私は“普通”という言葉がいちばん怖いと思っていて。普通なんて、ないんです。みんなそれぞれに個性があって違うのに、“普通こうだろう”という言葉で抑えつけようとする社会の風潮に、疑問を投げかけたいんです

 渡辺えり(63)が脚本、演出を手がけ役者としても出演する舞台『肉の海』が、間もなく幕を上げる。

 インターネットの世界と、現実との線引きが曖昧(あいまい)になりつつある現代社会への危惧(きぐ)を、表現を通じて問いかける。

「昔から人々は言葉には魂が宿ると考えていて、書くことで紙に託してきた。でも今はデジタル化が進んで、紙は永遠に残せるけど、データは50年で消えてしまうという時代。人々はそれに対して、どのように対処していくんだろうと考えたんです」

ときに和やかに、しかし稽古が始まると、ガラリと空気が変わる。撮影/高梨俊浩
ときに和やかに、しかし稽古が始まると、ガラリと空気が変わる。撮影/高梨俊浩

 充満しすぎたインターネット、SNS社会への危機意識も、今作のひとつの軸になっている。

「とても便利な反面、インターネットは情報が操作されやすいという危険もあって。世界ではいろんなことが起きているのに、芸能人の不倫やら偏ったニュースばかり人々の手元に届いていると、まるで世界では何も起きてないかのように感じてしまうんではないか、と怖くなるんです

 しかし、自身も“偏った情報”についつい目がいってしまうときがあるんだとか。

夜中にニュースサイトなどを見ていて、知っている芸能人の方の名前が出てくるとクリックしてしまうんです。“○○の整形疑惑!”とか見出しがあると“え、そうなの!?”とつい見ちゃうじゃないですか(笑)。気にしなくてもいいようなことを気にしてしまって、本当に知らなくてはいけない情報を見過ごしているような気がして。だからニュースサイトなどを見るときは、情報を取捨選択するよう気をつけています