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 憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を可能にした安保関連法は、専守防衛を掲げる憲法を骨抜きにするものとして批判を集めた。そこへ緊急事態条項が書き加えられると、日本の平和や安全保障はどうなるのか。

 東京新聞の半田滋論説兼編集委員はこう指摘する。

「緊急事態条項は、アメリカの戦争に自衛隊を送り出すための仕掛けになります」

 安保関連法では、日本と密接な関係にあるアメリカなどの国が武力攻撃され、日本の存立が脅かされる明白な危機がある『存立危機事態』、放っておいたら日本への武力攻撃の恐れがある『重要影響事態』と認定するには、原則的に事前の国会承認が必要。

 これが緊急事態宣言の発動後、内閣の判断で決めてもかまわない状況とされたら、自衛隊の海外派遣は簡単になる。

「自民党改憲草案98条の“外部からの武力攻撃”に『存立危機事態』を入れる可能性もあります。日本が武力攻撃を直接受けていなくても、存立危機事態であると言って、自衛隊に海外で戦争をさせるようなことが起きてくるかもしれません」(半田さん)

 知らない間に戦争が始まり、自衛隊が駆り出され、それを私たちが知るのはかなり時間がたってから。しかも詳しい場所や犠牲者の数は伏せたまま。そんな事態も考えられるという。

「すでに特定秘密保護法も施行されていますし、日本版NSC(国家安全保障会議)もある。緊急事態条項で先に派遣を決めて、送り出して、あとから国会に諮るでしょうね。集団的自衛権もODA大綱も、なんでも閣議決定で変えてしまう安倍首相がいちいち国会に諮って聞くわけがない」(半田さん)

 暮らしにも影響が及ぶ。国民に次のような“協力の義務”が課せられる。

「JRや航空会社、通信会社などの指定公共機関に戦争協力の義務が生じます。国民も、これに対して協力しなければならないという方針が立てられる。例えば、自衛隊や米軍を輸送するのが先で民間人は後回しにされるとか。あるいは、自衛隊が通るから道路はずっと赤信号のまま。極端なことをいうとデモが禁止されてしまう恐れもある」(半田さん)

 ただし、これでもまだ安倍首相の目指す「普通の国」には不十分。自衛隊を「普通の軍隊」に変えるには憲法9条の改正が欠かせない。

「安保関連法は相当に踏み込んだ内容で憲法違反の疑いがあることは間違いないけれど、自民党改憲草案が定める国防軍には不十分。専守防衛の枠に限らず、武力による他国の攻撃を認める。太平洋戦争の反省から海外でけっして武力行使をしないという一線を完全に断ち切ってしまうのが9条の改正です」(半田さん)

 さらに自民党の改憲草案には“審判所”を置くと書いてある。

「ここから軍事裁判所の位置づけが読み取れます。軍法という法律を新たに作り、その法律に基づいて自衛隊は活動するということ」(半田さん)

 軍事裁判では任務に忠実かどうかが判断基準になる。たとえ人を死なせた場合でも軍務に忠実であれば、無罪になってしまう。

「'01年にアメリカの原子力潜水艦と日本の漁業練習船『えひめまる』の衝突事故がありましたが、日本側に死者が出たにもかかわらず米艦の艦長は軍法会議にもかけられなかった。米軍に対する反発は、日本を見下しているような振る舞いだったり、事件・事故のときに特別待遇を受けたりすることが背景にある。

 ところが9条を変えると、同じ感情を今度は自衛隊に持つ恐れが出てくる。自衛隊は特権意識を持って、えらくなったように振る舞うかもしれない。戦前の軍隊と国民の関係に逆戻りです。国家のための国防軍になる」(半田さん)

 悪夢のような未来予想図だ。にもかかわらず、なぜ憲法を変えなければならないのか。安倍首相はまるで説明をしていない。

「憲法を変えるということは国の形が変わり、社会の仕組みが変わり、私たちの生活を大きく変えるということ。防衛費が増えれば増税、社会保障費の削減、年金引き下げといった形で必ず国民生活に直接はね返ってくるし、現にそうなりつつあります。はたして、それでいいのか考えないといけない」(半田さん)