフェがおいしいコーヒーを出している可能性が高いか、という視点であれば、まず僕は、カフェに入ったらマシンまわりを見ます。整理整頓ができているか、ということです。

──整理整頓!?

井崎:はい。コーヒーって、簡単にいうと粉と水を混ぜる、それだけなんです。その単純な仕組みのなかで、僕らは豆をどう挽くのか、どれぐらい詰めるのか、どれぐらいの気圧で淹れるのか、どれぐらいの秒数で淹れるのかというたくさんの要素をコントロールしながらコーヒーを作っています。

 結局、コーヒーの味は、細部への心配りの積み重ねであり、細かい心配りができる人がうまいコーヒーを淹れられる人なんですよ。

 僕は世界中で、成功しているカフェも失敗しているカフェも見てきたけど、成功しているカフェはみんなきれいに、丁寧に器具を使っているし、トイレもきれいです。面白いことに、これは本当に世界共通なんですよ。

■チェックポイント(2) 接客

──なるほど! それでは、まずお店が整理整頓されているか、トイレがきれいかがチェックポイントですね。ほかにありますか?

井崎:接客です。僕は接客重視の男なんですよ。小さい頃から親父(福岡のハニー珈琲店主)に「お前の飯は、お客さんからもらった数百円のコーヒーでできてるんだ」とよく言われていて、それが自分の感覚として根付いてるんです。

 コーヒーは毎日飲むもので、僕たちは寿司屋じゃない。だから、接客は一にも二にも大事なことだと思います。接客が悪いと、うまいコーヒーもまずくなるでしょ。

井崎さんも登場する日本人世界王者10人の仕事論を掲載!『BREAK!「今」を突き破る仕事論』。画像をクリックするとamazonの購入ページにジャンプします

──確かにそうですね。井崎さんにとってはどんな接客が良い接客なんですか?

井崎:カフェブームと言っても、スペシャルティコーヒーって難しいな、頼みにくいなと思う人もいると思うんですよ。そういう気持ちをどれだけくみ取ってコミュニケーションできるか。いつでも来てください、わからないことがあったらなんでも聞いてくださいと。

 どんどん新しいカフェが出てくるなかで、尖ったことをしようとして接客がおろそかになっているところもあるかもしれないけど、それは本当にもったいないことだと思います。お客さんからしたら、また来たいなと思えるかどうか。それが最大の判断基準です。

 コーヒーのカンファレンスでトークセッションをすると、みんなコーヒーの超マニアックな話を聞けると思ってくるんですけど、僕はいつも成功するカフェの条件としてこういう話をするので、みんな「え?」みたいな顔をするんです。でも、これは大事なことだと僕らが言っていかないといけない。

 逆にいうと、お店がピカッと清潔で接客も温かくて心地よいというカフェがあったら、そこのコーヒーはおいしいと思います。

──おいしいカフェは飲む前にわかる、ということですね。ありがとうございました!