国立大学の学長が新入生にスマホ依存症から脱するよう求めたことをめぐり、賛否両論が渦巻いている。学長発言は正論か、暴論か。そもそもスマホ依存症とは何か。発言の背景にある最新スマホ事情の功罪を追うと――。


 北関東在住の女子大生A子さん(21)は大学院進学を目指している。少しでも勉強しなければならない。しかし、スマホを動画サイトにつなぎ、雑談する姿を配信している。

「常に勉強をやらなければいけないという気持ちが先行して精神的にキツい。でも、動画サイトでつながると、ひとりじゃないという安心感が生まれ、楽になる。心の拠り所になっているので否定したくない。それにネットだけに依存しているわけではない」

とA子さん。

 配信してないときにはサイトで知り合った人たちと通信アプリでつながる。サイトにつないでいなくても、ネットへの心理的依存はある。

「何が楽しいの? と言われることもあるけど、学校だけでつながる人間関係よりも視野が広がる。変な人もいるけど、それも経験かな。あまりにもしつこい人なら、ネットだからこそ、簡単に切れる」(A子さん)

 18歳を過ぎると、フィルタリングの規制からははずれ、出会い系サイトやアダルトサイトへのアクセスも可能になる。児童買春や児童ポルノでの保護対象ではなくなる。自己責任となるため、気をつけなければならないことも。

20150428 smartphone (2)


 首都圏に住む20代のB子さんは、18歳からネットの中の人間関係に依存的になっていった。寂しさから、知り合った男性と頻繁に会った。普通に話しただけの関係もあったが、望まない性的な行為もあった。

「いい人なのかと思って、ある男性と会った。車に乗せてもらったら、足を触ってきた。私は震えていたが、男性はそれを見てか、"帰ろう"と言いだした」(B子さん)

 罪悪感があったのか、男性は「いくら欲しい?」と聞いてきた。B子さんは「5万」と答えると、言われた金額を置いていったという。

「これは一種の援助交際。そんなことするつもりはなかった。深く傷ついた」(B子さん)

 寂しさのあまり、ネットで知り合った相手に依存するケースは少なくない。最初は会うつもりがなくても、やりとりを重ねるうちにハードルは下がっていく。いい出会いもあれば、悪い出会いも。傷つくのは生身の自分だ。

 過度な依存やトラブルがあればなんらかのサインがある。千葉大学の藤川大祐教授(教育方法学)はこう述べる。

「学生、生徒であれば、学ぶ時間が減っていたり、睡眠時間が減る。いちばん危ないのは、生活が乱れて、学校に行かなくなってしまうこと」

 もしそうしたことに親として気がついたらどうすればよいか。西学院大学の鈴木謙介准教授(理論社会学)は、はこうアドバイスする。

「スマホだけの時間を減らしてあげることがいいかも。急に話を聞き出そうとしても話さない。スマホをいじっていてもいいから、面白いテレビがあったら"一緒に見ない?"と一緒にいる時間をつくるのが大事かもしれない」

 現代の学生がスマホやネットのスイッチを切るのは現実的ではない。依存しすぎないためには、バランスのとれた日常生活を送ること。そして、依存度が高くなってきたことに気づいたら、早めに専門家に相談することだ。

 文明のツールは使い方しだいで、よいほうにも悪いほうにも転ぶものだ。


ジャーナリスト/渋井哲也(しぶい・てつや) ● 1969年生まれ。長野日報の新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションやネット犯罪を取材。著書に『実録 闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)や『学校裏サイト』(晋遊舎)、『気をつけよう!携帯中毒』(汐文社)など