山手線(JR東日本)

 国鉄の分割民営化から30年。もはや若い世代は国鉄を知らない。

 国鉄の正式名称は「日本国有鉄道」で、その名の通り国営の鉄道だった。世界に先駆けて新幹線を実現させて、日本を鉄道王国にした立役者である。

 国鉄は、国営ではあるが独立採算制だ。因果なことに、東海道新幹線が開業した1964年度から赤字に転落し、そのまま借金は膨れ上がり、最終的には長期債務が37.1兆円に至って経営破綻した。

 その国鉄を分割民営化して、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物は誕生した。

 JR誕生から30年目の今、あらためて考えてみたい。JR各社の経営努力はどれくらい評価できるのか。

JRのなかでもっとも儲かっている会社はどこ?

大手企業とJR各社の営業収益・営業利益の差

 JRの中でもっとも営業利益が高いところ、つまり、もっとも儲かっているのはJR東海である。その額は5,787億円で、日立製作所、ホンダを上回り、ソニーの2倍にもなる。

 JR東海は利益率が高いのも特徴で、鉄道業では抜群の33%である。東海道新幹線が営業収益の68%を占めており、東海道新幹線の方が在来線よりも利益率が高いため、事実上、東海道新幹線で稼いでいるわけだ。

 一方、営業収益のトップはJR東日本の2兆8671億円である。ただし、これは驚くほどではない。トヨタ自動車はこの10倍にもなる。

 JR東海、JR東日本の両社が成功したのは、経営が良かったからか? 

 東海道新幹線が進歩したのは間違いない。国鉄時代に3時間近くかかっていた東京~新大阪は、現在では「のぞみ」の一部で2時間30分を切っており、輸送量も大幅に増加した。国鉄時代には0系から100系の登場まで20年以上もかかっており、国鉄の停滞ぶりはひどかった。

 たしかに、国鉄に比べれば雲泥の差だが、そもそも国鉄と比べるのはおかしい。

 政治に翻弄された国鉄は、民間企業のような自由な経営ができず、舵が効かない船のように迷走し、ついには破綻したのだ。国鉄からJR東海を誕生させたのは成功だが、そのこととJRになってからの経営は別々に評価すべきである。

JR各社の収益に占める運輸業以外の割合

 JR東海の今日の成功は、東海道新幹線というドル箱路線を手に入れたことが最大の要因とも言える。JR東海は、運輸業以外の事業が営業収益の22%にまで成長したが、営業利益では4%に過ぎず、わずか226億円である。運輸業以外の事業で比較すれば、JR東海はJR九州よりも劣るのだ。

左からJR東日本・JR東海・JR九州の営業収益をグラフ化
左からJR東日本・JR東海・JR九州の営業利益をグラフ化

 JRセントラルタワーズ内にジェイアール名古屋タカシマヤがあり、これがJR東海の運輸業以外の中では大きな割合を占める。しかし、JR東海の事業は多様性が乏しく、貪欲に異業種に挑む姿は薄かった。しかも、百貨店事業は利益率が低いのだ。

 東海道新幹線を利用すると、その商売感覚の鈍さを感じる。駅構内の弁当は値段が高めの割には美味しくなく、車内販売のコーヒーも同様だ。そのうえ、何をこだわっているのか知らないが、スペースが限られる車内販売のワゴンで、“時代の先端を行く雑誌”と自称するWedgeを販売し続ける。

 東海道新幹線は年間で1億6300万人が利用するが、それを活かす余地はまだまだ大きいだろう。

 JR東日本は、1991年3月期決算で営業利益の95%を運輸業が占めていたが、今では、営業収益、営業利益ともに約3割を運輸業以外が占める。東京圏という商圏を活かして駅ナカなどのビジネスを拡大したわけだ。

佐藤充も執筆者として参加した『駅格差 首都圏鉄道駅の知られざる通信簿』(SB新書)

 ただしこれも評価に値するのかは慎重に考えたい。

 JR九州は、営業収益が3779億円、営業利益が208億円で、JR東日本、JR東海に比べると桁違いに少ない。JR東日本の「駅スペース活用事業」の営業利益が350億円なので、JR東日本の「エキナカ」やコンビニ事業などで、JR九州グループ全体を上回ってしまうほどだ。

 それでも、JR九州は運輸サービス以外が営業収益の過半数を占めており、営業利益でも運輸サービスの赤字を穴埋めする。

 規模は違うが、JR東日本がJR九州と同じように事業を拡大できていれば、その営業収益は4兆円にもなるのだ。

 ちなみに、乗降人員が10万人を超える駅は、JR九州では博多だけだが、JR東日本には94駅もある。JR東海が5駅、JR西日本でも13駅なので、JR東日本の事業環境は圧倒的に有利だ。それにしては、手堅いというより、見劣りする数字ではないだろうか。

 国鉄改革が成功だったことは、今日のJR東海、JR東日本などが証明している。しかし、それぞれの経営手腕については、手放しでは評価できないのである。


文/佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』がある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。