安心・安全・新鮮、珍しい食材も!

 庭や畑がなくても、ベランダやキッチンなどのちょっとしたスペースで気軽に始められると人気の家庭菜園。以前は40~60代の少し時間に余裕ができた層が中心だったが、最近は少し変化が出てきたという。

サカタのタネ広報宣伝部長・清水俊英さん「上手に育てれば1株でこんなに収穫できますよ」

「横浜の店舗では、これらの層にプラスして、お子さん連れのファミリーも増え、全体的に若返ってきたように見受けられます」と語るのは『サカタのタネ』広報宣伝部長の清水俊英さん。

 家庭菜園の魅力はいくつもあるが、まずは何といっても育てる楽しみがある。自分の手で育てるので安心・安全。しかも収穫したての新鮮野菜、ハーブが食べられるのだ。また、スーパーや青果店ではお目にかかれない、レアな部位を味わうこともできる。

「例えば、ブロッコリーの場合、私たちが普段お店で買って食べているのは茎のいちばん上にできる頂花蕾という部分。頂花蕾収穫後に、茎の途中にできるのが側花蕾。これは一般にあまり出荷されませんが、とても美味ですね。また、コマツナやチンゲンサイはすべての株を一斉に収穫せず、いくつかを残しておくとナノハナのようなつぼみが出てきます。このつぼみをおひたしや天ぷらにすると美味しい! ナノハナよりも苦みが少なくて子どもたちにも好評です」(清水さん)

 家庭菜園はコスパ的にはどうなの? という点も週女読者としては気になるところ。そこで清水さんに、キュウリを苗から栽培したケースを例に、簡単に見積もってもらった。

「コストパフォーマンスは、腕次第といってしまえばそれまでなのですが……(笑)。苗で約300円、土や肥料で約1000円、プランターや鉢で約500円として、合計2000円弱。収穫期間は2~3か月で1株20本ほどでしょうか。ちなみにミニトマトの場合も費用は同じで、120~150個程度の収穫が見込めます。もちろん腕を上げれば、それ以上を収穫することも可能ですよ」

マニュアルはひとつに絞る

 とはいえ「やってみたいけど、うまく育つ気がしない」「何から手をつけたらいいかわからない」と悩む家庭菜園ビギナーも多いはず。マニュアルどおりに育てれば、誰でも気軽に楽しめると清水さんは太鼓判を押す。

「家庭菜園は料理と似ています。初めて作る料理はレシピ本などを参考にする人が多いはず。家庭菜園も同じです。まずは、マニュアル本や育て方のウェブサイトに従って育てることが、成功の早道です」

 このとき注意しなければいけないのが、マニュアルをひとつに絞ること。野菜は育て方に哲学があるため、著者によって異なる部分が出てくるのだという。複数のマニュアルを参考にすると、かえって疑問や不安が出てきてしまうのだそう。

「料理も基本のレシピを覚えてから、少し塩を多く、砂糖を控えめに……など各家庭の好みの味にアレンジするものです。家庭菜園もこれと決めたら、まずは、そのマニュアルどおりに育てることが大切。ぜひ参考にしてほしいのが、種のパッケージ裏に記載されている育て方マニュアル。短い文章で的確に栽培方法が書いてあります。初心者にもわかりやすいと思います」

 と清水さん。ただ、それでもうまく育たないケースの場合、

「マニュアルを見直していくと、日当たりが悪い、水の量が多い、土が少ないなど、うまく育たないのには必ず何か原因があるので、そこを微調整しながら、あきらめず2度、3度はチャレンジしてみてください

水やりと間引き・摘芯が成功のカギ!

一般的なトマト1株に合ったプランターはこのぐらい。思った以上に大きなものが必要でビックリ!

 実際に家庭菜園をスタートさせた後、うまく育てるには、やはりコツがある。

水の与え方、間引きと摘芯(ピンチ)はとても大切! マニュアルに従ってきちんと行ってください」

 と清水さん。特に、初心者がやりがちな失敗のなかで最も多いのが、水のやりすぎとか。

「ナスは比較的、水が多くても育ちやすいのですが、ミニトマトは少し乾燥した環境を好むなど、育てる野菜やハーブによって必要な水の量は違います」

 生育が進むと愛らしくなり、水をたくさん与えてしまいがち。気持ちはわかるが、グッとこらえて適量を与えることが大切。水の量が多いと根腐れの原因となってしまう。

 また、水を与える時間帯は、今の季節であれば、できれば朝早く、あるいは夜にやり、暑い昼間は避けること。逆に、寒い冬は昼に与えて。

 そして間引きや摘芯も大切な作業。間引きとは、種まき後、発芽・生育に従い、植物が密集して日光不足や肥料不足になるのを防ぐために、混み合っているところから植物を取り除いて株間を確保すること。

