全国の大学、会社から「講義をやって」とひっぱりだこの芸人・キングコング西野亮廣さん。“仕事の広げ方”“エンタメの仕掛け方”“イベント集客”などのノウハウを型破りな視点で語り、聴衆の度肝を抜いている。
「テレビの仕事をやめる」と宣言してから10年――。漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長など肩書を自由に飛び越え、上場企業の顧問にも就任しちゃった西野さん。どうやって“好きな仕事だけが舞い込む働き方”を手に入れたのか。その秘密を綴った異色のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』の一部を、8月12日の発売に先駆けて特別掲載していきます。(毎週金曜更新)

 レギュラー番組以外のテレビの仕事を全て切り落として以降、僕は、“芸人はひな壇に出ないと飯が食えないのか?”という問いの答えを探した。

 ちなみに、ここでいう「ひな壇」は、もちろんテレビの「ひな壇」の話。

「ひな壇」というスタイルは、1985年にスタートした『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の頃からあって、ただ、その頃は単に「ひな壇状」に出演者席が配置されていただけで、まだ「ひな壇」という名はついていなかったらしい。

 おそらく、『ダウンタウンDX』あたりから「ひな壇状」の座席配置がバラエティー番組のスタンダードになりはじめて、『アメト――ク!』で「ひな壇芸人」という名前がついて、ガチャコンッと大完成した感じ。

 飄々(ひょうひょう)とした表情で「ひな壇」に座っているタレントさんは、0コンマ何秒を争う居合抜きの達人のような人ばかりで、皆、とんでもない才能。

 そんな中、僕の「ひな壇」の戦績はというと、デビュー当時から連戦連敗。まるで白星が付かなかった。向いてなかったんだね。

「それでも、その中で努力しろよ」と叱られたらそれまでなんだけど、10点ぐらいの能力を60点に伸ばしたところで、プロの世界の60点は需要に繋がらない。

 需要が無ければ0点と一緒だ。

 ならば、「ひな壇」の能力は10点どころか0点でいいから、その能力を伸ばす時間を、どこかに埋まっている自分の70点の能力を120点まで伸ばす作業に回そうと思った。

 つまり、早々に「ひな壇」に白旗を上げちゃったわけだ。

 そんなこんなで25歳の頃に「僕は、ひな壇では勝てないから、ひな壇に出ません」と宣言したところ、ネットニュースお得意の切り取りハラスメントに遭った。

「ひな壇では勝てないから」の部分が切られ、「キンコン西野『俺はひな壇に出ない』」というタイトルが付けられ、それがどんどん脚色されて、ついには「キンコン西野、ひな壇批判!」というタイトルになった。

 そのニュースを鵜呑みにした先輩方からは当時ずいぶん怒られて、「いや、違うんですよ。あれはですね……」と、地獄的に面倒くさかった。

 もっとも、ニュースの一件がなかったとしても、どこからか「皆やってるんだから、やれよ」という謎の仲間意識が発動して、「そうだそうだ!何、カッコつけてんだ!」と、やっぱり面倒臭いことになっていたと思う。

 ザックリ言うと僕が「ひな壇」から退いた経緯はそんな感じ。早々に白旗を上げて、同業者や世間からバッシングを浴びた。

まもなく「ひな壇」は無くなる

 そんでもって、ここからは僕個人の「ひな壇」の話ではなくて、テレビ全体の「ひな壇」の話。

 結論から言うと、まもなく、ほとんどの「ひな壇」は無くなると思う。

 あいかわらず「ひな壇」はメチャクチャ面白いんだけれど、面白さとは別の理由で無くなると思う。

「何故、無くなるか?」を語る前に、「そもそも、1985年から存在していたものが、何故、急激に広まったか?」を考えたら、より分かりやすいかもしれない。

 テレビの「ひな壇」が盛り上がりだした時、どんな時代だったか?

「ひな壇」の盛り上がりと時を同じくして、薄型テレビが急激に普及し始め、皆、テレビのサイズをステータスとした。

「こいつの家のテレビ、40インチらしいぜ」

「いやいや、それでいったら、あいつの家は、50インチ!」

「スッゲーなー。大成功してんじゃん!」

 といった感じで競ったわけだ。

 薄型テレビが急激に普及し、テレビ画面の面積が拡大した。そうなってくると、登場人物が多くないと画面がスカスカになって据わり(バランス)が悪くなる。

 その時に、「ひな壇」という、そもそもメチャクチャ面白い仕組みがマッチしたというわけ。

 ただ、今の若い子はテレビをつけない。一人暮らしだと、そもそも家にテレビがなかったりする。

 じゃあ、「テレビ番組を観ないか?」というと、そうではなくて、相変わらずテレビ番組は観るんだけれど、ハード(受像機)としてのテレビは使わず、スマホで観ている。テレビ番組を観るためのメインのデバイスが変わったわけだ。

 スマホの画面の面積なんて、一辺が10cmもないから、その時、登場人物が多い「ひな壇」は、単純に“ゴチャゴチャして見にくい”。

「面白い・面白くない」ではなく、見にくい。これは『面積』の問題。

「ひな壇」はテクノロジーに殺されるんじゃないかな?

 スマホで番組を観るなら、登場人物は1人か、せいぜい2人がベスト。

 だから、YouTuberが重宝される。

 芸人でいえば、次は落語家さんの時代じゃないかな。

 これから先、テレビ番組の登場人物は減り、チームプレイは減り、個で成立する人が残っていくと思う。

 そういう時代が本格的に来るのは、まだもう少し先だとは思うけど、「ひな壇」に白旗を上げてタップリ時間が余っているので、とりあえず対応できる身体は作っておこうと思ってます。

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《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。

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