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『牡丹と薔薇』に登場した牛革財布ステーキ

 女たちの情念がぶつかり合う“ドロドロ展開の昼ドラ=「昼ドロ」”を生み出した脚本家の中島丈博さん。平成に入ってからは最多となる12本もの脚本を担当した“昼ドラの帝王”と呼ばれる巨匠に、昼ドラの魅力についてたっぷりと伺った。

 約20年前、初めて昼ドラ執筆の依頼があった当初は、それほど乗り気ではなかったと話す。

「軽い気持ちで受けてね、実際に書いてみたら、とっても面白かった(笑い)。昼ドラって時間がたっぷりあるから、人間の情感とか葛藤を書き込めるんですよ。セリフもね、どれだけ書いても大丈夫。

 30分が全60回くらい、最近は40回前後のものもあったけど、この長さでセリフを中心にガンガン押していける、脚本家にとって面白いドラマだったんです。

 大河ドラマをやったこともあって長いものは書き慣れていたし、嫌いじゃなかった。書く醍醐味もある。それが昼ドラのよさだったんです。だからついつい深入りして12本も書いてしまったけど、そういった意味では僕にとって、昼ドラは意外や鉱脈だったね(笑い)」

 普段は午前中から書き始め、夕方6時ごろには仕事を終えるという。

「1話分は400字詰め原稿用紙で30枚くらい書きます。それを60回だから、全部で1800枚。ストーリー作りから始めて書き終わるまで、8か月はかかる。昼ドラの執筆は大仕事です。

 でもテンションが上がると、途中でやめたくなくて、この回が終わるまで書いちゃおう、って深夜までかかって1日で1話を仕上げることもありました。でも、そういうときは面白く書けている。ライターズハイになっているんですね」

 中島作品といえば、なんといっても『真珠夫人』と『牡丹と薔薇』。ドロドロの展開と強烈な印象を残すセリフに釘づけになった人も多いはず。

「とにかく面白がって書いていました。葛藤劇は、男女よりも女同士のほうが面白い。ドロドロ度が倍増するんです。恨み、妬み、誤解、口も出るしね。そういう葛藤を背負い込んで、姉妹や女が対峙すると面白くなる。

 男女の話でドロドロをやろうと思うと、純愛になるわけですよ。2人の純愛をいろんな人があの手この手で阻害する、そこにドロドロがあるんです。

 セリフもそうです。パンチのあるセリフが欲しいと思うから、“役立たずのブタ!”とか罵倒するセリフを過激に書いているうちに、話題になっちゃって(笑い)。でも、それは情念の爆発なんです。

 それから『真珠夫人』から始まった“たわしコロッケ”みたいな珍料理はね、最初は単なる思いつき(笑い)。昔の恋人を思い続ける夫に妻からの嫌がらせ、嫉妬を絡めてね、わざと知らんぷりして“コロッケよ”って出して、夫が驚く効果を狙ったんです。

 主婦が嫌がらせをするなら、やっぱり料理だと思ってやったらウケて、次から“何かない?”って言われるわけ。それで『牡丹と薔薇』では“財布ステーキ”を出した。“わらじコロッケ”とか、画面に“殺す”って文字を刻んだ携帯電話入りケーキなんてのもあったね(笑い)」