 一方の摘芯は、茎の先端部分をハサミや手で摘み、植物が大きくなりすぎるのを止めたり、枝葉を増やすために行う作業のことだ。

「せっかく育っているのにかわいそう、と間引きや摘芯を嫌がる方が多いようです。でも、この作業をしなければ、せっかく育てた野菜やハーブに栄養分が十分に行き渡らず結果として元気がない、収穫がうまくいかないということになってしまいます。ここは心を鬼にして(笑)、しっかり作業してください」

熊本地震で野菜高騰? 家庭菜園のおすすめはミニトマト

「家庭菜園は初挑戦だから、とにかく失敗の少ないものを選びたい!」という人にすすめたいのが、苗から育てるミニトマト。これからの季節にピッタリなうえ、初心者向きの育てやすい植物の代表格だ。

 栽培のポイントを清水さんに聞いてみると、

「ミニトマトを苗から育てる場合、各節から出てくるわき芽は早めに手で摘芯して、主枝だけ1本を伸ばすようにするのがポイント。わき芽はすぐにまた出てきますので、そのつど、摘芯しましょう。また、苗を植えつける際には株元へたっぷり水を与えますが、成長を始めたら、少し控えるようにするのも大切です」

 そのほか、初心者向けの植物を挙げるならばハーブ類とコマツナ、ホウレンソウ、チンゲンサイなど。

基本的に栽培が簡単な順番でいえば、葉菜類→根菜類→果菜類となります。理由は明確で、植物の成長過程は、芽が出て葉ができるという順番。さらに葉ができて花を咲かせてからできるのが果菜です。つまり、葉菜類は葉を出すことができれば半分は成功だし、根菜類は葉を出し、根を太らせればいい。これに対して、果菜類は余分に2ステップ(花を咲かせ、実をつける)が必要ですので、それだけ時間も手間もかかるということです」

 ミニトマトは果菜類だが、苗から育てれば初心者でも比較的、簡単! というありがたい野菜。家庭菜園の楽しさを体験したいなら、まずは初心者向きの植物から始めて、少しずつステップアップするのが王道といえそうだ。

 最近、よく耳にする食べられる花=エディブルフラワー。食卓を華やかに彩るあのスグレモノも、家庭菜園で栽培可能だとか。

「ナスタチウムやキンギョソウなどがエディブルフラワーとして知られています。山形県などで生産される食用菊も日本の伝統的なエディブルフラワーです。エディブルフラワーを育てる場合、苗からではなく必ず種から育てることが大切。なぜなら市販されている花の苗はあくまでも観賞用で、食べることを前提に栽培されていないのです。また、エディブルフラワーとして知られる植物でも食べてよい部位とダメな部位がありますので、きちんと調べたうえで食卓に並べましょう」

 そのほか、専門料理店が登場するほど人気のパクチーも種、苗ともによく売れているという。

「パクチーはどこのスーパー、青果店でも取り扱っているわけではないし、買えば高価。でも自宅で栽培するのは比較的、簡単な品種です。この夏もさらに注目度が高まると思いますよ」

 さらにLEDライトつきの水耕栽培キットなども注目され始めている。

 これまでの家庭菜園はどちらかといえば素朴なイメージだったが、これからはハーブにエディブルフラワー、水耕栽培と、“おしゃれ”なカテゴリーが増えていくかもしれない。

【清水さんオススメの育てやすい野菜はコレ】

ミニトマト(左上)、ミニチンゲンサイ(右上)、バジル(左下)、ミント(右下)

●ミニトマト
 中玉は中級、大玉は上級レベルだが、比較的簡単なミニトマトは初心者にはうってつけ!

●ミニチンゲンサイ
 涼しい気候を好む一方で、夏の暑さにも比較的強いので、春から秋まで栽培可能。水やりは適切に。(写真提供/サカタのタネ)

●バジル
 葉を摘んだそばからすぐに新しい葉が生えてくるので長期間楽しめ、病気や害虫にも強く育てやすい。

●ミント
 虫もほぼつかず、繁殖力も旺盛で手間いらず。苗1株で使い切れないほどたくさん収穫できる。

<教えてくれた人>
清水俊英さん◎サカタのタネ広報宣伝部長。自宅のベランダで得意のナスやキュウリのほか、ミニトマト、トウガラシ、バラまで育てる超ベテラン。樹木医の資格も保有し、栽培のコツや楽しみ方をやさしく解説