シワシワの顔から魅力と知恵がのぞく

 過去、ポプラ社『おちゃめなふたご』『若草物語』などの名作物語の挿絵を描き、全国10数社と契約を結んだキャラクター商品は一世を風靡。サンリオ『いちご新聞』では1975年の創刊以来、現在もイラスト&エッセイを連載中の田村セツコさんは、確実に日本の“カワイイ”を作ってきたクリエイターのひとりと言えるでしょう。

『おちゃめなふたご』『若草物語』の挿絵を手がけた田村セツコさん 撮影/坂本利幸 

 そんな田村さんの最新刊が、『おしゃれなおばあさんになる本』(興陽館)。まず目を引くのが、キュートな茶色いギンガムチェックの表紙です。

デザイナーさんが、私らしい身近な素材が資料として欲しいというから、お気に入りの布地とか包み紙とか、ペーパーナプキンとか、そういったものをひと山お送りしました。そうしたら一番シンプルなものを参考にしてデザインしてくださって。本当に素敵よね」

 そしてワクワクしながら表紙をめくると、《年をとっておばあさんと呼ばれる年になってわかったことは、たくさんの面白いことや楽しいことが、魔法のように増えてきたことです》という、心強い言葉が真っ先に目に飛び込んできます。

『おしゃれなおばあさんになる本』(興陽館) ※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページにジャンプします

「私、おばあさんには子どものころから一目置いていたんです。早くならなくてもいいけど、なるのは楽しみって。そもそも、おばあさんっていうのはもとからおばあさんなんじゃなくて、赤ちゃん、女の子、色っぽい女の人なんかが、同じ人のシワシワの皮の中に詰まっていて、それが過去ではなく現役で存在しているの。例えば年を取ったらおばあさんらしく、表向きには渋いものを選んだりするけど、ビーズやおリボンが好きなのは結構変わらない。おちゃめな女の子が、シワの中からウインクしているの。おばあさん自身もウッカリ忘れているんだけど、傍からは見えますね」

 本著の中には、ファッションへの向き合い方、ひとりぼっちの楽しみ方、物を書くこと、作ることで得られる豊かさなど、イキイキと魅力的なおばあさんになれるノウハウがいっぱいです。そして根底に流れるのは、“自分は自分”という田村さんの凛とした強さ。

「みんなでわいわいガヤガヤ群がるのも楽しいけど、ひとりの時間をこなせるのも、必要だと思うのね。例えば独居老人って寂しいものだけど、寂しいのは当たり前だから、当たり前のことをやっても仕方がないわけ。おばあさんのシワシワの顔の中には、あらゆる経験と情報がたたみ込まれているんだから。それは言葉を変えれば魔法って言ってね。魔法使いのおばあさんは特別な人じゃなくて、すべてのおばあさんは魔法使いなの。それに気づいていらっしゃらない人が多くて、もったいないなあって思います」

若いほどいいというワナにはハマらないで

 本著はトピックごとに細かく段落が分かれており、どのページからも読み始められるので、活字が苦手な人でも楽しめます。

最新刊『おしゃれなおばあさんになる本』が話題の田村セツコさん 撮影/坂本利幸 

「ベッドの前に置いて、パッと広げてひと段落読んでから寝るっていう人もいました。ちょっと私の口のきき方が、なれなれしいかなと思う部分もあるんだけど……え? おばあさんの特権だから直さなくていい? フフ、それはすごいわね。そうね、おばあさんはオールマイティー。なんでも許される存在ですものね」

 田村さんのポジティブな姿を見ていると、「おばあさんって素敵な存在だな」と自然に思えてきます。しかし現実問題、日本においては“若い女性ほど美しく価値がある”という考えが一般的なのでは。

「日本は男性の目も大いにあるから、確かに若くないと値打ちがないっていう発想があるわね。でもそれは罠だから、ひっかかって躓いてはダメ。要はピークをどこに持っていくかじゃない? 私はラッキーなことに若いころからおばあさんに憧れていたけれど、そうじゃない人もこれからおばあさん時代にピークを定めれば、その前は助走っていうかね、どうってことないのよ

 年とともに衰えるという考えから、自由になることで得るものも多いようです。

おばあさんになった自分には“ボンジュール、おばあさん”って挨拶したらいいわ。おばあさんはね、怖いものがないの。泥棒なんかが入ってきてもね、おばあさんは平気。“お茶でも飲んでいきなさい。ただお金だけはないから、あなたもちょっとは勘を磨きなさい”って言えばいいの」

 ちなみに理想とするのは、ちょっと“ハードボイルドなおばあさん”だそう。

「ポッケにお財布と手帖を入れて、プラッと図書館に行ったり、バーで“いつもの”って頼んでクイッと飲んだりするの。カッコよくて憧れます。素敵なおばあさんは何があっても慌てないミステリアスな存在で、ハードボイルドなのよ

 若い女性には、そのときだけの魅力があるように、おばあさんになったら、そのときにやっと得られる魅力がある──そう思えば、加齢=人生を諦める、ションボリするという暗い未来から抜け出せそうです。

「もう1度言います。おばあさんは誰でも魔法が使えるから、それを自覚してほしい。空を飛べるかって言われれば……そうね、もう少しで飛べるくらいの可能性はありますよ。フフッ」

取材・文/中尾巴

<プロフィール>
たむら・せつこ イラストレーター、エッセイスト。1938年、東京都生まれ。高校卒業後、銀行勤務を経て松本かつぢの紹介でイラストの道へ。'60年代に『りぼん』や『なかよし』のおしゃれページで活躍し、'70年代には “セツコ・グッズ” で一世を風靡。以降、現在に至るまで名作物語の挿絵やイラスト&エッセイを手がけ、著書多数。