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ナチュラリープラスが入るタワービル

 2009年にあるマルチ商法を始めた都内に住む20代の女性。深くのめり込むことはなかったが、10数万円と、友人を失った。過去の苦い経験をゆっくりと話した。

「知り合いに誘われマルチを始めました。勧誘もしたけど、その友人とはやはり疎遠に。肌が若返るからと化粧品を買ったけど結局、効果はなかったです。今ではいい勉強代だったと思っています」

 今月9日、消費者庁は健康食品販売会社「ナチュラリープラス」(東京都港区)に特定商取引法違反で3月10日から9か月間、業務の一部停止を命じた。

 同社の勧誘者が消費者に勧誘目的を告げず、勧誘者の自宅やセミナーへ誘い「1か月飲み続けるとどんな病気でもよくなる」「はじめに2人友達を勧誘すれば後はなにもしなくても必ず儲かる」などと虚偽の説明をし、帰りたがる消費者に執拗に勧誘を続け、強引に契約を締結していた。

 マルチ商法とは、勧誘して自身の子会員を作る。その子会員がさらに勧誘・販売を行うことで親にもバックマージンが入る仕組み。金品のやりとりだけのねずみ講と混同されがちだが、マルチ商法の場合は商品が介在し、法律で認められた販売方法だ。だが全国でトラブルが相次いでいる。

 全国の消費生活センターへ寄せられるマルチ商法の相談件数は'05年には2万1700件だったが'13年には1万32件と半数以下に減少。だが翌年には1万1907件と増加。

「近年ではSNSの普及がマルチの被害を助長しています。グループチャット機能がついたSNSで、何百人といるグループチャットで付近にいる仲間へと呼びかけ、すぐにチームを組んで集合し、勧誘を行う。マルチはSNSとの親和性が非常に高いですね」(国民生活センターの小池輝明さん)

 就活時期の学生にも魔の手が忍び寄る。今月3日、東京都が特定商取引法違反により健康食品販売会社「M3」(東京都港区)に一部業務停止を命じた。平均被害額は約8万9000円、被害者の平均年齢は23.5歳だ。

「商品も低額でお金のない大学生を狙ったとしか思えない」(小池さん)

 被害者はずっとお金が入ってくるなどと言葉巧みに数万円の入会金と約1万円の健康食品を購入する契約を結ばされていた。トラブルに遭遇した場合の対処法を小池さんは、こうアドバイスする。

「興味がない、誰かと相談すると伝え、頑なに拒んでください。マルチ商法の場合は20日以内であればクーリングオフが可能です。消費者ホットライン188に電話してもらえればお力になることができます。困ったら即電話を」

 消費者問題に詳しいリンク総合法律事務所の紀藤正樹弁護士にも話を聞いた。

「ナチュラリープラスは“病気が治る”と商品を販売していました。これは薬事法違反です。本当に効果が実証されているわけではない。それで治らなければどうするのって話です。それこそ“価値のない水”を売っていることになる。これだと商品を売っているようで売っていない。つまりねずみ講と変わりませんよ」

 さらに、行政処分の甘さを指摘。

「ルール破りは市場から撤退させる、得た利益を課徴金として剥奪するなどの制度が必要です。今回の処分はマルチ商法を法的に許される取引として認めてよいのかが問われていると思います」