古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、テレビ業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第23回は山名宏和が担当します。

梅沢富美男 様

 今回、勝手に表彰させて頂くのは梅沢富美男さんである。

梅沢富美男

「梅沢さん、スケジュールが全然なくて」

 プロデューサーが、そうぼやいているのを最近よく耳にする。

 確かに、ここ一年ほどの梅沢さんの活躍ぶりはすごい。テレビで見ない日はないほどだ。しかもどんな番組に出ていても面白い。

 僕が参加している番組のゲスト案でも、梅沢さんの名前はよく挙がる。おそらく今、もっとも頻繁に名前の挙がるタレントではないだろうか。

「困ったときは、とりあえず梅沢さんだ」

 そんなふうに言っているディレクターまでいる。「とりあえず」とは失礼な物言いではあるが、それだけ頼りにしているということの裏返しだ。ここまで手放しで頼りにされる出演者はふなっしー以来である。

 梅沢さんの魅力といえば、強気な態度で世間にモノ申すところだろう。昭和の匂いが漂うあの頑固親父ぶりは、年配層にはウケがいい。梅沢さん自身もそんな自分の役どころをちゃんとわかっているようだ。家でテレビを見て怒っている義理の母の姿を見て、「自分はテレビでこの人たちの怒りを代弁しなきゃいけないと思った」と梅沢さんが語っていたという話を聞いたことがある。

 しかし、頑固親父というだけではここまで引く手あまたにはならない。梅沢さんの人気が突出しているのは、口うるさい頑固親父なのにツッコミどころ満載という点にある。

 それは他の御意見番と比べるとよくわかる。たとえば、中尾彬さん。中尾さんも梅沢さんに勝るとも劣らぬほどの頑固親父だ。その発言も、ある世代以上から見ると正鵠(せいこく)を射ている。そんな中尾さんにツッコめる隙はほとんどない。あるとしたらネジネジぐらいか。不用意にツッコもうものなら、あのイイ声で的確に反論されかねない。

 それに比べると梅沢さんには、いくらでもツッコミどころがある。

「何度も浮気がバレている」

「無駄な買い物ばかりしている」

「なんだかんだ言っても奥さんには頭が上がらない」

 そして、そういうところを隠そうとしない。

 あれこれ口うるさく言うくせに、本人は隙だらけ。自分のことは棚に上げて、なにエラソーに言っているんだ! と思う人もいるに違いない。だが、そういうところが、ちょっとかわいい頑固親父にも見えて、年配以外の世代からもウケているのだろう。

 さらに梅沢さんは視聴者だけではなく、スタッフからも愛されている。

「梅沢さん、なんでもやってくれるから」

 複数のスタッフからそんな言葉を聞いたことがある。自分でNGだと表明しているクイズ番組とドッキリ企画以外はなんでもやってくれるのだ。他で繰り返し話しているエピソードであっても、お願いすれば嫌な顔せずちゃんと披露してくれる。あれだけキャリアがあるタレントで、ここまでなんでもやってくれる人はいない。

 しかしながら、昔からそうだったわけではないようだ。あるベテランプロデューサーが、「ある時から、梅沢さんはなんでもやると割り切った。それ以来、急に売れるようになった」と言っていた。なぜこの時、梅沢さんは突然「俺の中の規制緩和」を行ったのか。もしかすると、テレビの中では「頑固親父・梅沢富美男」役を演じていこうと決めたのではないだろうか。そうでもなければ、あんなにテレビ的に使い勝手のよい頑固親父などありえない気がするのだ。

 そんな僕の妄想に基づき、今回、梅沢富美男さんには「最優秀頑固親父演技賞」を勝手に差し上げ、勝手に表彰します。

 今、テレビ界では必死になって第二の梅沢富美男を探しています。けれど、なかなか見つかりません。もしかするとそんな人はいないのかもしれません。なので、もうしばらく今のままの「頑固親父役」を演じてください。


<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』『世界何だコレ!?ミステリー』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。