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 独特な言い回しで人気を集めた大映ドラマ。多くの作品に出演した伊藤かずえに当時の思い出を振り返ってもらった。

 当時、伊藤がどんなにこらえても笑いを抑えることができなかったセリフもあったという。それは、いとうまい子との最後の決闘シーンだった。

「決闘を始める前に、まい子ちゃんに向かって“勝ったヤツが負けたヤツの骨壺を蹴飛ばすまでさ”と言うんですが、さすがに笑いをこらえることができませんでした」

 30年たった今でもこのセリフを忘れないというのは、よほどインパクトが強かったということなのだろう。

 セリフは笑えても、毎日の撮影は過酷だった。真冬に真夏のシーンを撮影したり、その反対のことは今のドラマ撮影でもよくあること。だが、当時は保温下着などは普及しておらず、使い捨てカイロはあったが、そんなものに頼ることもなく、厳冬の中で撮影が断行されたという。

 『乳姉妹』のラスト。海上の船の上で松村雄基が死ぬシーンは設定は夏だったが、実際の撮影は冬の寒い日だった。

「息絶える松村くんはTシャツ1枚で、ブルブル震えていました。死んでいる演技だから動いちゃいけなかったんですが、震えが止まらず、監督に叱られちゃって。かわいそうでした。息が白いと変なので、氷を口に含んで、息を冷やすこともありました」

 大映ドラマの思い出が尽きない伊藤が、唯一くやしい思いをしたことがあった。

「『ヤヌスの鏡』(フジテレビ系)は私の提案だったんですよ。愛読していたコミックをプロデューサーのところへ持っていき、この二重人格の役をやりたいって」

 ところが、彼女はすでに『ポニーテール~』の主演が決まっていたために『ヤヌス~』は新人の杉浦幸が主演を務めることに。

「ずっと、くやしいと思っていましたが、あるときプロデューサーが何かの対談で“かずえの提案だった”と言ってくれたので、もうスッキリしました(笑い)」

 4年間で8本もの大映ドラマに出演した伊藤は、押しも押されもせぬ看板女優となっていたが、意外にも街中で声をかけられることは少なかったという。

「たまに不良学生が“伊藤かずえだ”って寄って来て握手を求められたりもしましたが、どの役柄もケンカが多くて強い役だったので、怖かったのかもしれませんね(笑い)」