好きなタイミングで帝王切開、翌週には職場復帰も

アメリカで「スケジュール出産」ブーム。脳科学から見た問題点とは

2015年10月25日(日) 11時00分
〈週刊女性PRIME〉
2015年10月25日(日) 11時00分
〈週刊女性PRIME〉

アメリカでは、フルタイムで働くカップルを中心に、計画的な帝王切開による「スケジュール出産」が広がっている。年間の出産件数のうち、実に1/3が帝王切開によるもので、中には、出産の2日前まで普段どおり働き、翌週には職場復帰するという「ツワモノ」ママもいるとか。しかし、こうした効率重視の出産スタイルは、親子の愛情や絆に影響するおそれもあるという。「愛」と「絆」のメカニズムを研究するアメリカの社会神経科学者、ラリー・ヤング教授に話を聞いてみた。

■自分自身も、第一子は「スケジュール出産」だったが…

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ラリー・ヤング教授 ●理学博士。米エモリー大学医学部教授などを兼任。専門は社会神経科学。脳内で働くホルモンが、動物の絆や性行動に影響するメカニズムを解明してきた。一般向けの著書や、メディアでの明快な解説も世界各地で話題に

-アメリカで、「スケジュール出産」のための帝王切開は一般的なのでしょうか? 日本では、約2割の赤ちゃんが帝王切開で生まれていますが、背景にあるのは母子の健康上の理由が大きいかと思います。

「アメリカでは確かに、スケジュール重視の出産が人気になっています。実は、私自身の最初の子どもも、そうした計画的な帝王切開で生まれたんです。ただ、近年のさまざまな研究から、私たちは自然分娩や早期のスキンシップの重要性を認識するようになってきました

 たとえば、オキシトシンというホルモンには、身近な人の特徴〔声や顔つき、においなど〕に関する記憶を高めて、その人との絆を強める作用があります。近年の研究からは、このオキシトシンの量に、分娩や授乳、育児のスタイルが影響することがわかってきました」

-自然分娩(経腟分娩)と帝王切開の間には、どんな違いがあるのでしょうか?

「子宮口や膣の周りには、脳にオキシトシンの分泌をうながす神経があります。赤ちゃんが産道から出てくるときに、この神経が刺激され、お母さんの脳内には大量のオキシトシンが放出されます。ところが、帝王切開の場合、赤ちゃんが産道を通らずに出てくるので、この神経が刺激されにくくなります。オキシトシンのスイッチがあるルートを、赤ちゃんが迂回してしまうわけです」

■「帝王切開・粉ミルク=母子の絆が弱い」は誤解

-一方で、身体や命のことを考えて、帝王切開を選択する場合もあるかと思います。帝王切開で出産した後でも、オキシトシンの力を借りることはできるでしょうか?

「自然分娩ができない場合にも、スキンシップや声かけ、アイコンタクトといった身体的なふれあいによって、その分を補えるのではないかと思います。たとえば、出産後できるだけ早いタイミングで、お母さんの胸に赤ちゃんを触れさせてあげることは良いですね。もし、お母さんがすぐに赤ちゃんに会えない場合には、お父さんなど、他の家族が抱きしめてあげましょう。胸元が接するスキンシップは、自然分娩や授乳と同様、オキシトシン放出を促します」

--女性の胸にも、オキシトシンのスイッチがあるそうですね(詳しくはコチラの記事で)。

「そうなんです。赤ちゃんが乳首を吸うと、お母さんと赤ちゃん、両方のオキシトシンが増えることが知られています

 ただしこれは、『自然分娩をしていない女性や、粉ミルクで授乳をする女性が、赤ちゃんと絆を結べない』ということを意味しているのではありません。実際、養子縁組などで赤ちゃんを育てている両親が、その〔自分が出産・授乳をしたわけではない〕子に深い愛情を注ぐという例もあるわけです」

--男性も、自分では出産しませんが、父子の絆を築いていきますしね。

「そうですね。私たちの本(『性と愛の脳科学-魅力と相性の謎に迫る』中央公論新社)でも詳しく紹介していますが、スキンシップなどの身体的な交流は、お母さん、赤ちゃん、そしてお父さんにとっても、オキシトシン量を高める効果があります」

■帝王切開そのものではなく、効率にとらわれてしまうことが真の問題

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 最後に、ヤング教授はこんな話をしてくれた。

「効率に追われて、人間にとっていちばん重要な、親子の絆を築く機会を失ってしまうことは大きな問題です」

 こうした状況は、経済性を重視する職場環境や、ひとり親世帯・共働き世帯に「自己責任」を強いる社会の風潮によるものではないかと、ヤング教授は考えているという。

「赤ちゃんとのふれあいは、人間関係を円滑にし、社会を支える基盤となる『社会脳』の発達にもつながります。スウェーデンなどの国々で、父親の育児休暇を増やす動きがあるのも、そうした理由からです。神経科学研究の積み重ねから、出産についての社会の意識が少しずつ変わっていくと信じています」


取材・文 =坪子理美(つぼこ・さとみ) ●理学博士、翻訳者。メダカを材料に、動物の「個性」と「遺伝」の関係を探る研究に取り組み、博士号を取得。現在、生命科学の発展とライフスタイルへの影響をテーマに、一般向け科学書などの翻訳を行う。次回は「美容脱毛の文化史」についての書籍を翻訳予定。ヤング教授と、ジャーナリストのブライアン・アレグザンダー氏による共著『性と愛の脳科学-魅力と相性の謎に迫る』の翻訳者でもある。

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