他国を武力で守る集団的自衛権の行使を可能にする、安全保障関連法が成立した。

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獨協大学教授、経済アナリスト。多数のメディアに出演し、わかりやすい解説で大活躍。近著に『お金が貯まる! 45の選択 お金で得する人、損する人の考え方』(イースト・プレス)がある

「私の父は学生兵でした。蛟龍という人間魚雷の訓練を広島沖で行っているときに、原爆の投下を目の当たりにしたそうです。父の兄もゼロ戦のパイロットで、特攻しました。なので私は、中学生まで靖国神社の例大祭に参拝していたのですが、奉られている人のほとんどはプロのパイロットではなく学生兵。戦争は弱い人にしわ寄せが行くことを確信しました」

 こう語るのは、経済アナリストの森永卓郎さん。戦争が対岸の火事ではすまなくなるかもしれない日本の現状─。いまだからこそ、“平和”について考えたい。森永さんには、平和を見つめ直すことができる本を教えてもらった。

「門奈鷹一郎さん執筆の『海軍伏龍特攻隊』という本です。“伏龍”とはもっとも残酷な人間機雷。実戦で使われることはなかったこの“兵器”は、机上の空論でしかなかったのです」

 戦死者を出さずにすんだ伏龍だが、訓練時に多数の殉職者を出している。

「潜水服を纏った兵士が海中を歩き、釣り竿の頂点についた爆薬で潜水艦を突くというものです。そのためには海中を歩かなくてはならず、酸素の供給が必要不可欠。二酸化炭素を化学薬品でろ過するので、特殊な呼吸法でなくてはなりませんでした。

 しかし、技術や道具の供給もままならない戦時中ですから、事故が多発し、多くの人が訓練で事故死してしまったのです」

 その事実が歴史から抹消されぬよう、門奈氏が告発した本なのだ。

「『ショック・ドクトリン』はカナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが書いた本。歴史をきちんと分析したうえで、経済と戦争は根っこで結びつくということを提言しており、構造改革について手に取るようにわかります」

 上下巻に分かれているが、内容はシンプルだ。

「構造改革は大惨事を引き起こし、大惨事に便乗して新たな市場を形成します。本著の中では、主戦論者=構造改革推進派、平和主義者=平等主義派だと言われていますが、そのとおり。

 例えばイラク戦争の前線にいる米軍兵士の給与は、年間200万円程度。なぜそんなに安い金額で戦うのか。それは、軍隊に行くと大学に行くための奨学金が出るから。大学を出ないと200万円より低い給料でしか働けず、貧困を脱するために戦場へ行くのです」

 お金のない若者の頬を札束で引っぱたくような構図が、世界レベルで広がっているのだ。

「『ショック・ドクトリン』に対して、安倍政権の問題点を指摘したのが、2年前に発売された『安倍改憲政権の正体』。64ページと短いながら、アメリカに追従する従順な日本国民を作るため、TPPや憲法改正をもくろみ、目的達成のために現政権がどう動いているのかを提示しています」

 ニュースでの報道にも、さまざまな側面があり、ネットやテレビ、新聞などでは時間や紙幅が足りず、情報量が不十分なこともある。

「本はさまざまな視点から制約なく描かれていることが多く、著者の納得がいくまで書けます。コストパフォーマンスが高い、最大の情報源といえるでしょう」