昨年の10月からスタートしたNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』。4月1日に迫る最終回を前に、脚本家の渡辺千穂さんに独占インタビュー。

人はひとりでは生きていけない

 朝ドラ『べっぴんさん』の撮影が終了してから数日後、NHKの会議室に現れた渡辺さんは、晴ればれとした表情をしていてとてもきれいだった。

朝ドラ『べっぴんさん』脚本家・渡辺千穂さん

今の感想は、ああ終わってしまったーって(笑)。大好きな人物がいっぱいドラマにいて、みんなの人生を書き終わったのがうれしいなって。

 ヒロインの芳根京子ちゃんは、さすがオーディションで選ばれただけある。芳根さんだからこその、すみれになっていきましたからね」

 今作のすみれのような控えめなタイプのヒロインは、朝ドラには珍しく、微笑ましい。

「いろんな方に言われますけど、芯の強さとか、前を向いて歩くところとか、一生懸命がんばるところは、やっぱりヒロインだと思います。朝ドラって、演じる人にとってもすごいことなんですよ。準備期間から10か月かけて、濃密な時間を作っていく。新人のうちにそれができるって、すごくいいと思います。私も半世紀以上にわたる物語を最終的なところまで描くことができた。脚本家として、朝ドラを経験してみたいなっていう思いはずっとありました。長い時間、ひとつの作品のことを考えていられるぜいたくな仕事は、めったにないですから

 劇中では、夫婦の形、キアリスの仲間の形といった、いろんな人間関係が出てきた。

心から信頼できて、自分を包み隠さず出せる仲間がいるというのは、一生の宝だと思う。そういう友情を描きたいっていうのがありました。

 すみれと紀夫さん夫婦も、最終回のほうでは、すごく可愛いおじいちゃんと、おばあちゃんになっている。人は、ひとりでは生きられない。一緒に生きている人たちが幸せにしてくれて、自分が相手を幸せにすることもできる。そういう夫婦の形、友達の形を書きたいと思っていました」

ドラマを見た友人はみんな……

 では、ご自身の友情は?

「私、けっこう友達作りが上手かも。学生時代の友達も、この仕事を始めてからの友達もいます。でも『べっぴんさん』を見て連絡をくれた友達はみんな“栄輔カッコいい!”“栄輔は明美さんとくっつくの?”って、感想はそこばかりでした(笑)

脚本家・渡辺千穂さん

 2年半前に結婚され、昨年は出産も経験された渡辺さん。ママになってから初めてのドラマが今作だった。

ママ友とか、子どもを通しての知り合いも増えましたね。0歳児から一緒に過ごしているお友達とは、この先もずっと仲よしでいてくれるといいなあって。それは母の思いですね。

 あっという間に1歳になり、今は元気すぎるくらい元気なんですけど、10か月くらいまでは、本当に手のかからない育てやすい子で恵まれていました。それでも、もちろん、生まれてみたら大変なんですけど。もう、いないことが考えられないんです。だから、やるしかないし、育てるしかない、全力で。みたいな感じですね。

 子育ても仕事も両方できて、なおかつ楽しいと思えるのは、周りにいろいろ助けてもらっているからですね。主人(フリーアナウンサーの羽鳥慎一さん)も、いろいろやってくれたりするし。実家が近くて、両親が見てくれるのも助かっています」

 ドラマのナレーション(語り)には、人生や家族についての珠玉の言葉があふれている。ヒロインの母親を演じ、ナレーションも担当している菅野美穂については、

「台本の本読みのときに顔を合わせて、“ああ、菅野さんでよかった”って。ナレーションは、その日のテーマをわかりやすく、(ヒロインの母)はなさん目線で語っているんですね。はなさんの言葉が生きているとしたら、それは私が、はなさん目線だからかもしれません。そういう言葉を菅野さんに託せるので、100%よかったって思いました

 以前、“人は所を得る”ということを書きたい、と語っていた。その思いを果たすことはできたのでしょうか。

「ドラマの後半で、すみれたちの第二の人生を描いていくんですけど。やっぱり人生そのものが、自分の居場所を見つけるものだと思っていて。過去の言動、自分の考え方、感じ方、何かを選択した結果が今であると。

 自分の居場所は、自分が作っているということを、表現したいなと思って。最終回まで見ていただくと、長い物語ですが、わかるようになっていると思うんです」

 はなの語りにも「ひとつひとつ正しいと思うことを、そのときそのとき、選択するしかない」とある。

そうだと思います。自分の人生(居場所)は、やっぱり他人が決めるものじゃない、自分で決めること。流されたら、流される人生になりますから。決めた後の方法はそれぞれだと思います。例えば、欲しいと思ったものをつかみにいく人もいれば、そうじゃない人もいる」

 つかむ人ですか?

「私ですか? つかみにいくというよりは、欲しいと思ったものは、あきらめることはしないかもしれないですね」