昨年11月に引退し、28年の競技者生活にピリオドを打った村主章枝さん。現在、日本とカナダを行き来し振り付けを学びながら、後進の育成にも励む。村主さんに、浅田真央復帰に沸く今シーズンと新たなスケート人生について聞いた。

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村主章枝(すぐり・ふみえ) ●1980年12月31日、神奈川県生まれ。6歳でフィギュアスケートを始め、全日本選手権5度優勝、冬季五輪2大会連続入賞('02年ソルトレイク、'06年トリノ)、日本人初グランプリファイナル優勝など、輝かしい実績を誇る。現在、プロフィギュアスケーター、コリオグラファー(振付師)として活動

 まずは浅田、羽生結弦の今シーズンについて伺った。

「浅田選手とは同じ新横浜のリンクなので、練習しているのを見ていますけど、すごく成熟した女性になってきている。本人も大人の女性としての表現を追求したいと話していたので、どういう新しい彼女の一面が見られるのかすごく楽しみです。羽生選手は世界選手権で2番になってしまった悔しさがあると思うので、また1番をとるという気持ちで頑張っているんじゃないかと思いますね」

 浅田の注目のFS『蝶々夫人』について、こんな秘話も。

「『蝶々夫人』は、(振り付けした)ローリー(・ニコル)が1回誰かでやりたいって、ずっと言っていた曲なんですよ。なので、ついにやったんだなと思いました(笑い)」

 ソチ五輪以降、高橋大輔、鈴木明子、町田樹などトップ選手の相次ぐ引退で世代交代したフィギュア界。新たなスターは生まれるのか。

「去年は若さが売りで、ちょっと粗削りなところがある選手も多かったと思うんですけど、今年はジュニアの選手がどんどん上がってくる可能性は高いですよね。今まで応援していた選手が引退してしまって、ペットロスじゃないですけど(笑い)、“どうしよう〜私”って感じになっているファンのみなさんにとっても、次の五輪に向けて、お気に入りの選手を見つける楽しみがあるシーズンになるんじゃないですか」

 現在、カナダでローリー・ニコルに師事し振付師としてのスキルを磨きながら、日本でも子どもたちに指導するなかで思うことは?

「普通の10代の子っていうのは、精神状態にすごく左右されるんだなってことがわかりましたね。それに自己主張がなくて言われるとおりにやる子が多いので、その子らしさを引き出すのが非常に難しいです。技術的なものは高いグッドテクニカルなパフォーマーはいるんですけど、パーソナリティーがね……。要するに人間性が強い子が少ないかなって思う。

 もちろん、スポーツですからジャンプは大事ですし、おろそかにしてはいけないところですけど、それ以上に、見てくださる方たちの心にずっと残るような個性の強い選手が出てきてくれるといいなと思いますよね。私は、ジェイソン・ブラウンが好きなんですけど(笑い)、あれこそ唯一無二。ああいうタイプになってほしい。その個性を引き出すのが私の努力することなのかな」

『ピンクパンサー』を望結ちゃんが“継承”

 ローリー・ニコルは、15歳のときに振り付けをしてもらってから最も大きな影響を受けた人物だという。

「ローリーに出会ったときから、ずーっと振り付けの仕事をやりたかったんです。彼女のすごさは、選手に何をやらせたらいいのかを選ぶセンスとアイデアの豊富さ。それも理屈じゃなく感覚でできるから、もう才能だと思います。あとは音楽性が素晴らしい。今、振り付けを学ぶ中で、ローリーにいつも言われるのは、自分のコピーを作ることが大事なんじゃなくて、その子がいちばん輝く方法を見つけろ、輝くためのお手伝いをしろということですね」

 新たな目標に向かう、これからについては?

「本田望結ちゃんから('04 〜'05年シーズンにSPで滑った)私の『ピンクパンサー』をやりたいという依頼を受けて、4月にプログラムを作ってあげたんです。分数も違いますし、曲やステップも一部変えていますけど。それはうれしかったです。ただ本格的にやるのはもっと経験を積まないとできないですね。でも私の人生はずっとスケートって決めていて、そこはフィギュアを始めたときから全然ブレていないです。見た方に救われたと言っていただけるような作品を作れるように頑張りたいです」

 平昌五輪で振付師としてリンクサイドに立つ姿を楽しみにしたい。