人間ドキュメント・松田真紀さん④

故・松田直樹選手の姉「突然襲った弟の死、そして踏み出した1歩」

2016年02月21日(日) 05時00分
〈週刊女性2016年2月16日号〉
2016年02月21日(日) 05時00分
〈週刊女性2016年2月16日号〉

 もしもあのときAEDがあったら、彼は助かったかもしれない……。多くのファン、選手に愛されたサッカー元日本代表・松田直樹の訃報が全国を駆け巡ったのは5年前の夏のこと。悲しみの中、愛する弟の最期を看取った姉は今、ひとりでも多くの命が救われることを願い、自らも新たな1歩を踏み出したーー
(人間ドキュメント・松田真紀さん/第4回)

 ◇   ◇   ◇

 松田が活躍した2000年代半ば、30代中盤に差しかかった彼女自身も、医療事務から看護師へ転身を図ろうとしていた。その職場が看護学校に通いながら働ける環境だったこと、'01年に父・正彰さんが亡くなり、自身が家族を支えていかなければならないという覚悟を強めたことが、真紀さんの奮起をうながした。

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 看護学校は准看護師が2年、正看護師が3年というのが一般的だが、働きながら勉強していた真紀さんは6年という長い時間を費やして資格を取得。40歳を過ぎてから看護師としてのキャリアをスタートさせた。松田と同様、姉も相当な頑張り屋なのだ。

「弟もよく“姉ちゃんの気の強さにはかなわない”と言っていました」と、真紀さん。とはいえ、最初はそこまで負担の重くない病院に勤務していた。「医療のために身を捧げるとか高尚な気持ちはなく、看護師をひとつの仕事としてとらえていただけです」というのが本音だったという。

 そんな真紀さんを襲った弟の突然の死。彼女は看護師として弟に何もしてあげられなかったことを悔やんだ。同時に、急性心筋梗塞という未知なる病に直面。信州大学病院で施された高度な医療技術を目の当たりにし、「自分もこのままではいけない。弟の死を無駄にはできない」と強い危機感を覚えたという。

「救急救命についてもっとよく知りたい」という気持ちが湧き上がった彼女はこの直後、思い切って国立の病院へ転職した。

 しかし、新たな病院は勤務が想像を絶するほどハードだった。残業は当たり前で、若い看護師でなければこの勤務形態についていくのは難しい。40代の真紀さんには負担が重すぎた。そこで、彼女は翌'12年4月に現在の済生会前橋病院へ移る。病院関係者の知人のすすめが心に響き、3つ目の医療現場に赴く決断をした。

[写真]済生会前橋病院の同僚と

[写真]済生会前橋病院の同僚と

「循環器内科・心臓血管外科で働いています。直樹と同じ急性心筋梗塞の患者さんに関われる部署にいることで、自分なりに弟のことを振り返ることができるようになりました。今では叱咤激励されながら、カテーテル検査(血管造影検査)にも入らせてもらっています。

 最初は仕事についていけず、本当に苦労しましたが、同期の看護師が支えてくれました。年齢は22~23歳で自分よりはるかに若いんですけど、常日ごろから“一緒に頑張ろうよ”と励ましてくれました。12月のチャリティーマッチのAED講習会にも、その中の2人が参加したので、ドキドキしながら見ていました。今回、試合に参加された選手の方たちにも、こういった地道な活動を知ってほしいし、機会があれば協力してもらえるとありがたいです」

 と、真紀さんは前を向く。

 松田が亡くなった後に発足したAED普及のための団体「一般社団法人・松田直樹メモリアル」のほうは、関係者間の考え方のズレから一時休止状態だったが、真紀さんが率先して地元・群馬の人たちや松田の仲間たち、サポーターも巻き込んで、身近なところからできる範囲で活動をコツコツと広げていきたいと考えている。

「昨年9月に地元の少年サッカー大会で、初めて自分自身でAEDに関する講習会をしました。“さいたま市で駅伝大会に参加していた女の子が急に倒れ、AEDが使われなかったために助かる命が失われた”という例があったことを話したところ、直樹の出身小学校である天沼FCの子どもたちがものすごく関心を持ってくれました。昨年12月には、ヤマダ電機主催で、プロ野球独立リーグ・BCリーグに所属する群馬ダイヤモンドペガサスや前橋育英高校サッカー部OBの協力をいただきながら、AED講習会も行いました」

 こうした場で、今は話をすることが中心だが、今後は自分でも病院の仲間たちのように率先して救急救命の指導に携わっていきたい……。真紀さんは、内に秘めた決意を口にした。

「倒れている人がいたら人を呼ぶ、AEDを取りに行く、心臓マッサージを施す、人工呼吸をするというように、できることはたくさんあります。いちばん伝えたいのは“少しの勇気で救える命があることを知ってほしい。完璧でなくてもいいので、自分にできることをしてもらいたい”ということなんです。

 AEDにも数多くのメーカーがあるので、ひとつの商品を使えたらOKというわけではありません。そういう知識の普及に役立てればうれしいです。とにかく、直樹の死が無駄にならないようにしたいという気持ちが今は強いです」

(文中敬称略)

取材・文/元川悦子
撮影/高梨俊浩

※「人間ドキュメント・松田真紀さん」は5回に分けて掲載します。最終回「できるところから、弟の思いを伝えていく」は本日16時配信です。

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