SMAPは英語と音楽、きゃりーぱみゅぱみゅは英語、又吉直樹は国語、羽生結弦は道徳の教科書に

又吉を採用した理由

 3月に発表された来年度から使われる教科書には、誰もが知るスターが多数登場している。高校の国語では、“文豪”又吉直樹の文章が初採用。

「'15年7月に芥川賞を受賞した小説『火花』が大ヒットしましたからね。数研出版では国語の教科書に写真も掲載されました。大修館書店の『新編現代文B 改訂版』には、沖縄在住の祖母とのエピソードを綴ったエッセイ『祖母が笑うということ』が5ページにわたり掲載されますよ」(教育系出版社関係者)

 教科書に採用した理由は、初の芥川賞受賞芸人という話題性だけではないという。

「芥川賞のこともありますが、以前から又吉さんがテレビなどで国語の教科書や教材について発言していたのが大きいですね。太宰治や芥川龍之介、夏目漱石がお好きだと発言しておられました」(大修館書店の担当編集者)

 純文学の『火花』は普段、本を読まない子どもには難しいが、読みやすいエッセイなら本に親しむきっかけになる。

「幼いころの祖母との思い出と、芥川賞を受賞した後に沖縄に行ってお祝いをしてもらったことが書かれています。又吉さんは沖縄の方言がまったくわからず、祖母も彼の話す言葉が理解できません。でも不思議と心は通い合ってコミュニケーションがとれるのです。祖母に“早く結婚しなさい”と言われて、又吉さんが“相手おらんねん”と返すやりとりが、素直な言葉で綴られています」(前出・編集者)

道徳の教科書ではスポーツ選手が人気

 来年度から教科化される道徳の教科書には、特にスターたちの出番が多い。

「小学校では、野球のイチロー選手や大谷翔平選手、テニスの錦織圭選手、卓球の福原愛選手、フィギュアスケートの浅田真央さんなど……。スポーツ選手の粘り強い生き方や積極的な姿勢を学ぼうという狙いがうかがえます」(全国紙記者)

 浅田真央に関しては、'14年のソチ五輪の出来事が取り上げられている。

「金メダルを期待された浅田さんは、ショートプログラムでは転倒があって16位。しかし、フリーでは最高の演技をして自己最高点をあげました。結果は6位でしたが、試合後に彼女は“満足だった”と語っています。失敗したときもどう立ち直っていけばいいかを学習していってほしいですね」(光文書院の担当編集者)

 彼女は先日、突然の引退を発表したが、教科書に変更はないという。

「教材の最後は、“浅田選手はこの後も、自分の新しい道に向かって歩いていくだろう”といった描き方になっています。スケートを離れても、次の目標に向けて努力する姿は、子どもたちの生き方の参考になると思いますよ」(前出・編集者)

 人気を反映して、サッカーが取り上げられることも多い。

「広済堂あかつきの5年生版は、サッカー日本代表キャプテンの長谷部誠選手の著書『心を整える。』の文章を引用しています。節度ある生活や節制について考えさせています。学研教育みらいの4年生版では、'12年のロンドン五輪で、なでしこジャパンが敗れたことを紹介。友情や信頼を考える教材として、本当の仲間について子どもたちに考えさせます」(前出・全国紙記者)

 スポーツ選手以外にも、話題となった人物にスポットライトが当てられている。

不倫騒動のアノ人は何の教科書に?

「NHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』のモデルとなった漫画家の水木しげるさんや、'15年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智さんの業績と人生を紹介しています」(前出・全国紙記者)

 最近、不倫騒動のあったあの人は道徳の教科書ではなく、英語の教科書に。

「来年度のコミュニケーション英語IIに渡辺謙さんが載りますよ。'15年にニューヨークでミュージカル『王様と私』に主演し、アメリカ演劇界の最高の栄誉であるトニー賞にノミネートされたことが紹介されています」(前出・教育系出版社関係者)

SMAPの大ヒット曲『世界に一つだけの花』が紹介されている音楽の教科書(教育芸術社)

 教科書に取り上げられることが最も多いのがアーティスト。音楽の教科書にSMAPの『世界に一つだけの花』が載っているのは有名だが、それ以外の教科にも広がっている。

「SMAPは'13年の中学の英語の教科書にも載っていますよ。“日本の人気アイドル”として英文で紹介されています」(前出・教育系出版社関係者)

 優れた歌詞が国語で取り上げられるケースも多い。

「SMAPに楽曲を提供したこともあるスガシカオさんは、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』の主題歌『Prоgress』の歌詞が、三省堂の中学2年生の国語の教科書に採用されています。三省堂は、中学1年生にゆずの『虹』、中学3年生にはアンジェラ・アキさんの『手紙』を詩として取り上げています」(教育誌関係者)

 水木一郎は、歌ではなく生き方が採用の決め手に。

「'15年に小学校の道徳の副読本の題材に使われました。人気がふるわず一時は引退も考えた彼は、アニメソングと出会ったことで才能を開花させました。それが道徳の指導内容のひとつ『個性伸長』に合致するとして採用されたそうです」(音楽ライター)

背景には教育現場での変化が

 大学の教科書には若者にとって身近な芸能人も。

「多くの大学の一般教養課程で使われる南雲堂の'17年度版英語『クールジャパン』では、きゃりーぱみゅぱみゅさんが英文で紹介されています。ほかにフィギュアスケートの羽生結弦選手や錦織圭選手、アナウンサーの滝川クリステルさんなども載っていますよ」(スポーツ紙記者)

 昨今、芸能人が多く教科書に載るようになった背景には、教育現場での変化があると教育評論家の石川幸夫氏は指摘する。

「活字離れが進んでいて、子どもたちが文章に親しむようにすることが課題となっています。だから、著名人を取り上げて関心を引く傾向が強まってきたのでしょう」

 ただ、それだけで学力向上が実現するわけではない。

「今の子どもたちはLINEなどの非常に短い文章しか読みません。複雑な文章を理解できていないというのが現実的な問題です。次のステップに進むためには、指導者の資質が問われます。道徳で著名人を取り上げるのもいいですが、ただ成功例を並べるだけでは学習内容を理解させることはできません」(石川氏)