戦後の高度成長期を通じて、アメリカ型の核家族化が進み、専業主婦が根づいた日本の社会。'80年代後半からの女性の社会進出を経てもまだ、日本は専業主婦の国だと、少子化ジャーナリストの白河桃子さん。

「私が出会う女子大生や、働く20代の女性たちはいまだ、“いつかは専業主婦になりたい”と考えている子が多いです。それは最近の労働環境に起因しているのかもしれません」

 長時間労働や残業代がつかないなど、企業に対する“ブラック”なイメージが増加。仕事をすることへの不安から、できれば専業主婦になって自分の身を守りたい女性も少なくないのだ。

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■母を見て専業主婦に憧れ、父を見て結婚に不安を覚える

「学業を修めた後も完全なる専業主婦ではなく、子育てにある程度メドが立てば復帰できる仕事に、と思う女性は多いです。しかし仕事をしていれば、結婚・出産・子育てのすべてに影響するおそれがあると考えているのでしょう。

 今の女子大生世代が子どもだったころは、両親ともにフルタイムで共働きのご家庭は全体の2割くらいしかいませんでした。残りの8割は専業主婦やパートタイムのお母さんが多く、子どものころに、お母さんが家にいたという記憶が根づいている人が多いのです」(白河さん)

 両親を見て育った若い女性は、それをロールモデルに専業主婦への憧れで胸を膨らませており、一方で父親の姿から結婚相手に対して希望を持てずにいる。

「仕事にすべての時間をかけ、土日もいなかったり夜も遅い……という記憶があり、彼女たちのお父さんが育児や家事をしていなかったために、“自分が結婚をしても、家事や育児を一緒に担ってくれる男性はいないのではないか”という疑念を抱いているのだと思います」(白河さん)

 よくも悪くも父親から学んだ男性像によって、家事や育児はすべて自分が請け負わねばならないと思い込み、仕事への願望が減ってしまっているのではないか。

 '14年、博報堂が全国1万5000人にアンケートを実施。この『地域しあわせラボ リサーチレポート』の結果が、女性の幸福度と仕事や育児などの相関性について、白河さんの言葉を裏づけている。

 博報堂ソーシャルデザイン専門組織『issue+design』代表の筧裕介さんによると、

「調査結果を読み解いてみると、会社員女性よりも専業主婦のほうが幸福度が高く、子どもの数が多いほうが、さらに幸福度が上がる傾向にありました。

 会社勤めの女性は家庭と仕事のバランスをとることが難しく、仕事、もしくは子育てのいずれかを抑えざるをえず、結果として人生全般の幸福度が低くなると考えられます。女性の幸せは子育ての満足感と大きく関係しているように感じました」

 女性がキャリアアップを狙う場合、どうしても出産時期を考えざるをえないのが現状。理想の時期に子どもを産めなかったり、子どもの人数を制限せざるをえなくなれば、幸福度が下がってしまうのだ。

■イマドキ奥さんの“幸せ”は夫のサポート次第

「しかし、夫婦の共働き率が高いほど出生率が高いというデータもあります。福井県や島根県などの日本海側の都道府県では、共働き夫婦の子育てを支援するような環境が整っていて、仕事と育児を両立させやすいのです」(筧さん)

 女性活用が謳われる今、このような取り組みが全国的に広がればよいのだが、現実はそうもいかない。

「そこで必要なのは夫の助け。夫が育児や家事をする家の女の子は生涯年収が高くなるという調査もあります。奥さんの幸福度も高いです」(白河さん)

〈プロフィール〉

◎白河桃子さん

少子化ジャーナリスト、相模女子大学客員教授。『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ社)など著書多数

◎筧裕介さん

博報堂ソーシャルデザイン専門組織『issue+design』代表。社会課題解決のためのデザイン領域の研究・実践に取り組む