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 待望の子どもが生まれ、この先には幸せしかないと思いきや、産後の母親の心身は、周囲が想像できないほどボロボロになっているという。不安や孤独感に駆られ、気づけば自殺を考えるように……。知られざる『産後うつ』の苦しみの深さとは?

 NPO法人『マドレボニータ』認定の産後セルフケアインストラクター・吉田紫磨子さんは、病院は受診しなかったが、産後うつを経験した。

「長女を出産した14年前は“産後うつ”という言葉が浸透しておらず、妊娠、出産の次は育児という概念でした。母子手帳にも“養生しましょう”くらいしか書いてない」

 実際は、産後は身体じゅうが痛く、骨盤もグラグラで歩くこともままならず、悪露と呼ばれる生理以上の出血を伴う分泌物の排出が、1か月ほど続く。悪露が出ている間は「子宮の中に大きな生傷がある状態」だ。治すには、横になっての養生に限る。

 吉田さんは実家で1か月休んだが、味わったのは退屈と孤独感。周囲のお母さんたちが余裕の笑顔で育児をしているように見えたそう。

「肩も腰も痛くて腱鞘炎にもなったけれど、“母親はつらいなんて言ってはいけないんだ、きっと私だけができていない”と思い込んでいました。3~4か月後、身体が悲鳴をあげ布団から起き上がれなくなりました。電車に乗ろうとするとパニックを起こすなど症状は深刻化。4年間待ち望んだ娘だったのに……」

 腫れ物に触るように接する夫も気に入らない。赤ちゃんとだけ過ごしていると言語や思考、アイデンティティーが失われる。泣く娘を抱くこともできず、ただ一緒に泣くしかできない。産後4~6か月後がピークで「“どうせ社会に必要とされていないんだ”と思うと吐いてしまい、死んでしまいたくなりました」。

 病院に行かなかった吉田さんを救ったのは、『マドレボニータ』が開催する教室だった。

「1時間の有酸素運動やバランスボールで身体が元気になり、這うようにして教室にたどり着いたのに、帰りは娘を抱いて帰ることができました。抱っこできないのは母性不足からだと自分を責めていましたが、母体の健康度が左右しているのだと実感しました」

 その後も身体を動かすことで回復していき、'04年からインストラクターを始めた。

 死の淵から、無事生還したが、「産後うつは、誰でもなる可能性があるんです」と言う。救うために周りができることについて、こう語る。

「とにかく母親をひとりにせず、休ませて。たわいもない話をしながら子どもを抱いてあげたり家事を少し手伝うだけでも、心身は大きく回復します。ヘルパーなどを雇うお金も、母親の健康のためなら必要経費です」