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熊本地震でタンクが決壊した黒川第一水力発電所

 震度7の揺れに2度も襲われた熊本地震から約1か月が過ぎた。同県内だけで約4万棟の住宅が被害を受け、そのうち約3000棟が全壊。さらに約4万4000棟の住宅被害があるとされているが、被害の全貌をまだ把握できない状況だ。

 住宅に加えて、道路が寸断され、橋が落ち、医療機関も診察ができないなど生活基盤もズタズタになった。

■熊本県の住宅の耐震化率は全国平均を下回る

 災害リスクや避難経路の調査などを行う『災害リスク評価研究所』の松島康生代表はこう話す。

「過去に何度も地震被害に遭っている地域とそうでない地域とでは、自治体の職員や地元議員、住民にいたるまで防災への意識や取り組みがまったく違う。それらは住宅の耐震化、避難訓練の実績、防災に対する予算のかけ方に大きな差となってあらわれます」

 一般に、災害時には日ごろの備え以上の対応はできないと言われている。九州地方は規模の大きな地震が比較的少ない地域。熊本県の住宅の耐震化率は2013年時点で73%にとどまり全国平均の82%を下回る。

■新設の高齢者施設の隠れた地盤リスク

 地震被害が著しいのは住宅だけではない。病院や老人ホームも被災した。県内にある医療機関の約20施設が救急患者の受け入れや検査を制限しており、4施設はいまだ建物が使えない状況だ。高齢者施設は県内の1234施設中4割が損傷。このうち益城町などの11施設が使用不能になっているという。

「高齢者施設を作る際に、どのような土地で、どういったリスクを抱えているのか、きちんと把握している自治体や事業者はほとんどいません。揺れやすさ、津波、洪水、液状化と、そのリスクは地域ごとに異なる。正確なリスクを踏まえずに災害対策は図れません。

 とりわけ最近になって新設された高齢者施設は、地盤が弱い“市街化調整区域”に建てられたものが多く、地震時に液状化や地盤の陥没を起こしやすい。これは熊本だけでなく全国的な傾向と言えます」(松島代表)

■耐震基準を強化すれば費用も増す

 熊本県は耐震化率の引き上げを目指すが、現在の耐震基準は、そもそも大きな揺れが同じ地点で2度繰り返されるような事態を想定していない。

 石井啓一国土交通大臣は今月18日、参院予算委員会で、震度6強から7の揺れでも倒壊しない強度を目指した、阪神・淡路大震災後に新設された耐震基準を満たす木造住宅で被害が出ていることに触れ、基準の見直しを示唆している。

 松島さんは、「耐震基準を強化したほうがいいとは思うが」と前置きして、こう指摘。

「基準を引き上げるとなれば費用はさらに増す。お年寄りのなかには、家の補強や建て替え工事を諦める人も出てくるでしょう。例えば、寝室だけとか部屋の一部を鉄骨で強化する“耐震シェルター”という方法もある。これに自治体が補助金を出すなどして防災強化を図ることもできます」

 そのうえで継続的な耐震診断が重要という。

「老朽化の影響を考慮する必要があります。5年、10年おきに耐震診断を行うべきです」

 住宅よりはるかに長く使う公共インフラはいま差し迫った危機に陥っている。1970年ごろに建設のピークを迎えたインフラは老朽化が進み、いまや崩壊への秒読み段階。

 活断層だらけ&いたるところにガタが来ている「老朽化社会」の実態に、今日から4日間、7本の記事で迫る。