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 いまや、地方公務員の3人に1人は非正規公務員。'12年の総務省の調査では、全国の60万3582人の非正規公務員のうち女性は44万8072人と4分の3を占めている。つまり、全地方公務員の4人に1人が女性非正規公務員。

 また非正規公務員には、同一労働同一勤務時間であってもボーナスや手当がないため、正職員と比べた場合の年収は約4分の1。'08年でみると、フルタイムで働く非正規の地方公務員の時給換算給与は平均808円。

 対して、正職員は2000円超。非正規公務員であるがゆえに低収入、かつ、不安定な生活を強いられる彼女たちは『官製ワーキングプア』と言える。

 問題は、この賃金では、シングルマザーなどの非正規公務員が貧困に陥ることだ。

 筆者が過去に取材した女性の中に、埼玉県の公立中学校に勤務する非正規の教師がいた。時給は1300円台だったが、1日の労働時間が短く、授業のない夏休みや春休みは賃金ゼロのため年収わずかに80万円。生活保護を受けていた。異常な労働環境である。

「非正規公務員の問題は、つまるところ女性問題です。これを放置している国の責任は極めて重い」

 こう言い切るのは、地方自治総合研究所の上林陽治研究員だ。

 国連のILO(国際労働機関)が、日本政府に対し「早急に女性均等待遇を図るべき」との勧告を出したことがある。

「しかし、厚生労働省にすれば、勧告は民間企業が対象であり、公務は対象外。国内法もそうです。'13年に『改正労働契約法』が施行されました。これは、連続5年を超えて働いた非正規職員が“申請すれば”、会社はその労働者を正職員にしなければならないとする法律ですが、これも公務員は対象外。非正規公務員は国から、その労働環境を放置されているんです」

 もちろん、諸外国にも1年契約などの有期雇用はある。だが、正規か非正規かだけで、ここまでの格差を生み出すのは日本と韓国だけと上林さんは説明する。

 さらに、日本の有期雇用での問題は、更新回数に制限を設ける事例が多いことだ。つまり、いつかは必ずクビになる制度が用意されている。

 かつては、非正規公務員の多くは、中嶋さんや時任さんが抱いていた「いつまでも働ける」との期待をもてた。それが変わり始めたのが'04年、東京都中野区で28人の非正規保育士全員が、任期満了になる年度末に解雇された事件だ。4人が職場復帰を求めて提訴。

 '07年11月、東京高裁は「4人の任用は9回から11回と多く、再任用は形式的だった」と期待権を認める判決を出した。

 これに衝撃を受けた都が用意したのが、翌'08年に導入した、任用の更新を4回までとする5年有期雇用だ。この制度に異を唱えたことも原因であろう雇い止めのケースもある。

 非正規公務員は格差のなかで仕事をして、クビになるのを待つだけなのか? この疑問に上林さんは「経営者次第です」と断言する。例えば、東京都荒川区。

 区の職員労働組合が、全職員の3人に1人を占める非正規職員にアンケートをとると、「正規と同じ仕事なのに待遇が違いすぎる」「超勤手当もない。このままでは働く意欲が失せる」との声が上がり、白石孝書記長(当時)や区長が「非正規がいてこそ公務が回る。大切にすべきだ」と対策に乗り出したのだ。

 その結果、'07年度から、非常勤職員を能力に応じて正職員の一般職、主任主事職、係長に準ずる三分類化し、それぞれに妥当な賃金設定をした。さらに、雇用年限の撤廃、超勤手当支給、病休(有給)、育児休業、介護休業なども拡充させた。

 東京都の町田市立図書館も他の公立図書館と同様、多くの非正規職員で運営を回していた。だが経験がいる図書館業務で5年有期雇用を続けていては「図書館がもたない」と図書館長があるとき気づいた。

 そこで、図書館司書の資格を取得すれば雇い止めしないとのルールを定めたのだ。これが歓迎されたのは当然だった。

「このように、職場の数年先を見ている労組や管理者は圧倒的少数です。それを安倍政権の『一億総活躍社会』や『女性の活躍推進』政策が変えるかというと、変わるはずがない。第2次安倍政権が発足したときも『待機児童の早期解消プラン』はあったけれど実際は何もやらなかった。

 それがブログから社会問題となった途端、あわてて動き出した。『地方創生』だって何の動きもない。しかし、社会改革に関しては、何もやらなかったらおしまいです。やるならもう今だと思うんです」(上林さん)

取材・文/樫田秀樹