大坂に生まれた天涯孤独なヒロインが、江戸で一流の女料理人として成長していく姿を描いた時代劇『みをつくし料理帖』(NHK総合 土曜午後6時5分~)。黒木華が、NHKドラマに初主演し、クランクイン前から練習に取り組んだ包丁さばきで料理を披露。食通や江戸っ子たちがうなる、おいしい創作料理とドラマの舞台裏とは──。

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昨秋から料理特訓、完璧な包丁さばき

「土曜時代劇」から「土曜時代ドラマ」にリニューアルした第1クールで、黒木華がNHKドラマ初主演。江戸の料理屋で腕を磨く、大坂生まれの女料理人・澪(みお)を演じている。

 城谷厚司プロデューサーは、以前から高田郁(かおる)の同名小説を映像化したいと考えていて、昨年9月にドラマ化が決定。脚本は『ちかえもん』で向田邦子賞を受賞した藤本有紀が担当する。

澪役には黒木さんを、と当初から考えていました。とにかく表情力が素晴らしいんです。次から次へといろんな表情を見せる。撮影は中盤に入りましたが、いまだに新たな表情が飛び出します。演出家も、撮影していて楽しいようです。

 そんな黒木さんと共演し、澪の成長に関わっていく登場人物を演じるには、誰が面白いだろうと考え、キャスティングしています」

 1話が38分という短い時間のドラマなので、すべての登場人物の背景をじっくりと描くことができない。キャスティングで重視したのは、限られた時間の中でもキャラクターに厚みと奥行きを感じさせる役者であることだった。

 毎話、江戸時代のおいしそうな料理が登場する。

「カツオを何匹か本当にさばかせていただきました。頭を落とすときに骨を折るのとか、座って調理をするのが初めてだったので、難しかった」と、黒木。

 第1話では、澪がカツオをさばくシーンで、見事な手つきを披露した。クランクインは今年3月だが、昨年11月から料理の練習を始めた努力の賜物(たまもの)だ。

現代人は扱い慣れない和包丁を黒木さんの練習用に作りました。黒木さんは週に1回、先生のところに通われ、その様子をビデオに撮り、家でも毎日のように練習していたそうです。クランクインするころには、包丁さばきは完璧でした」(城谷P、以下同)

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 主演の黒木は、包丁さばきと実はもうひとつ、撮影前に特訓していたことがあるのだそう。

「澪が困ったとき、心配なときにする顔を小松原は“見事な下がり眉だな”と揶揄します。澪の最大の特徴である“下がり眉”ですが、クランクイン前にお会いした黒木さんの眉は、もちろん下がっていませんでした。眉間のあたりの筋肉を鍛えられたのでしょうか、撮影が始まると本当に見事に下がるようになっていました(笑)。一発芸のようにそれだけをするのではなく、お芝居をしながらの“下がり眉”なので、素晴らしいです」

江戸の創作料理と恋の行方にも注目

 黒木は、着物姿での演技に調理、澪が画面に登場しないシーンはないというほど過酷な撮影だが、常に自然体に見えるという。

「先日、原作者の高田郁さんがスタジオに来て、澪に扮する黒木さんを見て“澪そのものです”と、感嘆していらっしゃいました。和装が似合い、イメージにぴったりということもあるのでしょうが、それ以上に黒木さんが“澪”という役を自分のものにしているから、そう見えるのだと思います。

 料理の稽古を重ねることはもちろん、脚本の読み込み方の深さ、的確さ、想像力が“澪”という人物に投影され、役と俳優が一体になっているのだと思います」

 ドラマでは、澪と“つる屋”の常連客、小松原(森山未來)、澪に一途な思いを寄せる医者の源斉(永山絢斗)の恋愛も見どころ。

「非常に魅力的な話になっています。この先の澪と小松原の恋物語には、僕も涙しました。源斉の思いに澪が気づくのかにも注目を」

澪は、料理に厳しい指摘をする小松原(右)に、次第に惹かれていく。左は、澪に料理を任せている種市 (c)NHK

 季節によって変わる澪の着物の着こなしは要チェック。華美ではないが、襷(たすき)や帯のワンポイントでかわいらしさが表現されている。これは『あまちゃん』などを手がけた人気スタイリストの伊藤佐智子によるもの。

「芸達者な俳優さんの演技、江戸時代の創作料理など、さまざまにお楽しみいただける作品に仕上がっていますが、テーマにしているのは、“おいしいというのは、どういうことか?”。澪が作る料理には、自分を助けてくれた種市への思い、料理修業のために、なけなしの金をはたいてくれた芳への思いがこもっています。上手に作るだけでなく、おいしいとはどういうことか、を感じられるのが、見どころです」

 ドラマに登場した料理は、エンディングに“澪の献立帖”のコーナーとして紹介。澪がシステムキッチンで料理している。

「原作者の高田先生が、執筆の際に実際作った料理ばかりです。ドラマを見て、“食べてみたい”と思ったり、“おいしそう”と感じた方に向けて、作り方もご紹介したいと思ったのです。意外に手軽で、近所のスーパーで買った食材で作れます。澪のように、誰かのために、心をこめて作ってあげたいと思っていただけたらうれしいです」

エンディングで料理の作り方を紹介。“はてなの飯” (c)NHK