数字は嘘をつかない。よくこう言われます。病院を選ぶときも、病気ごとの診療実績を数値で比較するランキング本が大人気です。しかし、経済でもスポーツでも、その世界特有の数字には素人にはわかりにくい“裏の顔”があります。そこで、『サンデー・ジャポン』(TBSテレビ系)でお馴染みの山王病院副院長・奥仲哲弥先生に、病院ランキング本に対する“医者のホンネ”を聞いてみました。

■症例数だけでは“病院の実力”は測れない

 ランキング本には、各病院の診療実績が載っていますが、公表されている数字は各病院の“自己申告”です。信用してもいいのかどうかは気になるところ。

「患者さんの年齢やがんの進行度も明記されていないと厳密な判断はできませんが、最近はだいぶ細かい情報まで掲載されるようになりました。誤った情報を出すと病院の信用にかかわりますから、数字自体の信頼性は高いと言えるでしょう」(奥仲先生、以下同)

 日本人の死因第1位はがん。ランキング本を見ると、がん患者の多くを占める、胃がん、大腸がん、乳がんなどは、どの病院も手術例が豊富です。しかし、奥仲先生は、症例数が多ければ多いほど技量が上がるわけではない、と指摘します。

「実は、患者数の多いがん手術は、症例数が100を超えれば、あとはほとんど同じ。100症例の病院と500を超える症例数を誇る病院を比較しても、技量はほぼ同等です」

 それでも、病院選びで迷ったときは、ある数字に注目するとよいとのこと。

「まず、入院の平均日数が載っていたら、それが短い方が“技術的にうまい”という目安になります。ただし、東京よりベッドの空きが多い地方の病院では、入院日数が長くなる傾向がありますし、入院患者さんの年齢にもよりますので、同じ地域の病院を比較するのがポイントです」

■乳がん専門クリニックはここをチェック

 それ以外にも、乳がんの手術は、大学病院より乳がん専門クリニックのほうが多く手がけていることがあると言い、チェックポイントを挙げてくれました。

もしクリニックを選ぶなら、『センチネルリンパ節生検』を行っているかどうか確かめましょう。センチネルリンパ節は腋の下にあって、乳がんのがん細胞がリンパ液に乗って最初にたどり着くリンパ節のこと。センチネルリンパ節生検とは、ここにがん細胞があるかないかで転移の有無を調べる検査ですが、手間がかかるため、これが行われていれば、ある程度先進的な施設と判断できます。

 また、乳がん専門クリニックは、通常『乳腺専門医』の資格をもった院長がひとりで切り盛りしていると思いますが、そのほかに『非常勤医師』がいるかどうかも大切なポイントです

 大学から医師が非常勤できているようであれば、個人病院で対応できないときなど、大学病院への紹介がスムーズに行われるのが期待できるからだそうです。

■ランキング本の賢い使い方

 奥仲先生によれば、ランキング本がもっとも役に立つのは、胆管がん、膵臓がんといった珍しいがん(希少がん)の治療先を探す場合なのだとか。

「五大がんとは違い、希少がんの手術例は有名な大学病院でも年間10~20例ほどしかありません。たとえば胆管がんの治療を受けもつのは消化器外科ですが、ある大学病院の消化器外科に医者が12人いた場合、年に一度も胆管がんの手術が経験できない医者もいることになります」

 さらに、ランキング本の小さな情報から次々とたどっていくことで、より詳しい情報を手に入れることも可能だと言います。

「ランキング本で希少がんの手術数が多い病院を見つけたら、その病院のホームページを見ると、どんな医者が担当しているのかもわかります。担当する科の主任教授や部長の専門分野が目的とする希少がんであれば、まず間違いありません

 もしかしたら、あなたの地元に隠れた名医がいるかも。

奥仲先生の新刊『「余命3ヵ月」と伝えるときの医者のホンネ』(定価1296円)。著者が本音で語る、“病院の常識”にだまされずに、最善の医療が受けられる知恵・心得を紹介。
奥仲先生の新刊『「余命3ヵ月」と伝えるときの医者のホンネ』(定価1296円)。著者が本音で語る、“病院の常識”にだまされずに、最善の医療が受けられる知恵・心得を紹介。